ダブルベッドに死体がひとつ(その16)
杏奈のマンションは二度目だが、私鉄駅前の駐車場にオンボロ車を停めて、駅から歩いてみた。
にぎやかなアーケード街を抜けてすぐの住宅街に立地していて、利便性はよい。
マンションは、幹線道路から少し入った静かなエリアにあるが、それなりにひとは行き交っていた。
山口の妻は電車でやって来て、この道を歩いたのだろうか?
アーケードの防犯カメラを丹念に解析すれば彼女の画像を見つけ出せるのだろうが、それは根気のいる警察の仕事だった。
マンションの前の通りを見ると防犯カメラが道路の両側に2基ほど見つかった。
マンションのエントランスにも防犯カメラはあった。
犯罪ネットの情報を信じれば、山口の妻の死亡推定時刻は14時から15時の間だ。
山口の妻は、おそらく犯行の日の12時から15時の間にこの3基のカメラのいずれかに映っているはずだ。
あるいは、犯人も!
玄関扉の横の管理会社の名前と電話番号を写メして、10キーにほとんど意味のない暗証コード369♯を打ち込んで中に入った。
「エントランスもエレベータホールも雑多な匂いがあり過ぎて特定の匂いは分別できないだろうね。それと時間も経っているし・・・」
と問いかけると可不可はうなずいた。
そんな当たり前のことを聞くなとでも言いたげだった。
エレベータの中にも廊下にもカメラはなかった。
杏奈の部屋に入るとすぐに、可不可に部屋の匂いを嗅がせた。
やはり時間が経ちすぎ、その後換気もしたので、杏奈以外の匂いはないと可不可は言いかけたが、
「ちょっと待ってくださいよ」
と寝室に入り、ダブルベッドの下に鼻先を突っ込み、
「血の匂いがします」
いつも沈着冷静な可不可にしてはめずらしく、興奮して叫んだ。
ベッドの下に潜り込んで大きなトランクケースを引っ張り出して、
「血と奥さんの匂いはこのトランクケースの中からしているということ?」
とたずねると、可不可はトランクケースに前足をかけて大きくうなずいた。
「それに・・・」
「えっ、他にも?」
「おそらくこのトランクケースを運んで来た男の匂いも微かにします」
「山口さん?」
とたずねると、可不可は首を大きく横に振った。
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