第96話
お出かけというのは楽しい。
お出かけをすると仲間との絆レベルが上がるし、そしてやる気がアップする。
やる気は一日に一段階上がるときもあれば、一日に二段階上がるときもある。
さて、ミリカとお出かけをしたり、ユイカとお出かけをしたわけで、これで二日が経過した。
でも二日が経過しても、まだ二人分の仲間との絆しかあげられてはいない。
仲間との絆を全員分マックスにするには、一体どれだけの時間が必要になるのだろうか。
すごい時間がかかりそうだな。
ミリカ、ユイカとお出かけをしたので、次はエルマとでもお出かけをしてみようか。
エルマはA級の冒険者である。
紅蓮の炎のメンバーである。
そしてゲームのように、絆レベルをマックスにすると、女メンバーとは恋人関係になるのだろうか。
恋人関係になってハグとかするのだろうか。
ハグをして女の子の頭の近くにハートマークが浮かぶのだろうか。
男メンバーとは親友関係になったりするのだろうか。
この世界ではどんな感じになるのだろうか。
女性メンバーとは恋人関係になれるのか。
女性メンバー相手に二股をかけられることができるのか。
女性メンバーに三股をかけられることができるのか。
わたし、気になります。
そして三股以上をかけて、クリスマスなどのイベントで、恋人にした女メンバーだけではなく、親友になった男にまでこれはどういうことなんだよっサトウ、とか詰め寄られたりするのだろうか。
さて、村の中を歩き回っていると、エルマは冒険者ギルドの前にいるので、そこでエルマに話しかけてみることにした。
「おう。エルマ。何やってるんだ」
「サトウ、珍しいじゃない? 時間があるのなら、わたしとちょっとどこかに出かけない?」
と聞いてくるエルマ。
はいを選択すると、エルマとお出かけをすることになる。
はいを選択した。
と、場面が変わる。
なぜかオレとエルマは村の中を一緒に歩いていて、エルマは言った。
「あのね……サトウに相談があるの」
「なんだ。なんでもいえ」
エルマは困った顔をしていた。
「わたしね、最近誰かにつけられている気がするの」
「なるほど」
たしかにオレとエルマが歩く後ろには、何やら男がいる。
あれはストーカーだろうか。
エルマのストーカーだろうか。
なんだかあまり容姿がいいようには見えない男だった。
まあおっさんのオレが言うのもなんだが。
エルマは言った。
「だからね、サトウ、お願いがあるのっ。少しの間だけでいいから、あの男をごまかすために、わたしと恋人のふりをしてほしいのっ」
「まじかよっ」
ゲームみたいだな。
だがオレは言った。
「だがちょっと待てエルマ。オレはおっさんなんだぞ。オレは40のおっさんなんだぞ。オレとお前では恋人関係どころか一緒に歩いていいても、ただの親子にしか見えない」
「って、何を焦っているのよサトウ。これは実際に恋人になるのではなく、恋人のふりをするだけじゃないの。ってサトウ、後ろから男がついてきているわっ。はやく手を出しなさい。手をつなぐわよっ」
というエルマ。
「はい」
オレは手を差し出してくるエルマと手をつなぐ。
エルマは柔らかな手だった。
「柔らかいな……」
「って、柔らかいとか言わないのっ。サトウ、ちょっと顔を真っ赤にしないでよ。こっちまでなんだか恥ずかしくなるじゃない」
「すまんな。まさかこんな展開になるとは。オレはただのおっさんなのに」
まさかこんなゲームみたいな展開になるとはなー。
まじかー。
と思いながら、手をつなぐ。
「で、エルマ、恋人のふりってのは、例えばどんなことをするんだ。オレはおっさんだから若い子とのデートなんて何をすればいいかわからないぞ? とりあえず貢げばいいのか?」
「貢ぐって何言ってんのよ。そうねー。まあ恋人がすることをすればいいんじゃない?」
というエルマ。
恋人がすることとはなんだろうか。
恋人同士で買い物にいったり、飯をくったりすればいいんだろうか。
貢げばいいのだろうか?
エルマは楽しそうに言った。
「わたしたちが楽しんでいるところを、わざとあの男に見せればいいのよ」
「お、おう。なんだかオレがあのストーカーに命を狙われそうだが、大丈夫なんだろうか」
「大丈夫よ。サトウは強いんだから。あんなストーカーくらい一撃で倒せるわよっ」
と言うエルマ。
だがまあ仲間が困っているなら、恋人のふりくらいはしてやってもいいだろう。
これは仲間との絆レベルを上げるためでもあるのだ。
後ろからついてくるストーカーにわざと見せびらかすようにして、オレとエルマは腕を組んで歩く。
酒場で食事をエルマと食べさせあいっこをする。
主に食事を食べさせられているのは、オレだけなのだが。
つうかこんなこと、恋人同士でもしないような気がするのだが……。
しないだろう。
普通。
だがまあ恋人のふりをするのだから、これくらいのことはしないとダメなのだろうか。
わからない。
よくわからん。
「エルマよ、オレは食事ぐらい自分で食べられるのだが? 別に食べさせてくれなくて大丈夫なんだが?」
「なによ、サトウ。サトウはわたしと恋人関係のふりをするのは嫌なの。恋人同士は普通これくらいのことはするものなのよ」
というエルマ。
「まじか」
「まじよ」
エルマはそういったあと、やがて楽しそうな顔をして、言った。
「でもこれであのストーカー男も諦めてくれるかもしれないでしょう。だからもうちょっとだけ付き合いなさいよ。ほら、あーん」
「あーん」
オレはエルマと恋人のふりをして過ごした。
男はめっちゃこっちをにらんでくる。
なんつーかこれ、どこまで恥ずかしさに耐えられるのか、どこまで恥ずかしさに我慢できるのか、そんな羞恥プレーに思えるのだが、気のせいだろうか。
気のせいだろう。
そして男がオレを狙ってこないか、それだけが心配だった。
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