第46話

 ハーヴェイの目が一瞬だけ折れた剣を追う。


 ここで終わるか! オレは剣を振るった勢いそのままに右肩からハーヴェイにタックルする。深手を負っている肩に激痛が走る。

 目を離していたハーヴェイはそれをもろに喰らってよろける。

 剣を捨てた左手でハーヴェイの襟を掴み頭突きをかます。

 そのまま2人で地面に倒れる。

「だったら、だったら瞳の力を回復させる方法を探すまでだ! 瞳を治す! 魔王を倒す! それで『3人で勇者に』なればいいだろ!!」


 ハーヴェイも剣を手放してオレの胸倉をつかみ、左拳で思いっきり顎を殴ってくる。

 〈分解〉をつかってこない。互いの身体が密着しているから、〈分解〉を使ったらオレがどうなるかわからないからだろう。


「そんな時間がどこにある! 既に魔王は復活した! 魔王と人間の全面戦争までそう時間はかからない! 口先だけで希望を語るな!」

 顎を打たれた衝撃で頭が揺れる。気にしてられるか。

 こっちはお前と違って片手が使えないんだよ!!

 襟を掴んだ左手で思いっきりハーヴェイの上体を持ち上げながらもう一度頭突き。そして手を離してそのまま顔面に一撃拳を叩き込む。


「お前だって勝手に1人で考えて勝手に絶望してるだろ!! 治療はお前にも必要なハズだ!! なんで相談しない! なんで1人で抱え込む!!」

「治療なんて必要ない。相談する必要もない。なぜなら、僕は僕1人で魔王を止める方法を既に見つけてある!」

 ハーヴェイが両手でオレの襟を掴んで思いっきり腹を蹴ってくる。瞳の強化のせいか思いっきり吹き飛ばされて背中から落ちる。


 右肩からひじにかけて激痛。衝撃と痛みで呼吸が止まる。

 くそ、すぐに動けない。ここまでか……。

 ハーヴェイはゆっくりと起き上がる。足取りがおぼつかない。


「お前の考えは分かった。僕の言いたいことは全て言った。お前たちはあるかどうかわからない治療法を探せばいい。その間に僕が、魔王を止める」

 しかし、ハーヴェイはもう襲ってくることはなかった。

 オレに背を向けて歩きはじめる。

「ハーヴェイ!」

 オレはどうにかして立ち上がるが、言葉が出てこない。


 ハーヴェイは覚悟を決めたんだ。

 1人で魔王と対峙するという絶望的な覚悟を。

 ハーヴェイのことだ。本当に勝算はあるんだろう。

 だけどきっとそれは100%じゃない。


 幼馴染だ。言わなくてもわかることがある。

 覚悟を決める後押しをしたのは、オレだ。

 オレは『瞳を回復させる』と言った。

 そのためには時間が必要だ。

 ハーヴェイは、その時間を稼ごうとしている。

 オレのために、捨て石になろうとしている。


 守られる立場のヤツが、その覚悟を踏みにじっていいはずがない。


 見ると、ハーヴェイにシイナとユイミが話しかけていた。

 糾弾するような口調じゃないが、ここからだとよく聞き取れない。

 シイナが治癒の奇跡をかけ、ハーヴェイが2人の頭を撫でる。そして再び歩きはじめる。


「ハーヴェイ! 絶対に、絶対に追い付く! それまで死ぬな! 生きろ!!」

 そう叫ぶと、ハーヴェイは俺に背を向けたまま、右手の親指を立てた。

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