目を覚ましたら推しがいました。

風邪

目を覚ましたら推しがいました。


『リリリッ!リリリッ!リリリ………リリリ………パチ!』

 うん、ここまでは良かった。全然普通だった。


 ※※※


 ……あ、おはようございます。あの…急で申し訳無いのですが、私の有り得ない話し、聞いてくれますか?はは…ちょっと、色々あって状況整理をしています。少し、付き合って下さい。


 ああ、それで…この後、普通にイチゴ柄のスリッパを履いて、目覚まし時計を止めて……なんか声が聞こえて……なんて言われたかな…確か――――

『「……あ!……起きた!主様が起きた!」』

 …これだ。これだよ絶対。夢だと思ったんだけどなぁ。おかしいなあ。



 えっ?――ああ、そういえば何があったか言ってませんでしたね。もう少し、話、付き合ってくれますか?



 ※※※



 ―――木漏れ日が窓に入ってとても優しい気持ちになる、そんな春の日。その日も普通に、目覚ましがなって、それを止めた……はず。

「……あ!……起きた!主様が起きた!…」

 ――は?…何だって!?………あ、主様だと!?

「何、ぽけ~っとしているんですか?ッフフ。主様のそういうところ素敵です!」

 ……よし、夢だな。目をこする。ほっぺをつねる。

 ……あれ?右も左もつねってみたけどやっぱり現実だ。全部痛い。あ、ビンタすれば覚めるかな?

「ちょちょちょ!主様!?何やってるんですか!?怖いですよ!?」

(…いや、この現状の方が怖いだろッ!)

 心の中で盛大にツッコむ。

 ――ゲームをやりすぎてしまったかもしれない。いやいや、そんなはず無い。

 もしかして、姉ちゃんが半年位前に話してた、タイムリープ……的な?そういうやつ?

 私が考え込んでいると、執事は左腕に付けた腕時計を確認すると“ああ!”と大きな声を上げた。

「ああ主様!そろそろ、学校に行くお時間です!」

 私もついさっき止めた目覚まし時計を確認する。するとそこには有り得ない数字が連なっていた。

 ――え?マジ?状況整理に時間を使いすぎた!

 

 私は急いで家を出た。



 ※※※



 改めて説明します。私の名前は四季 小春。中学2年生です。最近の相棒は入学した時に買ってもらったスマートフォン。

 そのスマートフォンでハマりにはまったゲームの一推しのキャラが今、目の前にいます。……信じたくないけど。どこかでも話しましたが、このキャラは執事で、私は『主様』になる訳です。……信じたくないけど。

 なぜ信じたくないかって?……だって!変なやつだと思われるじゃ無いですか!私は姉ちゃんと違ってちゃんとしているんです!姉ちゃん、この前――と言っても半年位前ですが、タイムリープしたとか言ってるんです!ほんと、姉ちゃんのその想像力勉強にも応用出来ないのか!…なんて。

 ――ああ、少々話しすぎましたね。まぁ、そう言うわけで。

「ねえねえ、主様!」

「……なに?」

 ――今、話しかけてくださいましたけど。おん、……授業中なんよ。可愛いから良いけど。おん、なんか、朝からみんなに変な目されてるんだよね。空気読も?…可愛いから良いけど。もう、わたし、変なやつやん。

「給食までもうちょっとです!」

 学校に着いてから今話しかけられるまで、全く目をやっていなかった掛け時計を見ると、その動作と共にお昼のチャイムが外から鳴った。十二時だ。授業終了まであと20分。

 


 耐えるかぁ…



 ※※※



「「いっただっきまぁーす!!」」

 教室内に大きな声が響く。私の声だ。

(今日の給食は~♪茹でブロッコリーだぁ~♪)

 今、私はハイテンションだ。何故って?そこに茹でブロッコリーが有るからさッ!

 ――茹でブロッコリー。それは私がこの世で一番好きな食べ物だ。ちょっと変だと言うのは自分でも分かっている。でも、茹でブロッコリーはうまい。この事実は変えられない。

 ここまで耐えたのも、茹でブロッコリーのため。茹でブロッコリーがあればその日一日はハッピーだ。

「今日の給食、茹でブロッコリーが出てきて良かったね。」

 ここで今日初めて 隣の席の男の子に話しかけられる。うん!と元気な返しをすると男の子ははは、とまた笑った。……ん?でも、なんで?何で話しかけてくれたの?茹でブロッコリーがあったとはいえ、こんなやばい状況なんだぜ?

「そう言えば小春さん、授業中なにか呪文みたいなの唱えてたけど大丈夫?」

 ――呪文?誰が?いつ?

「誰もいない方向にしゃべってたけど…」

 その一言で私は血の気が引いたのを自分で確認した。そう言えば、給食が始まってからの気配も声もしない。


 ドサッ。みんなが楽しく給食を食べている中、教室内に人が倒れる音がした。



 ※※※



 パチ。

 目を覚ますとそこは白一色だった。フカフカのベッドにフカフカの布団。そこまで分かって、はじめてここが保健室だということを悟った。

「あらあら、目が覚めたのね。」

 保健室の先生が心配そうにこちらをみていた。


 ――でも、もう執事の姿はどこにも無い。


 ああ、やっぱり夢だったんだ。私が少し寂しそうにしていると、保健室の先生はにっこりと笑って言った。

「そういえば……今日、誕生日なんですって?」

 ……えっ?そうだっけ?保健室のカレンダーを確認する。その日めくりカレンダーには『3月2日』と記されていた。

「先生の付き添いの男の子が言っていたわ。『せっかくの誕生日なのに…』って。」

 ――誕生日?……あッ!

「そういうことだったのか……!」

 私は先生に心配されないよう小声で呟く。

 ――何故か現れた執事…私がはまっているゲーム…キャラクターと実際に話せる…!

 そして何より今日は――私の誕生日!


「先生、私行くべきところが有る気がします。」

「ええと…?」

 先生はぽかんとした表情でこちらを見ている。


 ――行かなきゃ。



 ※※※



 ――やっぱり、執事はそこにいた。

『お帰りなさい!主様!』

 ――私の相棒であるスマートフォン。その一角のゲームアプリ。オルゴールアレンジされたハッピーバースデーの曲が流れている。

「お帰りなさい、とは随分しらけているものね。」

 私はいつもよりも上からな態度で執事に言い放った。

『今日は主様の誕生日!……フフン、ボクの誕生日プレゼントは喜んでくれましたか?』

 ――プログラムされたような言葉。しかし、プログラムされたフリを執事はしているだけだ。

「……正直、みんなにも見えるようにしてほしいなぁ。あと、午前中しか居られないのはびっくりする。」

 私が聞いているはずのない、プログラムされたフリをする執事に言うと執事は目を細めて笑って言った。

「また、来年までにそうしておきますね。」















  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

目を覚ましたら推しがいました。 風邪 @Kaze0223

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ