第99話

 オレは城に戻るべきなのだろうか。

 もしもこれが異世界ではなく元の世界だったら、オレは仕事のために、役職のために、役職のランクを上げるために、城へと戻っただろう。

 でもこれは異世界だ。

 元の世界とは違う異世界だ。

 オレはこの異世界では、元にいた世界のときとは違うことをしようと思っているのだ。

 例えばそれは異世界でおいしいご飯を食べることだったり。

 元の世界のように節約をするのではなく、おいしい酒を飲むことだったり。

 真面目に武器を買うのではなく、真面目に防具を買うのではなく、真面目にアクセサリーを買って、攻略に全振りするのではなく、異世界での生活を楽しむことを目標として生活をしている。

 あほみたいなことをするのを目標としている。

 例えばそれは攻略する武器を買うのではなく、ただ高いお酒を飲むだとか。

 攻略する武器を買うのではなく、なぜかブランド物の高いお酒を飲むとかである。

 何やってんだ。

 お前。

 ちゃんと攻略をしろといわれるくらいに、異世界を楽しむのがオレの今の目標だ。

 目標だった。

 オレはうまい飯だったり、うまい酒を飲んだり、そういった異世界生活を送りたいとそう思っていた。

 しかオレは、この異世界で城に戻りたいかと問われると、それは否だ。

 なぜ異世界にきてまで、役職のために、役職という名のランクを上げるために、異世界でオレのことを追放した人間たちの元に戻らないといけないのか。

 やつらはオレのことを追放したんだ。

 やつらはオレのことを無能だといい。

 やつらはオレの頭がはげているといった。

 オレは城から追放されたあとは、この村へとやってきて、ただ酒を飲み、ただおいしい飯を食い、そして仲間たちと楽しい日々を暮らしていく、それだけでいいと思っていた。

 だがクエストをクリアして、冒険者ランクを上げていくと、人がオレのことを見る目が変わっていった。

 オレ自身が変わらなくても、魔物の肉を食って変わったのだが、人の見る目や評判は変わっていく。

 そして魔王級といわれるオークディザスターを倒してしまうと、人の見方も断然変わっていく。

 異世界召喚された城の人たちは、今更になってオレのことを欲しがったようで、オレのことを今更になって認めたようだ。

 オレはそんな城に今更戻りたくなかった。

 役職のため。

 仕事のため。

 名誉のためになんて戻りたくはなかった。

 忍者は頭を下げたまま言った。

「サトウ様、お気持ちは変わませんか? なんでもしま……いえ、できることならするのですが」

 この忍者はなんでもするといっておいて、なんでもする気はないらしい。

 じゃあお前っ、といっても、忍者は、イケメン、は顔を赤らめただけなので、やっぱり先ほどの言葉は取り消させていただきます。

 と、そう忍者は言うのである。

 まあそのセリフはオレではなく、魔王級が勝手に言っているだけだから、本気にされても困るのだけれど……。

 これ以上お出かけする仲間が増えても困るからな。

 だからオレは忍者にいった。

「かえれ。お前がくると、オレはクエストができない。オレは仲間とのお出かけができない」

「申し訳ありません。なら、また明日きます」

「明日もこなくていい……」

 オレはそういったが、忍者はまた明日くるといった。

 やれやれ。

 魔物の肉を食い能力が上がり、人から認められるのも困ったものだ。

 忍者がいちいちオレの元に来るようになったし、そしてオレに早く城へとお戻りくださいと、影からそうささやいていくのだから。

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