第44話
昇格試験も無事に終了した。
昇格試験を受けると決まったときは、昇格試験に落ちたらどうしようとか、ルーキーと呼ばれながら昇格試験に落ちたらどうしようとそう思っていたが、とくになんの問題もなく、昇格試験をクリアした。
ほかの冒険者が大熊LV25、大熊LV27と戦っているところを帰る前に後ろから見る。
横から見る。
どうやらほかの冒険者が昇格試験を受けるところを、Eクラスの冒険者たちは見ることができるらしい。
まだ帰らずに中でほかの冒険者の昇格試験を見ることもできるようだ。
大熊LV27を倒して、昇格試験のモンスターを倒して、喜んでいる冒険者。
反対に昇格試験のモンスターである大熊LV25を倒すことができずに、地面に手をついている、つまり昇格試験に不合格になった冒険者もいた。
みんながみんな昇格試験を合格できるわけじゃないんだ。
オレはそう思いながら、昇格試験を受けている冒険者を見ていた。
その中に、戦闘中の中に、試験の最中の、ゴブリンスレイヤーのメンバーの一人であるリョウコもいた。
リョウコを発見した。
リョウコは大熊LV25、大熊LV27から離れたところから、雷魔法を使って戦っている。
「サンダー」
「サンダー」
「サンダー」
魔法使いは敵モンスターに近づかれたら、モンスターに接近されたら、かなり危険な状態になるようだけれど、リョウコは魔法攻撃力は高いからか、何度かの攻撃で大熊LV25を倒していた。
そして大熊LV27もサンダーの魔法で倒す。
やるなあとそう思ったときのことだった。
なんだか大熊LV27の様子がおかしい。
大熊はそのヒットポイントが赤いゲージになっているのに、最後の一撃を与えたはずなのに、まだ地面に倒れない。
なんだか苦しそうにしながら、大熊は叫び声を突然上げた。
「ぐわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
という大熊の叫び声。
一体何事かと、ほかの昇格試験を受けていた冒険者たちも、叫び声を上げているモンスターに目を奪われる。
モンスターとの戦闘中に目を奪われるのはいけないことだとはみんなわかっているのだろうが、それでもそのモンスターに目を奪われている冒険者が多かった。
オレはもう昇格試験が終わっていたので、いつ帰ってもよかったが、なんとなくモンスターに目を奪われている。
扉のほうには向かいながらも、そのモンスターを見ていた。
試験官もまた、その大熊が赤いオーラを背負いその場に立っているところを見ていた。
こんなことがあるのだろうか。
そう思うようなことが、今目の前で起きた。
大熊LV27が。
巨大熊LV42へと進化する。
こんなことがおこりえるのだろうか。
モンスターのレベルが上がった。
モンスターのレベルがしかも急激に上がった。
巨大熊へと進化したモンスター。
それを見て、冒険者が慌て始める。
試験などやめて、ここから逃げ始める。
「うわああああああああああああああああああああああああああ」
試験官は巨大熊LV42を見て、声を上げた。
「昇格試験は一時中断とする。Bランク以上の冒険者を緊急で集めろ。これは緊急クエストだ。高難易度の緊急クエストだ。高ランクの冒険者を今すぐに集めろ。Bランク以下の冒険者は一刻も早くここから逃げなさいっ」
という試験官。
だが巨大熊LV42と対峙しているリョウコはといえば、ゴブリンスレイヤーのメンバーであるリョウコはといえば、進化したモンスター巨大熊に対して逃げることができなかった。
リョウコのその足は震え、その場から動かない。
リョウコは逃げたいのに、そこから逃げられない。
「早くそこから逃げなさい! そこの女の冒険者っ」
という試験官。
だがリョウコは足が震えて動けない。
巨大熊は目の前にいる敵に向かって、リョウコに向かって、襲い掛かった。
その冒険者を殺すというように。
その冒険者の命を奪い取るために。
魔法使いは敵モンスターに近づかれたら、その時点で終わりだ。
だから防御が苦手なリョウコは、逃げることができずに、襲い来る巨大熊に、目をぎゅっとつぶった。
オレはEランクの冒険者だから、本当はこの場から避難するべきだったけれど、逃げるべきだったけれど、仲間がそこにいるので、リョウコがそこにいるので、仲間のことを見捨てることはできなかったので、リョウコのことを見捨てることはできなかったので、リョウコの元へと向かって一目散にかけていく。
「スキル・光の玉」
これで敵モンスターの動きはとまる。
だがとまる時間は一ターン。
その前にリョウコのことを助けなければならない。
一ターンが経過し、巨大熊が動き出す。
オレはもうリョウコの前まで移動していた。
オレは機動力は高いのだ。
毎日毎日毎日デイリークエストをこなしていたので、魔の森に毎日毎日毎日走っていたので、機動力は高い。
足ははやい。
オレはリョウコの前に立つと、叫んだ。
「スキル、まぶしい光っ」
ぴかっ。
とまぶしい光が辺りを照らした。
巨大熊の攻撃をかわす。
そして巨大熊LV42はリョウコを狙うか、それともオレを最初に殺すか、じっとこちらを見て考えていた。
巨大熊の動きはとまっていた。
どうやらどうするか悩んでいるようだ。
そして、オレのことが厄介だとそう巨大熊は認識したのか、狙いをオレに変えてきた。
き、きたっ。
はやい。
その動きははやい。
「そこのおっさんの冒険者、お前もはやくここから逃げるんだっ。Eランク程度のお前では、巨大熊は倒せないっ。巨大熊はまだ倒せないっ」
倒せないじゃない。
倒すしかないんだよ。
リョウコを守るために、知り合いの冒険者を守るために、オレは戦うしかないんだ。
こんなモンスターを一人で倒せるだろうか。
無能なオレに倒すことができるのだろうか。
城から追放されたオレに。
無能なオレにできるだろうか。
できないかもしれない。
でもやるしかない。
できないじゃない、やるしかないんだ。
やらなければ、殺される。
そしてオレは紅蓮の炎のメンバーだ。
Aランクの冒険者パーティーの一員だ。
やれる。
やれるはずだっ。
自分を信じろっ。
オレの仲間たちに今まで鍛えてもらったことを、思い出せっ。
紅蓮の炎のメンバーの顔を思い出す。
あいつらのおかげで、オレはここまでレベルが上がった。
強くなれた。
ほかの仲間のおかげで、リョウコたちゴブリンスレイヤーのメンバーのおかげで、オレはここまで強くなれた。
だから、オレはみんなのために、こいつを倒す。
リョウコは腰が抜けて動けないようだし、オレがこいつを、巨大熊を倒すしかない。
「リョウコ、まだ動けそうにはないか」
「サトウさん、はやく逃げて。わたしのことはいいからはやく逃げてっ」
そんなことを言われても、今更逃げられるわけがないだろうが。
仲間を捨てて。
お前を捨てて。
モンスターが向かってきているというのに、お前を置いてここから逃げられるわけがない。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ」
オレは巨大熊LV42に向かっていった。
オレのやれることなんてただ一つ、スキルまぶしい光を使って、敵と戦うことだ。
一ターンしか敵の動きを止められない光の玉は、パーティーでの戦闘以外では使えない。
使いものにはならない。
「スキル・まぶしい光」
オレはスキルまぶしい光を使った。
巨大熊LV42はまぶしい光で、目がうまく見えなくなる。
「ぐぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
という声を上げながら、巨大熊は目が見えないながらも、攻撃を仕掛けてくる。
その巨大なするどい爪で、オレの身体を切り裂こうとしてくる。
だが当たらない攻撃は怖くない。
何も怖くはない。
もう、何も怖くないっ。
自分のスキルを信じろ。
このスキルは、敵の攻撃が当たらない。
ほとんど当たらない。
オレは巨大熊に向かっていく。
やるべきことはただ一つ。
相手の弱点に向かって、相手の目に向かって、このこぶしを向かわせればいいだけだ。
このこぶしでただ相手の目をぶん殴ればいいだけだ。
オレはまずは相手のボディーに攻撃する。
だが相手のボディーが固すぎて、いまいち攻撃がヒットした感じがない。
大ガエルは身体がぬめぬめして攻撃がうまくヒットしなかったが、巨大熊の身体は反対に固すぎる。
巨大熊の攻撃をうまくかわしたところで、反撃だ。
今度は巨大熊の目を狙う。
よくエレンがやっていた攻撃を思い出したのだ。
相手の弱点を狙え、といっていたエレンのことを思い出したのだ。
オレのこぶしは巨大熊LV42の目に突き刺さった。
「ぐぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
という悲鳴を上げる巨大熊LV42。
いけるっ。
いけるぞっ。
このまま行けば、いけるっ。
試験官もまた、期待の顔でこちらを見ている。
オレは巨大熊に連続で攻撃を仕掛ける。
一。
二。
三。
四。
と連続で攻撃を仕掛けた。
それはすべて巨大熊LV42の目を狙ったものだった。
「ぐぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
という巨大熊の悲鳴。
だが手ごたえはなし。
何度も何度も何度も何度も。
飽きるくらい、手がぶっこわれるくらいに巨大熊の目をぶん殴ってはいるが、巨大熊のヒットポイントゲージが青色から緑色ゲージへと変化していた。
黄色いゲージに変化するだけか。
まだこんなに巨大熊のヒットポイントは相手のヒットポイントはこんなに残っているのか。
オレはスキルを発動させる。
それは光の剣。
だがそれはただの光の剣ではない。
オレは最強の剣をイメージする。
それはゲームでやったことのある、剣のイメージ。
最強の剣のイメージ。
ゲームの中での最強の剣、聖剣エクスカリバーのイメージ。
聖剣エクスカリバーはどんな剣だっただろうか。
どんな形をしていただろうか。
どんな色をしていただろうか。
思い出せ。
イメージしろ。
イメージするんだ。
そしてこの右腕の中に、聖剣エクスカリバーを作り出すんだ。
「こい、聖剣エクスカリバー!!!」
オレは聖剣エクスカリバーを作り出していた。
だがその剣は聖剣エクスカリバーではなかった。
聖剣エクスカリバーには遠く及ばない、攻撃力がはるかに低い、聖剣エクスカリバーではない偽物の剣だった。
いわゆる贋作だった。
レプリカだった。
だがそんなことはどうでもいい。
攻撃力は本物よりも低くても、それでも。
目の前にいる敵を倒せる武器であるのなら、攻撃力が多少低くてもなんでもいいっ。
レプリカでも、本物であろうと、敵を倒せさえすればそれでいい。
「食らえ、聖剣エクスカリバーああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
「ぐぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
聖剣エクスカリバーはたった一度の攻撃でぶっ壊れてしまう。
消失してしまう。
だが一度壊れても、また作ればいい。
何度も何度もオレの魔力が切れるまで、作り出せばいい。
「こい、今度はもっと本物に近い、攻撃力が本物に近い、聖剣を、こいっ。聖剣エクスカリバーあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
ぴかんっ。
オレの右腕がぴかっと光った。
その右手の中に、聖剣エクスカリバーがうまれる。
だがその聖剣エクスカリバーも、本物とは呼べない剣だった。
偽物の剣だった。
まがい物の剣だった。
レプリカだった。
でもさっきよりは少しましだった。
攻撃力はさっきよりは高かった。
これで十分だ。
これでも、レプリカでも、巨大熊を倒すことはできる。
「食らえ、聖剣エクスカリバーああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
「ぐぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
聖剣エクスカリバーがぶっ壊れる。
そしてオレはまた剣を作り出す。
「来い、聖剣エクスカリバーああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
そして聖剣エクスカリバーでの攻撃。
巨大熊を倒した。
オレの手は巨大熊の血で真っ赤になっている。
オレの顔は巨大熊の血で真っ赤に染まっていた。
オレは巨大熊を倒したことに気が付かずに、巨大熊の目を狙って聖剣エクスカリバーを作り続け、何度も何度も何度もそれを作り出し、もう死んでいるはずの巨大熊に向かって攻撃をし続けた。
動かない巨大熊に向かって攻撃をし続けた。
オレは気が付かなかったのだ。
もう巨大熊が死んでいることに。
そしてオレはマジックポイントがつきたあと、地面に向かって倒れこむ。
「はあはあ……」
地面に崩れ落ちるように、倒れていく。
それを、そんな倒れていくオレを誰かが受け止めた気がした。
抱きとめて気がした。
「サトウさん……サトウさん……大丈夫ですか? しっかりしてください、サトウさん!」
それはリョウコだった
よかった。
リョウコは無事らしい。
リョウコはもう動けるらしい。
だったらこの巨大熊から逃げたらいい。
オレを置いて、逃げたらいい。
「サトウさん……サトウさん……ありがとうございます。サトウさんのおかげで……わたしはモンスターに殺されずにすみました。巨大熊に殺されずにすみました」
「そういえば、巨大熊は……?」
どこにいったのだろうか。
巨大熊は真下で息絶えている。
「もう倒しました。サトウさんが巨大熊を倒したんです。不思議な剣を作って、それで何度も何度も何度も攻撃をして、剣が壊れても、攻撃をし続けて、倒したんです」
「そうか。気づかなかった。オレはもう……敵を倒していたのか……」
そして試験官がオレのことを見て、驚きの顔をしていた。
驚きの声を上げていた。
「聖剣……聖剣エクスカリバーを作り出しただと!? ありえない。そんなことができるものがこの村にいるわけがないっ……お前は……お前は一体……何者だっ」
という試験官。
オレはそのリョウコの言葉を聞くと、体力を使い切ったからだろう、巨大熊を倒して安心したからだろうか、ヒットポイントもマジックポイントもすべて限界まで使い切ったからだろうか、意識がなくなった。
目の前が真っ暗になった。
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