ダブルベッドに死体がひとつ(その17)
すぐに杏奈の携帯に電話をすると、
「殺人のあった夜と翌日に、警察が部屋の中とマンション周辺を、徹底的に凶器と遺留品を探したはずです。それこそベッドの下は真っ先に・・・」
杏奈は『信じられない』を連発したが、警察に連絡して、じぶんもすぐにそちらへ向かうと言った。
警察と杏奈はほぼ同じタイミングでやって来た。
トランクケースには鍵がかかっていたが、警察はいともたやすく錠を外した。
中には血に染まったワンピースと下着とハンドバッグが収まっていて、丸めたワンピースの中に血染めのサバイバルナイフが見つかった。
「あなたが見つけたの?」
殺人のあった翌朝に駅前のホテルにやってきた若い刑事が杏奈にたずねると、
「いえ、東條さんです」
杏奈がこちらを指差した。
刑事はじろりと睨むと、
「君は?」
とたずねた。
「私立探偵です。免許はありませんが・・・」
「ああ、もぐりの探偵ね」
刑事はフンと鼻先で笑った。
「私が、真犯人探しを依頼しました」
横から杏奈が言うのを刑事は聞かぬふりををして、
「どうしてここに?・・・君が運び込んだんじゃないのかね」
と横柄に言った。
「いえ、現場100回ということで、この部屋の家宅捜索をしに来てこのトランクケースを見つけました。正確に言うと、うちの可不可が見つけました」
刑事は足元の可不可をチラと見て、小馬鹿にしたような笑いを口の端に浮かべた。
「・・・ああ、可不可は、死んだ父が育てたすばらしい能力を持つ警察犬です」
それを聞いた刑事は急に顔を真っ赤にして怒り出し、
「そんな与太話を・・・。帰ってくれ!」
と言うなり、われわれを寝室から締め出した。
DKに避難して、
「あのトランクケースに見覚えは?」
と杏奈にたずねると、
「いえ、はじめて見ました」
と答え、
「山口さんのものでは?」
の問いには、
「いえ」
と首を振った。
サバイバルナイフのこともたずねたが、答えは同じだった。
そこへ刑事が杏奈を呼びに来た。
じぶんがたずねようとしたのを先んじられた刑事は、
「まだいたのか。邪魔だからとっとと消えてくれ!」
と怒鳴り、杏奈を寝室に引き込むと引戸を音高く閉めた。
鑑識がやって来たのと入れ替わりで、可不可を連れて家に帰ることにした。
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