ダブルベッドに死体がひとつ(その22)

「犯人がベッドの下にもどしたトランクケースの中の遺留品の調べはついているのでしょうか?」

そうたずねると、

「凶器のサバイバルナイフと奥さんの血染めのワンピースと下着とハンドバッグなどと聞いています」

と弁護士は答えた。

「ハンドバッグの中に携帯電話はあったのでしょうか?そこを警察に確かめていただきたいのです」

「どうしてです?」

「携帯電話のメールのやりとりで、奥さんを杏奈さんのマンションにおびき出した相手が分かるからです。なければ、犯人が別にどこかに隠したか破壊したかです」

「なるほど。その通信相手が山口さんならどうなります?」

少しためらったが、

「同じことです。・・・ナイフに指紋があったかどうか確かめました?おそらくナイフに山口さんの指紋はなかったのでしょうね。あれば、それで即逮捕ですから」

と答えると、年下の無免許の私立探偵にあれこれ指図されて、弁護士はむっとしたようだ。

それを見て、言うか言うまいか迷ったが、管理会社のHPにハッキングして防犯カメラの映像をチェックしたことを打ち明け、

「奥さんがエントランスに入る映像は確認しましたが、山口さんが出入りする映像は見つかりませんでした」

と伝えると、

「違法に集めた証拠は使えません」

弁護士は苦い顔で言った。

「ええ、確かに証拠には使えませんが、警察が持っている防犯カメラの映像を証拠として提出させることはできるのではないですか?それを見れば、山口さんがマンションに出入りしていないのが分かるはずです」

と言うと、弁護士は長いこと考え込んでいたが、

「不利な事実もありますよ。・・・山口さんが出張していたという2日間はじつは出張せずに会社を休んでいたことが判明しました。ですから奥さんが殺された日のアリバイがありません。出張が多いと浅村さんはおっしゃっていたが、そもそもシニアエンジニアの山口さんに出張などはありません。これは会社に確かめました」

弁護士は山口の欺瞞に満ちた二重結婚生活の一端をあっさりと暴露した。

それを聞いた杏奈の顔面は蒼白になった。

「出張していたのが嘘だとしても、奥さんと別れ話をしていたとかは考えらえませんか?」

「それをどうやって誰が証明します?・・・奥さんは殺されたのです!」

プライドを傷つけられたせいか、弁護士はムキになって反論した。

「無実を証明する方法はないのですか?」

杏奈は、われわれの会話に割って入った。

・・・それには誰も答えず、応接室には重苦しい沈黙だけが流れた。

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