第47話
ハーヴェイが去って3日が経った。
まず、オレの怪我だが、右肩の刀傷はともかく右ひじがあまりに重傷で、
「ん……んー、ううん……。これは、私じゃ治せなさそう」
というシイナの判断で、首都のマルクト神殿で治療を受けることにした。
担当してくれたシスターが〈
肩の固定は今日になってはずれたが、ひじから先は相変わらずだ。
しかもこの状態があと1週間続くそうだ。
ハーヴェイの『瞳の力』ヤバいわ……。
そしてユイミの仕事だが、
「もう手段を選んでいられませんわ!」
と、親族権限でシイナを自分の秘書にしてしまった。
オレも雇われたのだが、左手しか使えないうえに頭が悪くて
「テイルさん。貴方要りません。邪魔です。宿で寝てなさい」
と半日でクビにされた。
一方シイナの仕事ぶりは優秀の一言らしく、溜まっていた仕事はきれいに消化。
ユイミも十分な睡眠時間を確保できるようになったらしい。
今は瞳の回復法を探すためのまとまった時間作りのために仕事を前倒しで進めているとか。
そして今現在。オレは首都の図書館にいる。
とりあえずできることが何もないので、運よく瞳の回復法の足掛かりでも見つけられたら、という悪あがきだ。
もちろん性に合ってないことは分かっているし、ユイミのお膝元である首都の図書館なんて既に探りが入ってるだろうこともわかっている。
それでも、何もせずにはいられない。
ハーヴェイは今この時も戦っているかもしれないんだ。
「ハーヴェイ、無事かな。今何してっかな……」
オレは本を閉じて、窓から見える赤色の空を眺める。
変わってしまった空の色はまだ見慣れない。
◇
テイルたちと別れて3日が経過した。
テイルたちと別れたあと、僕はすぐにユイミに言われた通りにイグドラシル本社に向かった。僕が寝ている間に預かってもらっていた装備を引き取るためだ。
受付の人が顔を覚えてくれていたので受け取りもスムーズに終わり、あとは外套と寝袋、1人サイズのテントと保存食などをを購入して首都を発った。
今は首都から北に3日ほど歩いた街に到着する前だ。
街を目指したのは当面の資金を稼ぐためだが、雨に降られてしまってテントの中で足止めを食らっている。
しかし、自分で言い出したこととはいえまさか僕が1人で旅をするなんて思わなかった。
怖くて1人で村を旅立てないから、テイルの相談相手にかこつけて3人で旅に出たのに。
1人だけの野宿も不安でたまらなかった。ほとんど寝れた気がしない。
訓練でも、テイルとシイナがいつも一緒にいたから。
しかし慣れるしかない。
自分が仲間を裏切ったんだ。あんなに信頼を寄せてくれていたのに。
幼馴染との『3人で勇者になる』約束をも踏みにじったんだ。
それに瞳のリスクの都合、仲間を新たに作れもしない。
ただ、僕の予想……というより想像だが、その通りならこの状況は長くは続かないはずだ。
テントを少しだけめくって外を見る。
まだ雨は降り続いている。幸か不幸か、雨雲のおかげであの嫌な赤い空は見えない。雲の色はあの事件の後も変わっていない。
「はぁ……」
思わずため息が漏れる。外を見るのをやめて外套で暖を取る。
「1人は、寂しいな」
―― 第4章 完 ――
ブレイブアイズ 氷上淡海 @oumihikami
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