第38話

 オレたち紅蓮の炎は冒険者ギルドへと集まった。

 今日は紅蓮の炎のメンバーで、Bランクのクエストをやろう。

 Bランクのモンスターを討伐しよう。

 そういう目的で集まったのだ。

 と、頬を怪我をしているエレンを見て、アレクが言った。

「おい、エレン。どうしたんだよ。怪我してんじゃねえか」

「なんでもねえよ」

 というエレン。

 なんだかエレンはむっとした顔をしている。

 その顔だけ見れば、なんだか不機嫌なような、なんだかなにかに怒っているようなそんな顔にも見える。

 きっと模擬戦での結果に不服で、Eランクの冒険者であるこのオレとの模擬戦での負けた結果に不満で、すねているのだろう。

 怒っているのだろう。

 オレはBランクの冒険者がEランクの新人の冒険者に負けたからといって、そんなに怒るなよ、子供じゃねえんだから、というふうに、エレンの肩をがんがんがんと叩いた。

 エレンはオレに強く肩を叩かれて、なんだかちょっと驚いたような顔をしている。

 まあオレは中年だからな。

 おっさんだからな。

 十代くらいの男の扱いにはなれているのである。

「なに?」

「どういうこと?」

「?」

 というような顔をしているのは、エルマ、アレク、サックの三人。

 エレンには悪いが、オレはこの三人にエレンとの模擬戦のことを話すことにした。

 まあわざわざ隠すことでもねえだろ。

「おい。サトウ、模擬戦の話はするなよっ」

 というエレン。

 とはいえ、模擬戦でオレがエレンに勝ったのは事実である。

 それに戦いに勝ったとか、負けたとか、そういったことをいちいち気にしているのは、子供くらいのものである。

 大人になれば、おっさんにもなれば、勝負というのは時の運だということがわかるのだから。

 まあ圧倒的な実力差の前には、時の運なんてものもまた無力化するのだが……。

「がははははっ。エレンに模擬戦で勝ったんだ」

 と笑いながら、オレはBランクの冒険者、エレンに模擬戦で勝利したことを伝えた。

 この三人の冒険者、エルマ、アレク、サックの三人は、そのオレの報告にちょっと驚いている。

「嘘だろ? エレンに勝利した?」

 というのはサック。

 サックは本当に驚いた顔をしている。

 そんなにも驚くことなのだろうか?

 まあ実際に、エレンはかなりの強敵で、エレンを倒すことにはかなり苦労したことは事実なのだが……。

「サトウ、お前、エレンに勝っちまったのかよ……。正直、お前がここまで強い冒険者だとは思っていなかったぜ。オレに勝ち、そしてエレンにまでかっちまうなんて……すげえ男だな。っていうか、オレだったら、絶対エレンに勝てねえよ。こいつ、くそつええのに。よく勝ったな、お前」

 というのはアレク。

 アレクは言った。

「サトウ、このままA級の冒険者にまでなっちまうんじゃないか?」

 というアレク。

 そうなるといいのだが……。

 そんな簡単にA級の冒険者になれるとか、そんなに甘く考えていいのだろうか。

 オレはまだE級の冒険者。

 まずはD級の冒険者にならないといけないし、そのあとにC級、B級と進み、そしてA級である。

 一つずつ進まない限り、A級の冒険者にはなりようがない。

 C級の冒険者、B級の冒険者になるのだって大変なことなのだ。

 難しいことなのだ。

「サトウ、やるじゃない。エレンに勝つなんて。まさかあなたがここまでやるとは思っていなかったわ。想像以上ね」

 と、エルマは言うと、オレの背中をどんと叩いた。

 エレンはというと、

「サトウ、なんで本当のことを言うんだよっ。お前に負けたこと、黙ってくれててもいいじゃないかっ」

 と言った。

 B級の冒険者がE級の新人の冒険者に負けることは、エレンの顔を見ていればわかることだが、上の冒険者にとっては、ランクの高い冒険者にとっては、恥という認識らしい。

 屈辱というものらしい。

 逆にいえば、E級の冒険者が、低ランクの冒険者が、低いランクの冒険者が、自分よりも上のランクの冒険者を倒すということは、すごいことらしい。

 まあ当たり前のことだが。

 普通はほどんどおこりえないことをやったということなのだろう。

 オレにとって、自分よりも高い冒険者ランクのものを倒すことは、普通のことなんだけど。

 いつものことなんだけど。

 と思いながら、とりあえず何も考えずに、エレンの肩を強く叩いておくことにした。

「なんだよ、やめろよ。いてえな」

 というのはエレンだった。

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