第107話

 兵長LV52

 兵士LV44

 兵士LV45

 兵士LV46

 兵士LV47


 村の中には兵士、兵長がいる。

 進んだ場所には兵士、兵長がいる。

 そこには村人や村娘もいる。

 兵士、兵長は村人、村娘の命を狙っているので、彼ら、彼女たちのヒットポイントがなくなる前に助けないといけない。

 というか、村人村娘は敵に一撃で殺されることもある。

 気を付けないと。

 戦闘前にゲームのようにセーブができたらいいのだけれど、現実ではそんなことはできない。

 一度死んだら人は生き返ることはできない。

 死んだものが生き返ることはできない。

 ただし、異世界召喚者が死んだ場合はどうなるのだろうか。

 異世界転生するのだろうか。

 わからない。

 オレはまだ死んだことがないからわからない。

 オレはふんといって指をくいっと上に動かし、敵の兵士、敵の兵長を倒しながら、先を進む。

 村人、村娘のことを助けながら、先へと進む。

 紅蓮の炎のメンバーは今無事だろうか。

 グレアは今無事だろうか。

 エルマは今無事だろうか。

 アレク、サック、エレン、ノスカー、ゾーイは今無事だろうか。

 無事ならいいんだけれど。

 だが今は止まっている時間はない。

 考えている時間はない。

 とにかく前に進むしかない。

 宿屋にいるユイカはまだ無事だろうか。

 冒険者ギルドにいるミリカはまだ無事だろうか。

 地下訓練場にいるトールは無事だろうか。

 ゴブリンスレイヤーはまだ無事だろうか。

 スライムスレイヤーはまだ無事だろうか。

 ゴブリンスレイヤーは宿屋の前で敵兵士と戦闘中だった。

 ゴブリンスレイヤーのリョウコは筋トレの成果なのだろうか、ランニングの成果なのだろうか、相手が敵の兵長だろうが負けてはいない。

 なんか普通に問題なさそうだし、リョウコは助けなくても大丈夫だろうか。

 オレはリョウコに声をかけた。

「リョウコ、助けはいるか?」

「大丈夫です。マジックポイントもまだ十分残っていますから」

 というのはゴブリンスレイヤーのリョウコ。

 ゴブリンスレイヤーのリョウコはオレに手を振って、そういった。

 ゴブリンスレイヤーのほかのメンバーもまだ余裕のある顔をしている。

 リョウコは言った。

「それよりもサトウさん、何人かの兵士が宿屋の中に入っていきました」

「俺はすぐにでも宿屋にいってくる。リョウコはこの辺にいる敵兵を倒してくれ」

「わかりました」

「私たちにも任せてっ」

 というゴブリンスレイヤーのほかのメンバー。

 そして悲鳴が聞こえてくる。

 それは宿屋からの悲鳴だった。

 オレは慌てて宿屋の中へと入っていく。

 宿屋の受付のところにいたのは、ユイカと城の兵士一人だった。

 兵士は言った。

「ふんっ、ずいぶんとかわいい女がいるもんだぜ……安心しろ。暴れなければ殺しはしない」

「や、やめてください。触らないでっ」

 ユイカの体を乱暴につかむ城の兵士。

「暴れてんじゃねえ」

 城の兵士は全力でユイカのことをびんたした。

 ほほが赤くなっていて、ユイカは驚いた表情をして、自分のほほをおさえている。

 城の兵士は言った。

「次暴れたら、こんなもんじゃすまねえぞ。次は殺す。だから、死にたくなかったら、おとなしくしてろ。なあに。犬にかまれたようなもんだと思って、我慢していればいいんだ。なあに、すぐに終わるさ。暴れずにおとなしくしていればな」

 という兵士。

 兵士は言った。

「へへへ。宿屋にこんなかわいこちゃんががいるとはな……オレはラッキーだぜ。運がいいぜ」

 という兵士。

「いや。いやあああああああああああああああ」

 というユイカ。

 ユイカは叫び声をあげていた。

 オレの中で、どす黒い感情が生まれていた。

 それは人間だったころよりも、さらに何倍もの憎しみの感情だった。

 魔物の肉を食うまでは、こんなに憎しみの感情を抱くことはなかった。

 たとえ抱いたとしても、これほどの憎しみの感情ではなかった。

 ここまでの憎しみを感じたことは、生まれて初めてだった。

 こんな兵士は殺してしまえと、魔物の心が言っている。

 敵など皆殺しにしてしまえと、魔物の心が言っている。

 最強へと進化するために殺せと、魔物の心がそう言っている。

 そのためにレベルを上げろと言っている。

 怒りが。

 怒りが込みあげてくる。

 ぶちりっ。

 何かがきれたような音がした。

 オレの頭の血管でもきれたのだろうか。

 そんな音がした。

 心の奥底から湧きおこる、この魔物の怒りを、オレはうまくおさえることができない。

 これが、これが魔物に近づいていくということか。

 最後には魔物になってしまうのだろうか。

 怒りが、感情がうまくおさえつけられない。

 だが兵士は背後にいるそんなオレのことなど気が付かずに、ユイカの服を破り捨てた。

 ユイカの悲鳴。

 オレの攻撃。

 ころころころころと何かが床に落ちた。

 それは兵士の頭部だった。

 兵士の頭部はその胴体からきりはなされていた。

「あ……あれ?」

 兵士はいつ自分が死んだのかも気づかずに、そんな声を漏らしていた。

「おっさん」

 顔が血で汚れたユイカはオレのことを見つけると、オレに抱き着いてきた。

「おっさん、わたし、怖かったです。すごく怖かったです」

「よかった。ユイカ、無事でよかった」

「おっさんこそ無事でよかったです」

 というユイカ。

 しばらくユイカはオレに抱き着いていた。

 だがやがて少し安心したのか、離れる。

 ユイカの服が破れていたので、オレは回復魔法を使った。

「ヒール、ヒール、ヒール」

 回復魔法を使って、ユイカの顔についた兵士の血をかき消す。

 回復魔法を使って、ユイカの服を修復する。

 ユイカはオレが来たからだろうか、少しほっとした顔をしていた。

 オレは言った。

「ユイカ、オレは次は冒険者ギルドにいくっ。ユイカは宿屋の中にでも隠れていろ。あとはゴブリンに守ってもらえ」

「はい」

 と言いながら、オレの服をいくなとでも言いたいのか、指でちょこんとつかんでくるのはユイカ。

 ユイカのその手は震えている。

 ユイカのその足は震えている。

 先ほどのことが怖かったのだろうか。

 兵士に襲われそうになったことが怖かったのだろうか。

「すみません。ちょっと怖くて。もうちょっとだけこうしていていいですか」

「ああ。問題ない」

 そう言って、ユイカはオレの服をつかんでいた。

 その手はまだ震えている。

 ユイカの手が震えているので、オレはその手を、ユイカの手をぎゅっと握りしめてやった。

 そのユイカの右手の震えが止まるまで、その手を握ってやることにした。

 しばし時間が経過する。

 大賢者は言った。

 主様、そろそろほかの場所へと移動してください。

 ミリカ様に危機が迫っています。

 という大賢者。

 大賢者はそういうが、ユイカはオレの服を離さない。

 大賢者、村人ってのは一緒に連れていってもいいのか?

 イエス。

 という大賢者。

 なら、ユイカも一緒に連れていくか。

 ユイカはオレの大事な仲間だからな。

 オレはユイカに言った。

「ユイカ、一緒にいくか? 宿屋の中で隠れていたほうが安全だと思うけれど、ゴブリンたちに守ってもらったほうが安全だと思うけれど、それでもオレと一緒にいくか?」

「おっさん、一緒にいっていいんですか?」

「ああ。ユイカさえよければだけどな」

 ユイカは言った。

「はい。わたしはおっさんと一緒にいきます。おっさんは最強なんです。わたしのことを守ってくれる最強の冒険者なんです」

 というユイカ。

 ユイカは足が震えて動けなかったので、オレはユイカのことをお姫様抱っこして運ぶことにした。

「ひゃんっ」

 と変な声を出したユイカ。

 女の子というものはこんなにも軽いものなのだろうか。

 ユイカの体重はそれくらい軽かった。

「ユイカ、いくぞっ」

「いきましょう」

「冒険者ギルドに向かうっ」

「はいっ、冒険者ギルドにいきましょう」

 ユイカは嬉しそうにそう返事をした。

 ユイカはオレの首にその両腕を巻き付けている。

 オレはユイカを抱えて、宿屋から飛び出した。

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