第95話
オレは宿屋で休んでいた。
仲間とお出かけをすると、一日が終わってしまう。
クエストは半日で終わるのに、お出かけすると、一日が終わってしまうのか。
でも仲間とお出かけをするとそれだけでやる気が上がるからな。
仲間との絆レベルが上がるからな。
絆レベルを上げると、称号を手に入れることができるからな。
さて、今日もオレは誰かとお出かけをしようかな。
今日は宿屋にいるユイカとお出かけをしよう。
その前にグレアに声をかけると、グレアは嬉しそうに言った。
「サトウさん、わたしとお出かけをしますか?」
ものすごい嬉しそうな顔をしているグレアに対して、いいえ、という選択肢を選ぶ。
「そ……そうですか。とても残念です。わたしはサトウさんが声をかけてくれたので、てっきりわたしとお出かけしてくれるかと思いました。しょぼん」
「すまん」
すごく残念そうな顔をしているグレアには申し訳ないが、たまにはほかの人とお出かけしてみよう。
というわけで、宿屋で仕事をしているユイカに声をかける。
「あれ、おっさん、もしかして今暇ですか?」
「暇だぞ」
「ならちょっと待ってください。わたし、まだ仕事中ですけど、仕事がまだ終わっていませんけど、すぐに終わらせますから。仕事をぱぱぱっと終わらせるので、ちょっとだけそこで待ってていてくださいねっ。お出かけしましょう」
というユイカ。
「おう」
とりあえずその場で待っていることにした。
そして三十分後。
ユイカはぱぱっと急いで仕事を終わらせてくると、
「ああ。おっさん、お待たせしました。あ、でもこの格好じゃまずいか。ちょっと着替えてきます」
「別にその格好のままでもいいぞ」
だがユイカはどこか着替えに行ってしまった。
まあその仕事着のままお出かけするのもあれなのはわかるが、これでまた待ち時間が増えるのか。
十分。
二十分。
三十分が経過した。
ユイカが来ないなーと思いながら、時間を過ごしていたら、ユイカがやってきた。
ユイカはなんだか気合の入ったかわいらしい格好をしてやってくる。
「どうでしょうか……おっさん……」
というユイカ。
「いいと思うぞ、可愛いと思うぞ」
「おっさん、では、どこにいきましょう?」
「そうだな。どこにいこうかな」
オレはユイカとともに防具屋にやって来た。
別に防具屋にきてユイカに防具を買ってあげるわけではない。
だが防具屋には村人が着る洋服も普通に売っているのである。
ユイカは服を試着して、こっちを向く。
「どうでしょうか、おっさん。似合いますか?」
ワンピースを着るユイカ。
武道家っぽい服を着るユイカ。
戦士ふうの鎧を着るユイカ。
魔法使いの格好をするユイカ。
「おう。いいじゃないか。かわいい。かわいいぞ。ユイカ、次いってみよう」
「はいっ」
そしてユイカの試着が続いていく。
次から次へと服を試着するユイカ。
そして……。
「ぶふっ」
思わずせき込んでしまった。
一体何をやっているのか。
ユイカが試着したのは水着だった。
「どうでしょうか。おっさん、似合っていますか?」
「なぜ防具屋に水着が売っているんだ。しかも水着の防御力をよく見れば、ほかの装備よりもずっと高いのはなんでなんだ。なんでこの水着が、この薄い布だけの水着が、戦士風の鎧よりも防御力が高いんだ。おかしい。こんなの絶対おかしいよ。しかも水着のくせに、その値段が金貨三枚もするだと?」
高いなおい。
「どうでしょうかおっさん。似合ってますか?」
くるくると回って回転してみせるユイカ。
「お、おう。似合ってはいるぞ。だがいやらしすぎるな。おっさんであるオレにはそんな水着は刺激が強すぎる」
「もうそんなじろじろ見ないでくださいよお、おっさん」
顔を真っ赤にして言うユイカ。
「よし。ユイカ、じゃあそれを全部買っていくか? せっかくだし」
「ええっ。水着をですか? それも全部? 水着ですかあ。ちょっとそれは恥ずかしいです」
「いや、水着だけじゃなくても。ワンピースとか、鎧とか武道家の服とかあるだろ。コスプレグッズにもなるし」
「ええっ!? そんなの悪いですよー。これくらいのお金は自分で払います! ああ、でもこんなにたくさんの洋服を買うお金はないな。どうしましょうか、おっさん。わたし、どうすれば、」
「だからオレが買ってやるぞ。オレは冒険者だからお金はあるんだ」
「い、いいんですか?」
「おう。もちろん。ユイカにはいつも世話になっているからな」
「ありがとうございます、おっさん。一体何をしてお返しすれば、」
ユイカはぺこっと頭を下げた。
ユイカは言った。
「今度水着を着て、海岸にでも行けるといいですね」
「ああ。でも海岸にモンスターがいないといいけどなっ」
モンスターは外にはいるからな。
オレはユイカにそんなことを言った。
プレゼントをもらったユイカは、とても嬉しそうな顔をしていた。
ユイカが喜んでくれたので、オレも嬉しかった。
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