第83話

 もとに戻れなくなっても、それでもオレは最強へと進化したい。

 オレは異世界召喚者だ。

 オレはみんなを守るためにモンスターと戦いたいのだ。

 だがそれをとめるように、叫んでいるのはエルマ、アレク、サック、エレンの四人。

 オレは四人に向かって、言った。

「もしもオレが魔物の肉を食って死んだら、そのときは頼んだっ」

「やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」

 というエレンの声。

「やめてええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ。そんなことはしちゃダメええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ」

「やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」

「そんなことをしたら……どうなってもしらんぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」

 だがオレはそんなみんなに向かってほほ笑むと、魔物の肉をのみこんだ。

 グレアはというと、オレなら何をしても大丈夫だという顔をして、魔物の肉を食べたって大丈夫だという顔をして、そんな確信した顔をして、こっちを見ている。

「グレア、オレが復活するまでの10ターンの間、なんとか持ちこたえてくれよ。オレは必ずよみがえる」

 とオレがグレアに言うと、グレアは言った。

「別にわたしがこいつを倒してしまってもいいんですよね?」

 と。

「倒せるならな」

 そしてオレは魔物の肉を食う。

 それを一気に口の中に詰め込む。

 そしてそれをのみこんだ。

「…………」

「…………」

「…………」

 今のところは何も起こってはいない。

 魔物の肉を食ってもこんなものか。

 魔物の肉なんてものは、ただまずいだけだったな。

 魔物の肉を食っても、別に死ぬなんてことはないんじゃないだろうか。

 とそんな甘いことを思った瞬間だった。

 きたっ。

 強烈な痛みが身体をかけ抜けた。

「ぐぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

 と悲鳴を上げるオレ。

「ぐぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

 きた。

 きた。

 きた。

 これが。

 これが。

 これが。

 魔物の肉の毒。

 やばい。

 やばい。

 やばい。

 やばい。

 こんなのやばい。

 ものすごい勢いでヒットポイントゲージが減っていく。

 さっきまでは青色のゲージだったというのに、一気に真っ赤なゲージまで減ってく。

 マジで魔物の肉ってやばかったんだな。

 こんなにやばかったんだな。

 だが大丈夫だ。

 オレには回復魔法がある。

 ヒールという大賢者の魔法がある。

 大賢者のスキルを使えば、問題はないはずだ。

 死ぬことはないはずだ。

「ヒール、ヒール、ヒール!!!」

 ヒットポイントがすぐに青色のゲージまで一気に回復する。

 だがその瞬間にまた襲い掛かってくるのは魔物の毒。

 ヒットポイントが減少する。

 ヒットポイントが減少する

 ヒットポイントが減少する。

 くっ、やはり魔物の肉なんてものは食べるべきものではなかったのか。

 痛い。

 痛い。

 身体がいたい。

 鮮血。

 鮮血のイメージ。

「ぐぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

「ぐぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

「ぐぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

 ヒットポイントが減少する。

 ヒットポイントが減少する。

 ヒットポイントが減少する。

 鮮血。

 鮮血。

 鮮血。

 このままでは死ぬ。

 回復魔法を使わないと。

「ヒール、ヒール、ヒール」

 ヒットポイントが青色のゲージまですぐに回復する。

 だがすぐに減少していくオレのヒットポイントゲージ。

 まずいな。

 これが魔物の肉の毒か。

 まるでオレの身体の中から、魔物の肉が胃の中で暴れまわっているようだ。

 血。

 血。

 血。

 血。

 目の前で何度も敵の切り刻まれるそんなイメージが思い浮かぶ。

 何度血を流したのだろうか、そんなイメージが思い浮かぶ。

 それは真っ赤な血のイメージ。

 それは致命傷のダメージ。

 オレは死ぬのか。

 最強へと進化せずにこのまま死ぬのか。

 魔王級のモンスターを倒すこともできずにこのまま死ぬのか。

 なんでオレは死にそうになっているのだろうか。

 オークディザスターのせいか。

 オークディザスターのせいだろうか。

 そもそもオレはなんで異世界にきているんだっけ……。

 オレは自分の意識が完全になくなっていた。

「…………」

「…………」

「…………」

 オレはもしかしたらもう死んでいるのかもしれない。

 走馬灯が流れる。

 異世界召喚されたときの映像が流れている。

 追放されたときの映像が流れている。

 紅蓮の炎のメンバーに声をかけられたときの映像が流れている。

 ゴブリンスレイヤーのメンバーであるリョウコを助けたときの映像が流れている。

 オークディザスターと戦っているときの映像が流れている。

 そしてオレはなんでこんなことになったのだろうとそんなことを考えていた。

 なんでこんなにも苦しい思いをしているのだろう。

 なぜオークディザスターはオレたちのことを殺そうとしているのだろう。

 それはオレたちが弱いからだ。

 この世界は弱肉強食だからだ。

 魔物であろうと、冒険者であろうと、殺すか殺されるかの、そんな世界だからだ。

 強くならなければ、殺されるそんな世界だからだ。

 オレは思っていた。

 だったら、オークディザスターを殺せばいいんじゃないかと。

 殺せよ。

 あんなモンスターはと。

 オークディザスターを、魔王級のモンスターを殺せばいいんじゃないかと。

 オレにはそんな力はない。

 大魔法使いを得ても、大賢者という力を得ても、オレにはオークディザスターを倒す力はない。

 グレアにはあるかもしれないけれど、オレにはまだない。

 なら、どうすればいいのだろうか。

 答えは簡単だ。

 そう。

 力を手に入れればいい。

 オークディザスターを倒す力を手に入れたらいい。

 オークディザスターを殺す力を手に入れたらいい。

 そのためにはどうするか。

 魔物の肉を食えばいい。

 魔物の肉を食うと、死ぬんだぞ?

 それでも食うのか?

 そう。

 食うのだ。

 生きるために。

 オークディザスターを倒すために!!!

 魔物の肉を食って、生き残るんだ!!!

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ。ヒール、ヒール、ヒール!!!」

 オレは叫んでいた。

 そしてヒールという回復魔法を使い続けていた。

 ヒットポイントが減少しなくなるまで、ずっと使い続けていた。

 と、やがて光がさし、辺りが見え始める。

 そこは、さっきまでオレがたっていた場所と同じ場所だった。

 ダンジョンの地下迷宮のボス部屋だった。

 目の前にはグレアが立っている。

 オークディザスターと戦っているグレアが立っている。

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