第109話

 俺は背中から光の翼を作り出した。

 光の翼を作り出しながら、オレはユイカをお姫様抱っこしながら、翼を羽ばたかせて、空を飛ぶ。

 オレとユイカは空を飛んでいるので、お姫様抱っこされているユイカは、真下にうっかり落ちていくのが怖いのか、オレの首をぎゅっとその腕でつかんでいる。

「おっさん、スピードがはやいです。もっとゆっくり飛んでください」

 そんなことを言われても、これでもゆっくり空を飛んでいるつもりなのだが。

 これでもユイカに負担がかからないスピードにしているつもりだったのだが、これでもはやすぎただろうか。

 オレはもうちょっとだけスピードを落とす。

「おっさん、これくらいのスピードなら大丈夫です」

 というユイカ。

「そうか。ユイカ。ならこのスピードで、冒険者ギルドを目指すぞっ」

「はいっ」

 ユイカは言った。

「おっさん、おっさんが見ている景色って、こういう景色だったんですね。冒険者ってすごいんですね。冒険者っていうのは、空も飛べるんですね。魔法も使えるんですね。こんな簡単に敵を倒せるんですね」

 というユイカ。

 ユイカにはオレが敵兵を倒していく姿など見せたくなかったが、オレは敵兵を一撃で倒しながら進んでいく。

 村娘を襲おうとしている兵士を倒していく。

 村人を皆殺しにしようとしている兵士たちを一撃で倒していく。

「ユイカ、冒険者ギルドが見えてきたぞっ」

「はいっ、冒険者ギルドにいきましょう」

 そしてオレとユイカは冒険者ギルドに入っていく。

 ミリカはいつものように冒険者ギルドの受付にいた。

 そして冒険者ギルドの受付には、いつものように人が並んでいる。

 だが今日冒険者ギルドの受付に並んでいるのは、いつもの冒険者たちではない。

 兵士だった。

 多数の兵士が冒険者ギルドのミリカの列に並んでいる。

「おい、この冒険者ギルドの受付嬢、すげえかわいくないか?」

「天使みたいだな」

「まったく、この村の女はレベルが高い女ばかりだぜ」

 というのは兵士たち。

 兵士たちは下品に笑い、ミリカの体のラインを見ている。

 ミリカはそれでも笑顔。

 ここは冒険者ギルドですから、冒険者ではない方はおかえりください。

 とミリカは笑顔で言っている。

 だからと言って兵士ははいわかりましたといって、帰るわけもない。

 冒険者ギルドには冒険者たちがたくさんいたはずだが、どうしたのだろうか。

 兵士たちに絡むことなく、椅子のあたりに座っているだけだ。

 その中には初心者殺しのガッソもいる。

 スライムスレイヤーもいる。

 中級の冒険者たちもいる。

 この兵士たちは、まるで自分たちがこの場の支配者であるような偉そうな顔をしていた。

 ここは自分たちが好き勝手暴れてもいい場所だとでも思っているかのように。

 にこにこ笑顔のミリカがあまりにも天使すぎるので、兵士の一人が言った。

「お前ら、外の見張りをしていろ。まずはオレが楽しむ」

 という兵士A。

 と、その言葉を聞き、兵士Bが怒りの声を上げた。

 突然様子が変わる兵士B。

「まさかお前……この天使を独り占めするつもりじゃねえだろうな。そんなことは許さねえ。オレだってこの天使ちゃんと楽しみてえよ」

「ちげえよ。もしも敵が入ってきたら、困るだろうがっ。まずは俺が楽しむっ」

 という兵士A。

「お前、そんなことを言って、この天使にみたいにかわいい冒険者ギルドの受付嬢をを独り占めする気じゃねえだろうな。この天使はお前だけのものじゃない。オレだってこんな天使といちゃいちゃしたいんだぞっ」

 という兵士C。

 こいつらは何をやっているのだろうか。

 確かにミリカは天使みたいにかわいいから、そのミリカといちゃいちゃしたいという気持ちはわかる。

 ミリカと手をつなぎたいと思う気持ちはわかる。

 ミリカと腕をつなぎたいと思う気持ちはわかる。

 だがミリカがどんなにかわいいからと言って、無理やりはだめだろう。

 ちゃんとミリカと仲良くなって、ミリカとの絆レベルを上げて、そしてミリカの絆レベルをマックスにしてから、そういう関係になればいいのである。

 恋人関係になればいいのである。

 だが兵士A、兵士B、兵士Cはそんなことなど考えてはいないのか、いかにしてこの天使を自分のものにするのかを考えているのか、ミリカのことをだれが好き放題にするのかを考えているのは、兵士たちはミリカをめぐってもめ始めた。

 ミリカには魅了のスキルでもあるのか、

「てめえ、俺に文句があるっていうのかっ」

 兵士Aはなんと兵士Bを槍で殺した。

 そこまでやるのか、と思ったが、普通にそこまでやっていた。

 兵士Aは言った。

「この天使みたいな女は、オレの女だって言っているだろ。お前らはオレよりも弱いんだから、オレの言うことを聞け」

 だが兵士Cは兵士Aの言うことを聞くどころか、逆上する。

 兵士Cは兵士Aに襲い掛かり、兵士Aと兵士Cの殺し合いが始まる。

 冒険者ギルドにいた冒険者たちは、兵士のことをうわあ怖い、という顔をして、その兵士たちが殺し合いする光景を見て、驚いた顔をしていた。

 いや、お前ら冒険者なんだから、この兵士たちと戦ってくれよ。

 この兵士たちを倒してくれよ。

 お前ら冒険者だろ。

 少しはオレにお前らのかっこいいところを見せてくれよ。

 お前ら冒険者のかっこいいところをオレに見せてくれよ。

 と思いながら、オレは同士討ちしている兵士Aと兵士Cのことを無視して、ミリカに声をかける。

「ミリカ、大丈夫か?」

「わたしは大丈夫です。サトウ様」

 というミリカ。

 兵士Aと兵士Cは殺し合い、生き残った兵士Cは言った。

「その女はオレの女だ。オレの女に話しかけるなっ、雑魚冒険者がっ」

 兵士Cはこの中で一番自分が最強だと思っているようだ。

 だからオレにそんな強気な言葉を吐いてくる。

 オレは兵士Cを無視して、ミリカに言った。

 オレは雑魚冒険者どころか、魔王級の存在なのだ。

 だからこんな兵士など相手にはしていられない。

「ミリカ、いこうっ。冒険者ギルドから出るぞっ」

「ですがサトウ様、わたしにはまだ仕事があります」

「今は仕事どころじゃない。敵が攻めてきているんだよ。このまま冒険者ギルドにいたら兵士に狙われる。ここにいるのは危険だっ」

「ですが、ここには冒険者たちがたくさんいます。彼らをおいて、彼女たちをおいて、ここからわたしだけが逃げるわけにはいきません。一人でここから出ていくわけにはいきません」

 というミリカ。

 確かにここにはほかの冒険者だけではなく、ほかの冒険者ギルドの受付嬢もいる。

 彼ら、彼女たちは敵の兵士たちにおびえているようだ。

 ミリカはまじめだな。

 ほかの冒険者たちは自分の身の安全しか考えていないのに、ミリカはほかの冒険者のことを、ほかの冒険者ギルドの受付嬢のことまで考えているのだから。

 なら仕方がない。

 敵兵をすべて倒すかっ。

「なら、ここにいる敵兵をすべて倒す。それでいいか、ミリカ」

「はい」

「ミリカ、ユイカ、目を閉じていろよ」

「はい」

「はい」

 目を一瞬閉じるミリカとユイカ。

 敵兵は地面にすべて倒れていた。

 オレはミリカに手を伸ばす。

「ミリカ、いくぞっ」

 ミリカは敵兵がいなくなったことを確認して、そして冒険者ギルドの中に敵兵が入ってこないのを確認すると、

「はい、サトウ様」

 と、ミリカはそういって、オレの手を取る。

 オレの手を握ってくる。

「スライムスレイヤー、お前らも来るかっ」

 冒険者ギルドの片隅に隠れていたスライムスレイヤーの二人ががたりと音を立てて、立ち上がる。

「えっ、いいの?」

「えっ、いいんですか?」

 スライムスレイヤーのリュウ、そしてスライムスレイヤーのモデルみたいにかわいい女の子が言った。

 スライムスレイヤーの二人は慌ててオレのところまでやってくる。

 スライムスレイヤーの二人はオレの翼、光の翼につかまる。

 ミリカとユイカは、前から後ろからオレに抱き着く。

 オレは四人を体につかまらせると、空を飛ぶ。

「よし、ユイカ、ミリカ、スライムスレイヤーの二人、行くぞっ。落ちないように、ちゃんとオレの体につかまっておけよっ」

「はい。おっさん」

「はい。サトウ様」

「うんっ」

「はいっ」

 スライムスレイヤーのモデルみたいな女の子の胸が、光の翼に当たっているので、オレはちょっとどきっとしてしまった。

 だが問題はない。

 スライムスレイヤーのモデルみたいな女の子は胸はない。

 おそらく胸はAカップくらいの大きさだろう。

 オレは小さい胸にほっとする。

 これくらいなら胸がどきどきするほどではないな。

 そう思っていたが、オレの後ろから抱き着いてくるミリカの胸が、ぷにゅと音がするほどにオレの背中に当たっていた。

 だからオレは胸がなんだかどきどきしてしまっていた。

 ミリカの胸が、オレの背中に押し付けられているのだ。

 これはわざとやっているのだろうか。

 それとも落ちないようにしたら、どうしてもこんな感じになってしまうのだろうか。

 わからない。

 オレにはまるで分らない。

 オレはミリカの胸が背中に当たっているので、胸がどきどきと高鳴りながら、冒険者ギルドの外へと翼をはばたかせて、出ていく。

 胸がどきどきしていることがばれないようにしながら、心の中ではめっちゃどきどきしながら、光の翼を使って、空を飛ぶ。

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