ダブルベッドに死体がひとつ(その19)

殺人の日の翌日からのすべての防犯カメラの映像を2倍速で回してチェックした。

へとへとになっただけで、宅配便の業者もふくめてトランクケースの大きさの荷物を運び込んだ怪しい人間は見つからなかった。

「血の匂いはなかなか消えない?」

「あれだけの量の血を吸った洋服ですから、簡単に消えるものではありません」

と可不可は答えた。

「運び込んだ人間の匂いはどうだろう?」

「何日前とは言えませんが、それほど古くはありません」

「杏奈さんの部屋はすでに警察が隅々まで調べたので、二度と家宅捜索はない。・・・凶器と遺留品をベッドの下に隠したのは、憎たらしいほどすばらしい発想だね。我らが可不可先生が発見したのは大手柄だった。警視総監賞ものだよ」

「はい。たしかにすばらしい発見です」

アンドロイド犬は謙虚ということばを知らないようだ。

「あの刑事は感謝するどころか、われわれを邪魔者扱いした!」

「少しばかり感情的すぎやしませんか?」

可不可が笑いをこらえているので、話の向きを変えた。

「いったん持ち去ったものを再び持ち込んだ訳だが、これだとエントランスの防犯カメラに犯人は4度映らなければならない。殺人の時に入って出て、トランクケースを運び入れる時に入って出て・・・だからね」

「一日12時間だけのチェックでは甘かったのかもしれません」

「言ってくれるねえ。では、24時間分をチェックしてみるか」

「お手伝いします。犬は匂いだけではなく、目も人間以上の能力を持っています」


それは徹夜のワークになった。

それでも怪しそうな人物は見当たらなかった。

「浅村嬢のマンションの非常口やフェンスの破れ具合とかをもう一度チェックする必要があります。現場で何とかかんとかとおっしゃっていましたね」

「ああ、現場100回!」

「そう、それです」

昨日から可不可にやり込められっ放しだ。

無性に腹が立つったらありゃしない。

「100回でも200回でも行こうじゃないか。でもエントランスしか出入口がないと分かったらお手上げだ。・・・山口さんの奥さんはマンションに入って杏奈さんの部屋で殺された。それはまちがいようがない。だが犯人は、どうして入った?」

「入ったのではなく、マンションの住人だったらどうです?」

「まさか、それはない!・・・警察だってあの3階のフロアーの住人には聞き込みしたろう。いや、あのマンションのすべての住人に聞き込みはしたかもしれない。だいいいち殺す動機がない。住人同志ならいざこざや怨恨があって殺すこともあるだろうが、山口さんの奥さんは住人ではない。たぶん、あの日の午後はじめて現れた。・・・ああ、何故やって来たかが分からない」

「それもそうですが、殺す動機があるのは、山口氏と浅村嬢だけです。やはり共同で奥さんを殺したのです。あるいは殺し屋を雇ったとか」

「ナンセンス!」

われわれは、再び徹夜しそうな勢いで、あらゆる可能性について熱く語り合った・・・。

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