第82話

「「エルマああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」」

 全員がエルマの名前を叫んでいる中、エルマの身体が倒れていく。

 そのエルマが倒れていく姿がなぜかスローモーションに見えた。

 血だらけのエルマが地面に倒れていく。

 そしてエルマの身体から大量に流れてくるのは血。

 赤い色をした血。

 エルマの身体からはその血がとどまることなく流れていく。

 死ぬ。

 このままではエルマは死ぬ。

 エルマが死んでしまう。

 誰か。

 誰かエルマを助けてくれ。

 オレは叫びたかった。

 大賢者あああ、早くきてくれええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええと。

 だが大賢者はオレである。

 ほかに大賢者がいない限り、エルマを助けられるのはオレか、それとも回復術士であるエルマ自身だ。

「エルマあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

「エルマあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

「エルマあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

 後ろにいたサック、アレク、エレンが冷静さを失って、倒れているエルマのところに駆け寄ってきた。

 馬鹿かお前ら。

 ここにはオークディザスターがいるんだぞ。

 エルマのいるところにはオークディザスターがいるんだぞ。

 全員がここに集まってきたら、全員がオークディザスターに一斉にやられる可能性だってあるんだぞ。

 そう思っていたら、グレアが魔法の詠唱を始めた。

 それは風の魔法の詠唱。

「ウインドカッター」

 風の魔法がオークディザスターの身体を上空へと運んでいく。

 オークディザスターの身体は上空で風によって切り刻まれるが、ほかのモンスターと同じように身体がばらばらになったりはしない。

 身体に深い傷を負うだけだ。

 とはいえ、これでオークディザスターとエルマの距離ははなれた。

 オークディザスターと、サック、アレク、エレン、そして倒れているエルマの距離ははなれた。

 オークディザスターは後方へと運ばれている。

 グレアが言った。

「オークディザスターはわたしに任せてください。サトウさんはエルマさんを助けてあげてくださいっ」

「わかった」

「エルマのことはオレたちに任せろっ」

 サック、アレク、エレンの三人は、死にそうになっている、顔が青ざめているエルマのことを見て、動揺している。

 全員が叫んでいる。

「エルマあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

「エルマああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

「こんなところで、死ぬなんてダメだっ、エルマ、気を確かにもて、エルマ。お前は最強の回復術士なんだ。こんなところで死んでいい人間じゃねえ」

 エルマは回復術士である。

 だから自分でヒットポイントの回復をはかろうとした。

「キュアー」

 だが……。

 エルマは自分に回復魔法を使ったが、そのエルマのヒットポイントゲージは一瞬だけ青色のゲージに変わっただけで、すぐに真っ赤な赤いゲージまで減少してしまった。

「傷が……深すぎたか……ダメ……みたいね」

 あきらめの顔をしているエルマ。

 エルマは少し話をしただけで、ごほっごほっとせきをした。

 その口から吐き出されるのは、真っ赤な血。

 真っ赤な血がエルマの手を、エルマの服を汚す。

「どうやらわたしはここまでのようね…………」

 というエルマ。

「あきらめるな。お前はこんなところで死んでいい人間じゃない」

 というのはアレク。

 アレクは慌ててアイテムボックスからエリクサーを取り出した。

 そのエリクサーをエルマに渡す。

 エルマはううん、というふうに首をゆっくりとふり、それを受け取るのを断った。

 エリクサーを受け取るのを断った。

「アレク、多分だけど……この傷はエリクサーを使っても……なおらないと思うわ」

「そんなのやってみたいとわからねえだろ」

 というのはエレン。

「ううん。わかるのよっ。わたしはもうすぐ死ぬ。オークディザスターから受けた傷は深すぎる」

 というエルマ。

「いいからのめ。エリクサーはまだたくさんあるんだっ」

 一個、二個、三個とエリクサーを取り出すアレク。

 アレクはまだエルマの手の中にエリクサーを握らせている。

「まだオークディザスターとの戦闘は始まったばかりなのよ。こんなところでエリクサーを無駄にしている場合じゃない。エリクサーはそんなに大量に手に入れられるものじゃない」

「これは無駄なものじゃない。お前に必要なものだ。そしてお前はA級の冒険者。いいから使え。エルマ。お前が紅蓮の炎のリーダーなんだ。A級の冒険者であるお前には、このエリクサーを使う権利がある」

「……………」

 エルマはしばし無言だったあと、エリクサーを受け取った。

 だがエリクサーを飲んだエルマは、すべてのエリクサーを飲み切ることはできなかった。

 せきをしてしまい、エリクサーの成分と真っ赤な血を地面に吐いてしまい、すべてのエリクサーを飲むことはできなかった。

「ごほごほごほっ」

 とはいえ、一時的にとはいえ、エルマのヒットポイントは完全に回復する。

 だがすぐに真っ赤なゲージまでヒットポイントが減少してしまうエルマ。

「ほらね……オークディザスターから受けた傷は深すぎるの。この傷は死んでもなおらないわっ」

 というエルマ。

 しんでもなおらない。

 そんなことはあるのだろうか。

 もし死んでいても、復活するものもあるのではないだろうか。

 例えばオレの髪とか。

 何か特別な魔法があれば、特別な魔法を使えば、復活するものもあるのではないだろうか。

 それともオレのヒールはエリクサーと同等程度の魔法だから、同等程度の回復魔法だから、エルマが受けた致命傷をなおすことはできないのだろうか。

 だがオレは大賢者のスキルを持っているから、エルマの体力を回復することができることを知っていた。

 その方法はヒールという回復魔法。

「エルマああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

「エルマあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

「エルマああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

 と泣くように叫んでいるのはサック、アレク、エレンの三人。

 グレアはというと、オークディザスターと戦闘をしている。

 グレアはちらちらとこちらのことは気にかけてはいるようだが、オークディザスターとの戦闘中で、エルマのことを心配するまでの余裕はちょっとしかないようだ。

 倒れているエルマは言った。

「みんな、ありがとう。今までありがとう。紅蓮の炎での今までのこと、楽しかったわ。みんな、オークディザスターに負けないでねっ。わたしが死んでも、わたしがこのままいなくなっても……負けないでねっ。この戦闘を生きのびて、最強を目指してねっ」

 といって、力尽きるエルマ。

「「エルマあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」」

 と泣き叫ぶのはサック、アレク、エレンの三人。

 だがオレはまだあきらめてはいなかった。

 オレは回復魔法を発動させた。

 それは無詠唱の魔法。

 詠唱したほうが魔法の効果が高いとは言うが、オレは大賢者だから、詠唱しても、無詠唱でも、どちらでも問題はない。

「ヒール、ヒール、ヒール!!!」

 オレはエルマに回復魔法を使った。

 エルマのヒットポイントが青色のゲージへと回復する。

 だがすぐに真っ赤になるエルマのヒットポイントゲージ。

 だがすぐにエルマのヒットポイントゲージが青色へと回復する。

 だが回復したとたんに、また真っ赤に減少していくのはエルマのヒットポイントゲージ。

 死にかけの人間をなおすことが、こんなに厄介だとはな。

 だがオレにできないことなんてない。

 それもオレは知っている。

 オレは自分の髪の毛で、死にかけのものをすでになおしている!!!

 それはもう実戦済みだ!!!

「ヒール、ヒール、ヒール!!!」

 エルマのヒットポイントゲージが青色へと変化し、それがまたすぐに赤色へと変化する。

 エルマのヒットポイントゲージが青色へと変化し、それがまたすぐに黄色へと変化する。

「もうあきらめろよ。サトウ。もう無理なんだよ。エルマは助からないんだよ。人は死ぬんだ」

 と、オレがあきらめない姿を見て、誰かが言った気がした。

 アレクだろうか。

 だが何かに気が付いたエレンが言った。

「おいっ。ちょっと待てっ。今、エルマのヒットポイントゲージが黄色い状態になっていなかったか?」

「まじかっ」

 というのはアレク。

「ヒール、ヒール、ヒール!!!」

 そしてエルマのヒットポイントゲージは完全に回復していた。

 さすがは大賢者のスキルである。

 オレのヒールという魔法は、死にかけの人間だってなおすことができる。

「!」

「!」

「!」

「!」

「嘘だろ……」

「こんなことが起こっていいのか……」

「死んだはずだったのに……ありえない……これが大賢者。大賢者の回復魔法っ」

 エルマのヒットポイントが完全に回復して、アレク、サック、エレン、そして当の本人であるエルマの四人が驚きの顔をしている。

 本当に助かるとは思っていなかったそんな顔をしているアレク、サック、エレン、エルマの四人。

 エルマ本人までそんな顔をしていた。

 グレアはといえば、オレがこれくらいのことをできるのは当然という顔をして、こっちを見ながらオークディザスターと一人で戦っていた。

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