第98話

 今日も仲間とお出かけをしよう。

 毎日毎日仲間とお出かけばかりしているなと思ったかもしれないが、そんなことはない。

 お出かけというのは重要なイベントなのだ。

 何が重要かというと、お出かけをするとやる気が上がる。

 お出かけによってやる気は一段階上がるときもあれば、二段階上がるときがある。

 運が良ければ二段階上がるのだ。

 さて、今日も仲間とお出かけしようと思ったそのときだった。

「サトウ様」

「ん?」

「サトウ様、お城にお戻りください」

 という、オレが異世界召喚されたときにいた城からの使いのものがやってきた。

 それは忍者のような恰好をしている男だった。

 異世界にも忍者なんているんだな。

「サトウ様、国王がサトウ様のことをお待ちしております」

 という忍者の姿をした男。

「国王がオレのことを待っているだと?」

 そんなことを言われても、オレはお出かけするのに忙しい。

 お出かけを断られたグレアの顔を思い出す。

 それはグレアの悲しそうな顔。

 しょぼんというグレアの顔。

 あんなグレアの悲しそうな顔を見るのは、こっちまでつらい。

 こっちまで悲しい思いになるので、こっちまでかわいそうな気持ちになってくるので、そろそろグレアとお出かけしようとそう思っていたのだ。

 忍者が言った。

「はい。国王はサトウ様の能力をほしがっているご様子。一刻も早く、城へとお戻りくださいサトウ様。サトウ様が望むのであれば、国王はサトウ様になんでもやるとそうおっしゃっています」

「なんでもだと??」

「はい。なんでもです」

「なんでもって言うのは財宝だったり、武器だったり、防具だったり、美少女だったりなんでもいいのか?」

「はい。なんでもいいです。サトウ様がお望みであれば、わが部下、美少女、でもよろしいのですが……」

 という怪しげな男。

 にやっと笑う男。

 男は自分の部下、美少女、までもオレにくれるらしい。

 だがオレは別に知らん女に興味はなかった。

 というわけで、忍者がなんでもくれるとか言うので、なんでももらおう。

 オレは言った。

「ならお前っ」

「は?」

 忍者は信じられない顔をしている。

「なら忍者、お前が欲しいっ」

 オレは忍者を指さした。

 指さされた忍者はといえば、信じられない顔をしている。

 こいつ何いってんだ、という顔をしている。

 ちなみに忍者は男だ。

 別にオレは男が好きなわけではない。

 ただ心が魔王級になってしまったため、なんだかおかしな展開になっているのである。

 ああ。

 こんなんだったら、魔物の肉なんて食うんじゃなかったぜ。

 まさかイケメンの男キャラ相手に、じゃあお前が欲しいと言うはめになるんだからな。

 忍者は困惑している。

 当たり前だ。

 オレでも同じセリフを言われたら、困惑するだろう。

 忍者は言った。

「わたしを欲しているのですか? それは……それは無理な相談です。わたしなんかよりも、わたしの部下のほうがよろしいかと思います。わたしの部下は女ですし、美少女です」

 だがオレは知らない女なんか興味がない。

「いや、オレはお前がいいんだ。能力も高そうだし、イケメンだし」

「ええっ?」

 困惑する忍者。

 忍者は言った。

「ええっ。なんでもするとは言いましたが……まさかそんなことを言われるとは……わたしは思っていませんでした。正直申し訳ありません。それはちょっと困ります」

 忍者は困惑している。

 忍者は混乱している。

 忍者はそれはちょっと……といったあと、まさかそんなことは言われるとは思っていませんでした……といった。

 オレもまさかこんなセリフをいうことになるとは思わなかったぜ。

 しかも男相手に。

 どうせなら女のキャラに言うほうがよかったのだろうか。

 それはそれで問題な気がするが。

 忍者はうろたえている。

 忍者はひどい混乱状態だった。

 忍者は混乱し、頭を下げて、言った。

「申し訳ありません。なんでもというのはやっぱり取り消させてもらいます。なんでもはできません。できることだけです」

「そうか。いや、いいんだ。本当になんでもするとは思っていない」

 忍者は気を取り直して言った。

「サトウ様、どうかお城へとお戻りください。わたしたちには、サトウ様の力が必要なのです。オークディザスターを討伐したサトウ様の力が必要なのです」

「んなこと言ってもなあ、オレはもう戻る気はないんだよなあ」

 だからわざとこんな意地悪を言ったわけである。

 戻る気がないのだから。

 今更戻れといわれても、そんなことを言われても、もう遅いのだから。

 オレはこの村で楽しくやっているし、仲間とのお出かけで忙しいのだから。

 オレはそういって、怪しい姿をした男を追い出すように、ばたんと扉を閉めた。

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