ダブルベッドに死体がひとつ(その2)
ホテルの狭い部屋で眠れない夜を過ごした。
それでも明け方に少しは眠ったのか、厚地のカーテンの合わせ目から差し込む朝の光で目が覚めた。
ベッドのサイドテーブルに置いた携帯を手に取って履歴を見たが、夫からの着信はなかった。
それから何度も夫の携帯に電話をしたが、やはり虚しくコール音を繰り返すばかりだった。
シャワーを浴びて身づくろいをして9時になるのを待った。
まずじぶんの会社に体調が悪いので今日は休むと伝えた。
じっさいひどい吐き気がして体調は最悪だった。
社長が電話口に出て、
「どうしたのかね」
とたずねた。
「きのうマンションの部屋で女のひとが殺されて・・・」
と正直に言うと、
「それは大変だね、警察には?」
「ええ、昨夜はそれで大変な騒ぎになって・・・」
そんなことを話すと、社長は今からそっちへ行くと言い張ったが、警察の調べがまだ終わってないのでと丁重に断った。
それから、名刺入れにあった夫の新しい会社の名刺にある電話番号に電話をした。
「・・・あのう、山口の家内です。主人は出張中と思いますが、緊急に連絡したいことがありますので、会社専用の携帯電話番号をお教えいただけませんでしょうか?」
「どなたさまにも個人の携帯番号をお教えすることはできません」
女の冷たい声が答えた。
「いえ、個人の携帯番号ではなく、会社専用の携帯番号です」
「それでは、ご用件をうかががってから、本人から折り返しお電話させます。もう一度社員の名前をお教えください」
「山口です。山口優斗です」
しばらくすると、
「当社には、そのような名前の社員はおりません」
と女は答えた。
「いえ、そんなことはありません。ひと月ほど前に転職して、そちらの会社にお世話になっているはずです。・・・ああ、まだ社員名簿に載っていないのかもしれません」
すがるような気持ちで言うと、
「お待ちください」
の声がして、しばらく待たされたが、
「やはり弊社にはそのような名前の社員はおりません」
女は厄介払いするように冷たく言い放ち、電話は一方的に切れた。
『何のために、夫はこんな偽の名刺を作って渡したのだろうか?』
・・・頭の中をさまざまな疑念がぐるぐると回ったが、答えは見つからない。
ただ、夫の優しい笑顔を思い浮かべると、ホテルの上空を吹き渡るさわやかな風とともに疑念は消え去ったように思えたのだが・・・。
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