第84話

 オレはオークディザスターを倒した。

 その瞬間、逃げ場所をふさいでいた後ろの壁が音を立てて開いていく。

 どうやらボスモンスターであるオークディザスターを討伐すると、ふさがれていた後ろの壁は開く仕組みになっているらしい。

 これでかえることができる、アレク、エレン、サック、エルマの四人がほっと息を吐いていた。

 エルマほどの冒険者でも、Sランクのモンスターとの戦闘はきついものらしい。

 これ以上のダンジョン探索はせずに、あとはダンジョンから帰りたいと思っているのだろうか。

 と、後ろの扉が開いたからだろうか、だれか冒険者が入ってきたようだ。

 その冒険者の数は二人。

 一人は白髪の男。

 そしてもう一人は大剣を背中に背負った顔に傷のある男が入ってくる。

 その男はノスカーとゾーイだった。

「大丈夫か? お前たち」

 といって入ってくる二人。

 どうやらノスカーとゾーイは冒険者ギルドからの緊急クエストを受けて、この地下迷宮へとやってきたようだ。

 地下迷宮90階層まできたらしい。

 だがボス部屋での戦闘のため、なかなか中に入ることはできなかった。

 と、二人は言っていた。

 そしてオークディザスターがどうなったのか、とそれを彼らはオレたちに聞いてくる。

 オレは言った。

「オークディザスターは倒した」

「「オークディザスターを倒した!?」」

 信じられないという顔をしているゾーイとノスカー。

「それは本当の話か? あれはそんな簡単に倒せるモンスターじゃないはずだが」

 というのはゾーイ。

「サトウが魔物の肉を食べて、進化したのよ。それで最強へと進化して、オークディザスターを倒したのっ」

 というのはエルマ。

 その言葉を聞いて、驚いた顔をするのはノスカーとゾーイだった。

「はあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ?」

 という声を上げるノスカーとゾーイ。

 ノスカーは言った。

「お前、よく魔物の肉を食ったな」

「よくそれで生き延びられたものだな」

「ああ。まあそんなに難しいことではなかったけどな」

 本当は死にそうだったけどな。

「だからか。サトウ、お前が昨日までのお前とは別人に思えるぜ」

「オーラがまるで違う」

 というノスカーとゾーイ。

「まあな。オレは魔物の肉を食ったおかげか、別人のようになってしまったらしい。この身体がオレ自身のものなのか、それともオレではない魔物のものなのか、それは正直オレにもよくわかっていない。オレ自身にもよくわかっていない」

 というオレ。

「でもサトウ、これ以上魔物の肉を食うのはやめておくべきだ。それ以上魔物の肉なんて食ったら本当に死んじまうぜ」

 というノスカー。

「ああ。気を付けることにするよ」

 というオレ。

 だがオレは前方へと歩き出した。

「みんな、地下迷宮91階層に向かうぞっ」

「えっ? まだ先に進むの?」

 というエルマ。

「さすがにこれ以上先にはいかないほうがいいんじゃないか?」

「ボス戦もやったことだし。僕はもう疲れたよ」

 というサック。

「問題ない。オレはオークディザスターの肉を食ってさらに進化したからな。ここからはお前たちのレベル上げにも付き合ってやる。お前ら、オークディザスター戦は役に立たなかったからな」

「付き合ってやるっていってもだなあ……もう疲れたんだけど」

 仲間たちがどうしようという顔をして、お互いの顔を見合っている。

 ノスカーとゾーイもまた、こいつ、正気か? という顔をして、オレのことを見た。

「いくぞっ、オレたちはこのダンジョンを攻略するっ」

 というオレ。

「おいおいおい。まじかよ。なんかサトウのやつ……オークディザスターの肉を食って、性格変わってねえか?」

 というゾーイ。

 ゾーイはそんなことを言っていた。

 だがオレもゾーイとおんなじことを考えていた。

 魔物の肉を食ったことにより、オレ自身に何か変化が起きているということを。

 魔物の肉を食い、最強へと進化するということは、人間の心を捨てることだということを。

 自分自身が魔物になっていくということを……。

 だがオレにはまだ人間の心が残っている。

 オレの心はまだ魔物にはなっていない。

 オレはそう思い、ダンジョン91階層につながる階段をおりていった。

 やれやれといった顔をしているエルマ、サック、アレク、エレンの四人もオレが先に進むとついてくる。

 グレアはオレがいくならいくというふうに、オレのあとをついてきた。

「まじかよ……」

「異形のモンスターを倒してもなお……まだ進むつもりか……」

 後ろからそんなことをつぶやいたのは、ノスカー。

 ノスカーとゾーイの二人は、オレの後ろ姿を後ろから見ていた。

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