ダブルベッドに死体がひとつ(その13)

「ご主人の私物はどこにあります」

「そういえば、不思議ですね。すべて私のものばかりで、主人のものはひとつもありません。・・・強いて言えばダブルベッドぐらいです。『結婚を機に今までのものはすべて捨てて、ゼロから君とやり直す』と言っていましたが・・・」

ダブルベッドに前足を掛けてベッドカバーとシーツの匂いを嗅ぐ可不可を見て、杏奈は頬を赤く染めた。

嗅ぎ終わった可不可は振り向いてうなずいた。

「犬の匂いの記憶力は、人間の1億倍だそうです。どうやらご主人の匂いを嗅ぎ分けたようです」

と話すと、

「1億倍!」

杏奈は目を丸くした。

DKのキッチンテーブルに向き合って座り、ドリップコーヒーをいただきながら、調度品はどこで買ったかたずねると、杏奈はターミナル駅の上のデパートの名前を口にした。

「そこでいっぺんに?」

「ええ、家具からコーヒーカップまで、すべてをそこで買いました。疲れましたが、最高に楽しい日でした」

杏奈は頬杖を突いて、遠くを見るような目をした。

「支払いはご主人が?」

「ええ」

とうなずいて、バッグから取り出した白い角封筒をキッチンテーブルに置いた。

しどろもどろになりながら封筒を押し返すと、傍らの可不可がしきりに首をひねった。

杏奈は角封筒を再び押しつけ、

「これはこれで受け取っていただかなければ困ります。次のお仕事をお願いしたいので・・・。主人の、山口さんの奥さんを殺した犯人を見つけてほしいのです」

と言って頭を下げた。

可不可を見ると、アンドロイド犬は激しく首を横に振っていた。




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