第19話 暖かい場所
「はぁ、やっと着いた。」
湊はいかにも疲れたようにため息交じりで言う。
「取り合えずお前靴脱げ」
「だから足に力入んないんだってば」
私も疲れたように言うと、
「…はぁ」
と、二度目のため息を漏らして「めんどくせえやつだな」なんて呟きながらも玄関に私を座らせて
学校からそのまま逃げたから汚い上履きを履いていて
そして足も汚れまくって汚いのに
丁寧に脱がせようとしている。
あんなに走ったからか、所々赤くなっていて、酷い所には血が滲んでいたり、出ていたりで
苦戦しているみたい。
でも、湊の細くて長い指ひとつひとつが
腫物を触るような手つきで
暖かくて優しくて
だから不思議と、痛みを感じることはちっとも無かった。
「…お前、どこ行ってたんだよ」
まだ靴を脱がせながら言う湊。
「…えっ?」
急に聞いてきたからびっくりする。
「俺、一応昨日手当たり次第街中探したのにお前居ねえし」
「…、それ、は……」
なんて、言おうか。
一日中あそこにいて、アカネさんに慰めてもらったりしたことなんて
信じてもらえないだろうし、馬鹿だと思われて終わりだ。
……なら
「…朝までは、友達の家にいた。」
…嘘をついた。
「そうか?
なら連絡や電話のひとつぐらいしろよ…、
俺がどんだけメールしたと思ってんだ」
呆れた声でそう言いながら
ようやく脱がし終わった左足の上履きと足を、自分の太ももに乗せてタオルで拭いてくれた。
そしてすかさず、もう片方の足も脱がしてくれる。
「…ごめん」
「……まああれは仕方なかっただろ」
あれ
って、言うのは……
葵葉のこと、かな
「うん……、
ほんと、ごめん」
「もういい、謝らなくていい」
「……っ」
優しさに
涙が溢れそうになった。
こんなに身勝手な事をしているのに
快く許してくれる湊が
やっぱり凄く大切だ。
今失ったら怖いものは、
きっと
この家族だ。
ドタドタドタドタ
「っ、?」
ぼー、っとしていれば
階段を勢いよく降りてくる音が聞こえた。
「彩葉、ちゃん……っ!?」
いつもは日中寝ている純恋さん
凄い勢いで駆け下りてきたからか
凄く髪の毛が乱れている。
「ご、…ご迷惑をおかけしました……、」
「よ、よかったぁぁあぁあああ……っ」
ぶわっ、と
大粒の涙を、大きくてパッチリとした可愛らしい目から沢山零れ落ちていってる。
「え、あ、……」
「おいおいマジかよ……」
戸惑っておろおろする私と
身内が泣いているからかドン引きする湊
ぐずぐず、と泣き続ける純恋さん
助けてくださいお義母さん
「うぅっ、もう彩葉ちゃんに会えないかと思ったぁっ、…」
「あ……
えっと、合歓垣さんに、純恋さんがすごい暗かったって、聞き、ました…、
ご、ごめんなさい、迷惑かけて、……」
こんな弱っている
「~~~~~~っ!!
違うでしょ……っ!
迷惑じゃなくて、心配、でしょ!!!」
そう言って、ぎゅぅ、っと抱き着いてくる。
ふわっ、と香る純恋さんの匂い。
心が落ち着く、湊とはまた違う不思議な香り。
「うわあああぁぁぁん」
またまた泣きじゃくる純恋さん。
「え、えっと……」
「これ…めんどくせえやつだな、」
だるそうな顔を浮かべる湊を他所に
わんわん泣く純恋さん
私はただ、背中をとんとん、と叩くことしか出来なかった。
別れるって決めたけど最後の言葉を吐かせて? ら @ra-ha
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