ダブルベッドに死体がひとつ(その14)
その夜のネットニュースでは、警察が山口を逮捕した罪状の機密漏洩罪はあくまで入口に過ぎず、妻殺しの罪で調べるのが本丸と書き立てていた。
「君は、杏奈さんのマンションの寝室で匂いを記憶したね?」
「はい、ばっちりです」
「女と男の匂いってちがうのかね?」
「さあ、どうでしょうか。女のひとのは香水が混じっていて、男のひとのは整髪料とかシェービングローションの匂いが混じっている場合が多いです」
「では、杏奈さんの寝室の匂いはどうだろう?」
「断定はできませんが、おそらく女がふたりに男が大勢です」
「ふたりの女は、まず杏奈さんと山口さんの殺された奥さんでまちがいないだろう。警察官が大勢出入りしたから男の方は識別はできないか・・・」
「いえ、識別はできています。ざっと10人ほどです」
今さらながら、犬というか可不可の能力には驚くしかなかった。
その中のひとりが山口優斗で、ひとりは殺人者だろう。
・・・犯人が男として、だが。
翌朝、オンボロ車に可不可を乗せて山口のマンションへ向かった。
杏奈はDKのキッチンテーブルでPCを使って図面を描いていた。
山口の無実が証明できるまで、山口のマンションの部屋で帰りを待つと決め、社長に頼んで会社のデスクトップPCと大型モニターを運び込んでもらって仕事をすると杏奈は言った。
山口の娘の花凛を学校へ送り出してから図面を描き、夕方には花凛を学童保育に迎えに行って買い物をして夕食を共にする生活を送るらしい。
杏奈に断って、山口の家の浴室、DK、居間、寝室のすべての匂いを嗅がせて、じぶんは警察の家宅捜索の真似事をしてみたが、結局何もそれらしいものは見つからなかった。
一段落すると、杏奈がインスタントコーヒーを淹れてくれた。
「警察ってひどい」
杏奈はコーヒーには口もつけず、警察を非難した。
「山口なんかこの世に存在しないようなことを平気で言っておいて、裏ではしっかり捜査していたのです。・・・しかも、奥さんを殺したなどと濡れ衣を着せて、いきなり別件逮捕ですから」
杏奈は事態をよく把握していた。
「まあ、何も知らないふりをして泳がせておいて尻尾を出すのを待つというのは警察の常套手段です。・・・でも、別件逮捕というのは、逆に言えば警察も確かな証拠は握っていないということにもなります」
そんな気休めを口にすると、杏奈は溜息をついた。
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