第113話

 異世界召喚者たちは敗北条件に震えた。

 この戦闘で負けたら死ぬ。

 この戦闘でヒットポイントゲージがなくなったら、そのときは死ぬことになるのか。

 異世界召喚者たちは最強だ。

 でもこの戦闘で死んだら、最強でも死ぬ。

 死んだら終わりだ。

 最強であるはずの彼らにとって、彼女たちにとって、この戦いは最悪の戦いだった。

 それは今回の戦闘では、負けたら死ぬのだから。

 異世界召喚者たちは最強なのだから、負けるわけはない。

 死ぬわけはない。

 だが異世界召喚者はベヒモスに敗れ、紅蓮の炎に敗れた。

 次負けたら死ぬ。

 今度負けたら死ぬ。

 死。

 死。

 死。

 異世界召喚者はここで死ぬのだろうか。

 死んだら人間はどうなってしまうのだろうか。

 転生でもするのだろうか?

 女神さまとやらにあって、また生き返ることができるのだろうか。

 何か特別なスキルでももらって、また転生することになるのだろうか。

 わからない。

 どうなるのかわからない。

 死にたくない。

 まだ死にたくない。

 異世界召喚者たちはまだ若い年齢なのである。

 そんなことを思いながら、彼ら、彼女たちは敗北条件を突き付けられ、恐怖に震えていた。

 震えていないのはショウヘイだけである。

 いや、ショウヘイも少し手が震えていた。

 眼鏡はないが、そこを触ろうとする手は震えていた。

 ショウヘイは言った。

「落ち着け、お前たち。オレたちがこの戦闘で負けるとは決まってはいない。オレの計算によると、この戦闘の勝利確率は約七十パーセント。オレたちは七割の確率で国王に勝利することができるだろう」

「でも残り三割は……」

「残りの三割の確率については考えるな……考えるだけ無駄だ」

「でもあたちたちは……このせんとうにまけたらしぬんですよね……あたちはまだしにたくありません。おかあさんにあうまでは……」

 という幼女のミコト。

 そして異世界召喚者と国王の戦いが始まった。

「来るぞっ」


 国王LV97


 国王と異世界召喚者の戦いが始まった。

 それは異世界召喚者の命をかけた戦いでもあった。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」

「はあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

「ぐぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

 異世界召喚者たちは国王に攻撃を仕掛ける。

 火属性の攻撃。

 雷属性の攻撃。

 光属性の攻撃。

 国王に大ダメージを与える。

 国王もまた反撃を仕掛けてくる。

 国王は風属性の攻撃だった。

 風属性の攻撃はリュウノスケに命中した。

 だがリュウノスケは一撃でやられたりはしない。

 ダンジョンではベヒモスが強すぎただけだし、紅蓮の炎との戦いでは、アークスライムが強すぎただけだ。

「キュアー」

 女子高生のミコトが回復魔法を使う。

 リュウノスケの体力が回復する。

「プロテクション」

 アヤノは防御魔法をリュウノスケに使う。

 リュウノスケの防御力が上昇する。

 国王は異世界召喚者に攻撃する。

「ファイアーボール」

 国王は火の魔法を使った。

 国王のその火の玉による攻撃は、ファイアーボールとは思えないほどに小さいのだが、その破壊力はとてつもなく大きい。

 小さい火の玉がリュウノスケに当たると、その瞬間、火の玉はリュウノスケの体を包み込むほどの大きさへと変化し、リュウノスケの体を燃やし尽くす。

「ぐわああああああああああああああああああっ」

 悲鳴を上げるのはリュウノスケ。

「キュアー」

 だが女子高生のミコトの回復魔法により、リュウノスケのヒットポイントはすぐに回復する。

 全身やけど状態のリュウノスケのヒットポイントが回復する。

 やけど状態も回復している。

「すまねえ、ミコト」

「リュウノスケの防御力をもっと上げよう」

「プロテクション」

 アヤノがリュウノスケに防御力アップの魔法を使う。

 リュウノスケの防御力がアップする。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」

「はああああああああああああああああああああああああああああああああああっ」

「ぐぎゃあああああああああああああああああああああああああああああっ」

 悲鳴を上げるのは国王。

 国王にはちゃんとダメージが効いている。

 国王と紅蓮の炎だったら、紅蓮の炎のほうが強かったのではないだろうか。

 国王とベヒモスだったら、ベヒモスのほうが強かったのではないだろうか。

 この戦闘に異世界召喚者たちは余裕で勝てるのではないだろうか。

 そんなことをリュウノスケは思い始めていた。

 だが国王のヒットポイントゲージはとてつもなく長かった。

 そのため戦闘は長引く。

 そして国王のヒットポイントゲージが減っていき、あと少しのところまで行く。

 もう少しで倒せる。

 もう少しで国王を倒せる。

 あともうちょっとだ。

 慎重に戦え。

 この戦闘は負けたら死ぬのだから。

 自分たちの命がかかっているのだから……。

 異世界召喚者はそんなことを思いながら、慎重に戦っていた。

 ヒットポイントはできるだけ青色のゲージで回復をする。

 黄色いゲージで回復する。

 赤い状態にはしてはならない。

 そんなリスクをとることはできない。

 それはぎりぎりの戦い。

 生きるか死ぬかの戦い。

 そして国王のヒットポイントゲージをすべて削り、ラスト一撃。

「くらえっ、国王」

「ぐぎゃあああああああああああああああああああ」

 異世界召喚者たちは国王のヒットポイントゲージがなくなったのを見て、ほっと息を吐いた。

「やった……のか……」

 ごごごごごごごごごごごご。

 という音がし、国王の身体が崩れていく。

 国王は死んだのかと思って、全員がほっと息を吐く。

「ああ。オレたちはかったんだ。異世界召喚者は国王に勝ったんだ」

 とショウヘイが言った時のことだった。

 国王のヒットポイントゲージに新たなヒットポイントゲージが現れる。

 そして国王が第二段階へと変貌する。

 それは人間とは思えない姿。

 それは魔物の姿。

「な、なんだよ……国王を倒したんじゃなかったのかよ……」

 そして国王には新たなヒットポイントゲージが出現する。

 ヒットポイントが全回復した状態と同じようなヒットポイントゲージ。

 それを見て、異世界召喚者たちは絶望する。

 またヒットポイントゲージを削らないといけないのか。

 しかも安全に国王のヒットポイントゲージを削らないといけないのか。

 今まで国王との戦いは安全すぎるほど安全に戦ってきたせいで、マジックポイントは減ってきている。

 しかもこれから国王は第三形態へと進化しないとも限らない。

「もう無理かも。わたし、もうだめだ」

 へなへなっと崩れていく女子高生のミコト。

「はあ……わたし、こんなところで死ぬのかな……」

 同じように気力がなくなっているアヤノ。

 女子高生のミコトは言った。

「わたしたちが異世界にきたのって、なんだったんだろうね」

 それは国王に食われるためだったのだろうか。

 国王に捕食されるためだったのだろうか。

 魔王を討伐するためではなかったのだろうか。

 魔人族を討伐するためではなかったのだろうか。

 異世界召喚者というのはすごい存在だったのではないのだろうか。

 そんなことはなかったのだろうか。

 なかったのだろう。

 わたしたちは弱かったんだ。

 こんなに弱かったんだ。

 国王よりも弱かったんだ。

 そして国王が、女子高生のミコトの首をつかんでいた。

 国王は女子高生のミコトを捕食するつもりなのだろう。

 最強の力を得て、あのおっさんを倒すつもりなのだろう。

「くっ……誰か……助けてっ」

 だが誰も女子高生のミコトを助けるものなどいるわけがなかった。

 異世界召喚者よりも強いものなどいないのだから、ここから女子高生のミコトを助けることができる奴などいるわけがないのだ。

 だが女子高生のミコトはまだ若くて死にたくなかったから、ついそんなことをつぶやいていた。

「スキル、捕食」

 国王は言った。

 もうだめだ、わたしはこんな奴に食われるんだ、と女子高生のミコトが思ったその瞬間のことだった。

 国王の腕がきれて、地面に落ちる。

 国王の腕がなくなったため、女子高生のミコトの体が地面に落ちる。

 誰か来たのだろうか。

 でもここに来るものなどいないはずだ。

 女子高生のミコトはそう思いながら、攻撃を仕掛けてきた方向を見た。

 そこにいるのはおっさん。

 異世界召喚者なのに無能なおっさん。

 おっさんが、敵だったはずのおっさんが、異世界召喚者のピンチに駆けつけてくれたのだろうか。

 異世界召喚者のことを、国王から救いに来てくれたのだろうか。

 異世界召喚者たちは、あのおっさんのことを、ただの充電器としか思っていなかったというのに……。

「おっさん……」

「おじさん」

「おっさん」

「おっさん」

「おっさん」

 みんながおっさんを見る。

 おっさんは一人の状態できて、言った。

「お前ら、その程度の相手にやられてるんじゃねえぞ。国王になんか負けてんじゃねえぞ」

 その程度の相手とは言ってくれる。

 国王はLV97もあるのだ。

 十分強い相手なのだ。 

 簡単に勝てる相手ではないのだ。

 おっさんは左手をあげ、回復魔法を使った。

「ヒール、ヒール、ヒール」

 女子高生のミコトのヒットポイントが全回復する。

「ヒール、ヒール、ヒール」

 そのあとにほかのメンバーのヒットポイントが全回復する。

 あのおっさんはやはり異世界召喚者のことを助けに来てくれたのかもしれない。

 そんなことを思いながら、異世界召喚者たちは助けに来てくれた、おっさんのことを見上げていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る