第2話 迎撃

 基地戦力の迎撃は初めから容赦がなかった。一時的にではあるが、硝煙の煙が周囲を覆い視界が曇るほど。だが怪獣の進撃は止まらなかった。

いたずらな火力の増強に効果がないと見るや、基地側も迎撃フェーズの転換を余儀なくされる。正確には、能動的な転換ではない。

散弾式にばら撒かれた怪獣の質量レーザーが、ジワジワと基地戦力を削りつつあったのだ。

艦船は3割ほどが既に炎上しており、市街地は既に火の海である。


 火力が維持できないとみるや、ミサイルに代わり砲撃が多用されていく。穿孔力の高い砲弾の雨は、怪獣の鱗を突き破り、次第に進撃のペースは緩んでいた。


 校舎の窓から事の顛末を見守るA達は、人類の快進撃に生存への希望を見出し始めていた。

とりあえず無傷ではいられる。運が良ければ、戦火を避けた自宅に戻り、またいつもと変わらない生活を送れるのではないか。

 黒々とした火災の煙と硝煙や土煙が混ざり合い、快晴だった筈の空は既に遠く。少年達は周囲の情景を気にかける余裕が生まれていた。


 だが、そんな楽観論は脆くも崩れ去る。砲弾が体表を突き破り、肉体に痛みを感じた怪獣は、怒りのボルテージをまた一段上げたようで、動きの中に無秩序な反応な差し込まれていった。つまり、暴れ出したということである。


 海洋から遂に完全上陸を果たした怪獣は、そのままの勢いで基地施設を踏み潰した。この時、基地戦力による組織的な抵抗は終わりを迎える。

 沈黙した砲台、叩き落とされた戦闘機、海上は真っ赤に燃え上がり、浮かぶ艦船は既にない。

 怪獣はその巨体をもって市街地を更に踏み潰しにかかり、逃げ惑う人々に質量レーザーを浴びせかけた。


 これと同時刻に、Aは自宅の方角から火の手が上がっていることに気が付いた。ひどく狼狽したが、それ以上に恐怖で体が動かなくなっていく感覚に襲われて、その場にしゃがみ込むことが精一杯であった。

 現地政府の救助部隊が校舎に立ち入るまで、Aはその場にうずくまり、ガタガタと震えて目線は一点を直視していた。


 その為、それ以降に何が起こったのかは見ていなかったようだ。だが、それを鵜呑みにするほど我々も純真ではない。この国にこんな煩わしい憲法さえなければ、今すぐにでも口封じをして……おっと、これ以上はいけない。我々は、正義の国なのだからな。

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人型巨大兵器Ω:決戦報告書 ロボットSF製作委員会 @Huyuha_nabe

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