第43話

 昇格試験の会場にはたくさんの冒険者がいた。

 これが昇格試験を受けるEクラスの冒険者らしい。

 その冒険者の姿だけを見れば、おっさんであるこのオレなんかよりも、ずっと強そうに見える。

 だがその同じ昇格試験を受ける冒険者は、なぜかこのおっさんであるこのオレを見て、

「あれ、サトウじゃねえか」

「サトウってのは、あの紅蓮の炎のメンバーか? あいつがAランクのパーティーに入った、ルーキーと呼ばれている冒険者なのか。かっこいいな」

 なんてことを言ってくる。

 このオレがかっこいいだと?

 おっさんのオレをどう見れば、かっこよく見えるのかそれが不思議でならないが、この昇格試験の会場にきたEクラスの冒険者から言わせれば、このオレはかっこよく見えるらしい。

 ありえんだろう。

 だってオレ、ただのおっさんなんだぜ?

 見た目がただのおっさんなんだぜ?

 普通に見れば、どうやってもかっこうよくなんて見えないはずだが、やはりルーキーと呼ばれているせいだろうか。

 紅蓮の炎のメンバーの一員だからだろうか。

 それがオレをより強く、よりかっこよく見せているということなのだろうか。

 今日の昇格試験を担当する試験官がこほんと咳ばらいをして、言った。

「静かに」

 いろんな冒険者がオレのこと、そしてこれから始まる昇格試験のことについてだったりを話していたが、試験官の言葉により、場に静寂が訪れる。

 試験官は言った。

「昇格試験はあるモンスターの討伐をしてもらいます。そのモンスターを討伐すれば昇格試験は合格となります」

 という試験官。

 なんだ。

 出現するモンスターを倒せばいいだけか。

 それは魔の森に出現するモンスターを討伐するのと、何も変わらなかった。

 これくらいの試験なら問題なくクリアできそうだ。

 昇格試験に落ちる場合は、モンスターとの戦闘で戦闘不能になったり、もうこのモンスターは討伐できない、そう思ったときに試験官に向かって棄権するということを告げれば、昇格試験は終了となるらしい。

 だからどんなに強いモンスターが出ても命を懸けてまで戦う必要はないようだ。

 そして試験官は昇格試験で出現するモンスターを言った。

「昇格試験に出現するモンスターは……大熊だ」

「大熊!?」

「大熊かよ」

「大熊とか……今回の試験はなかなか厳しいことになりそうだな。今回の試験は合格率がかなり低いことになるんじゃないか?」

 というようなことを、冒険者たちが話していた。

 だがオレから言わせるとただ出現するモンスターを倒せばいいだけである。

 何も難しいことはないだろう。

 そう思いながら、オレは昇格試験が始まるのを待った。

 これは冒険者ギルドでミリカさんの列があくのと同じだった。

 昇格試験は一人一人順番にやっていくので、ほかの冒険者が終るのを待ってから、オレの順番が来る。

 まだかなあ。

 まだかなあ。

 目の前ではほかの冒険者が昇格試験の部屋に入り、その部屋にいるモンスターと戦い、そして扉から戻ってくる、という光景が繰り広げられている。

 そして一人、また一人とオレの前の冒険者が進んでいき、ついにオレの番である。

 オレは昇格試験だとか、というかテストとか、試験とかいう名のついたものは苦手なので、ほんのちょっと緊張していた。

 口の中がなんだか渇いていた。

 モンスターを倒すだけなのだから緊張するな。

 ただ普段通りにモンスターを討伐すればいいだけだろ。

 と、自分に言い聞かせる。

 でもやっぱり試験と名のつくものはちょっと苦手で、オレは緊張しながら、試験の部屋の扉を開けた。

 そこには準備してあったようにモンスターがいた。

 大熊がいた。

 こいつが、昇格試験のモンスター大熊である。

 大熊の数は二体いるようだ。

 この二体を倒せば、昇格試験に合格というわけか。


大熊LV25


大熊LV27


 大ガエルLV45に比べたら、それほどには思えない敵である。

 敵のレベルは20台か。

 この程度のモンスターなら、今までにいくらでも討伐してきた。

 敵のモンスターのレベルがこの程度で本当にいいのだろうか?

 もっと高いレベルじゃなくていいのだろうか?

 そう疑問を持ったオレは、大熊とオレとの戦闘を見るために、近くにいる試験官に質問をすることにした。

「あの試験官」

「なんだ?」

 試験官は厳しい顔をしている。

 これから昇格試験なんだというのに、話しかけるな、という顔にも見える。

「本当に昇格試験のモンスターはあれでいいんですか?」

 もっと強いモンスターのほうがいいのではないだろうか?

 そう思ったオレはそう言った。

 だが試験官は言った。

「なんだ? 大熊LV27では敵のモンスターが強すぎたか? だが昇格試験の敵のモンスターはこれが標準なんだ。このくらいのモンスターが倒せぬのなら、それはDランクの冒険者としての資質と覚悟が足らないということだ」

 と、どや顔で言ってくる試験官。

 いや、オレはもっと強いモンスターにしなくていいのか。

 とそう聞きたいのだが。

 まあいいか。

 昇格試験のモンスターは大熊LV27と大熊LV25ということなので、さっさとこいつらを倒してしまおう。

 オレだって今までにこのくらいのモンスターは倒してきたんだ。

 LV25くらいのゴブリンだって倒した経験があるのだ。

 だから今更、この程度のモンスターを倒せないわけがない。

「スキル・まぶしい光っ」

 この程度のモンスターなら、スキルまぶしい光を使わなくても、倒せるだろうが、ここは慎重に戦うことにした。

 舐めプしてLV27の大熊に負けたら恥ずかしいからな。

 馬鹿らしいからな。

 大熊LV27、大熊LV25はまぶしい光のせいか、その目がくらまされていた。

 だが大熊LV27はそれでも関係ないと、オレに向かってその鋭い爪で攻撃を仕掛けてくる。

 オレの身体を八つ裂きにしようと、その鋭い爪で攻撃を仕掛けてくる。

 だがオレに向かってこない攻撃などよけるのは簡単だ。

 大熊LV27の攻撃をかわすと、オレは大熊LV27の懐に入った。

 そしてそのまま、

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ」

 という声を上げながら、大熊LV27の腹に向かって、このこぶしをぶちかます。

 手ごたえあり。

 大熊LV27程度なら、一撃で倒すことができるということだろう。

 大熊LV27は倒れた。

「よし。あと一体で終わりだな」

 というオレ。

「スキル・まぶしい光」

 と、オレは叫ぶと、もう一体の大熊LV25に向かっていった。

 大熊LV25もまた、負けてはいられないというふうに、ものすごい勢いでこちらに向かってくる。

 大熊LV25は立ち上がり、その鋭い爪でオレに攻撃を仕掛けてきた。

 だが大熊LV25の攻撃を軽くかわしたオレは、その大熊の腹に向かって、そのこぶしを腹にぶち込んだ。

 手ごたえあり。

 相手のレベルがこの程度なら、27くらいなら、まったく相手にならないんだな、とそう思いながら、オレは自分の目の前に倒れている大熊LV25、大熊LV27二体のことを見下ろした。

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