第34話
朝。
鳥のさえずりが聞こえ、オレは目を覚ました。
紅蓮の炎での初めての戦闘に興奮したせいか、昨日はなんだかよく眠れなかった。
A級の冒険者エルマの雷魔法を思い出す。
サンダーボルトを思い出す。
あれがA級の冒険者なのか。
LV40の敵モンスターを一撃で倒すのが、A級の冒険者なのか。
すごい。
すごすぎる。
ほかの冒険者のエレン、アレク、サックの三人のB級の冒険者はそんなに強いと思わなかったけど、ただ一人、エルマだけはその中でも格が違っていた。
あれがA級か。
オレもあんなふうな冒険者になりたい。
オレもあんなふうな冒険者になりたかった。
そう思えるほどに、エルマの魔法を使う姿はかっこよかった。
オレは自分の右手を見る。
オレもまた魔法を使うことはできないのだろうか。
一応はオレも勇者である。
勇者であるのなら、魔法使いであるのなら、僧侶であるのなら、賢者であるのなら、魔法を使うことができる。
だからこのオレにだって魔法の才能はあるはずなのだけれど、オレに使えるスキルはなぜかまぶしい光という人に見せたくないそんなスキルだけだ。
魔法の練習をしたら、魔法が使えるようになるのだろうか。
エルマのような魔法使いになれるのだろうか。
まあそんなことは無理だろう。
オレは異世界召喚されながら、ただ一人だけ無能という理由で追放された男である。
何を思って、中年のおっさんなんかを召喚したのかわからないが、こっちが聞きたいくらいだ、意味不明な話である。
だからどんなに魔法の努力をしても意味はないだろう。
魔法を使うのには才能というものが必要なのだ。
オレは戦闘能力だけはそこそこだから、A級のパーティーに入る、というところまでは進むことができたけれど。
まあここら辺がオレの限界なのか。
でも大ガエルの討伐で、金貨四枚と銀貨五枚ほどの日銭を稼ぐことができたので、紅蓮の炎でやっていけば、食うことに困ることはないだろ。
冒険者ランクが高いパーティーに入ると、その分収入も増えるらしい。
オレはソロパーティーでやっていたのは、その情報を知らなかったからだ。
強いパーティーに入ると、その分冒険者ランクが低くても、稼ぐことができるということを知らなかったからだ。
金貨四枚と銀貨五枚というのは、日本円にすると四万五千円くらいの金額。
一日に四万五千円を稼ぐのならば、それはなかなかの稼ぎだろう。
なかなかの日給だろう。
宿に泊まるには十分すぎるお金だし、うまい飯を食うのも、うまい酒を飲むのにも、十分すぎるほどのお金だ。
むしろこんなに稼いでも、何に使えばいいのかわからないくらいだ。
エリクサーがかえるかもしれない。
ただそれ以上に、オレはあのサンダーボルトを見て、こう思っていた。
仲間の役に立ちたい。
エルマの役に立ちたい。
エルマにすごい冒険者だったといわれるような、仲間にしてよかったといわれるような、そう思ってもらえるような、冒険者になりたい。
ようやくオレは強い冒険者になりたいと、そう思うようになっていた。
まあうまい酒や、うまい飯も食いたいとは思ってはいるが。
そして強くなるには何が必要かというと、それにはやはり、最低限の努力が必要だろうか。
努力。
努力なんてせずに、最強になりたかったのだが。
せっかく異世界にきたのだから、元の世界のように努力なんてせずに、最初から最強でもいいじゃないか。
なんでおっさんになってまで、努力しなくちゃいけないんだよ。
そんなことを思いながら、エルマのことを思い出す。
エルマの顔を思い出す。
その顔を思い出すと、少しだけやる気が出た。
頑張ろうというやる気が出た。
強くなろうという気持ちになった。
エレン、アレク、サックの顔を思い出しても、別にやる気は出なかったが。
なんだかもう眠れる気がしなかったので、ユイカが来るまでの間、魔法の練習をしておこう。
魔法というのは、自分の体内にある魔力を、例えば手から発動するのが魔法である。
だからこの体内にある魔力を手に集めればいい。
言葉で言うのは簡単だ。
だがオレにはその体内にある魔力を集める、ということがまずできなかった。
力むと出てくるのは魔法ではなく、屁だった。
屁ってなんだよ。
よかった。
ユイカがもう朝のご飯を持ってきていなかったことを確認して、もう一度魔法の練習に戻る。
集中しろ。
集中するんだ。
それ以外のことは何も考えるな。
ただ、魔法を使うことだけを考えろ。
目を閉じ、身体の中の魔力が移動するイメージを思い浮べる。
オレは勇者のくせに、魔力は少ない。
なんで勇者なのに魔力が少ないのだろうか。
勇者というのは、剣の扱いが得意で、魔法の扱いも得意で、仲間に信頼されているそんな男のはずである。
勇者がおっさんというだけでおかしいし、さらに無能というのもおかしい。
魔法が使えない勇者とかおかしい。
だがどんなに文句を言っても、オレの身体は魔力の扱いが下手な身体だった。
そうだ。
そんな余計なことを考えるな。
ただ無心になり、ただ身体の中にある少ない魔力を、動かすんだ。
イメージしろ。
身体にある魔力を動かすイメージをしろ。
お、動いた。
これが魔力なのか。
簡単なことができただけだというのに、オレはなんだか嬉しかった。
簡単なことができただけなのに、ものすごい嬉しかった。
だがこんなところで喜んでばかりもいられない。
ほかのものよりも魔法が苦手なのなら、ほかのものよりも魔法を練習する時間をとらなければならない。
右手にあたたかいものを感じた。
これが魔力。
オレはまだ目を閉じたままだ。
うっかり目を閉じて、今集中しているものが途切れたら困る。
と、なにかが手からふわっと出てきた気がした。
これが魔法。
この温かいものが魔法なのだろうかとそう思いながら、オレは目を開いた。
それはふわふわと空中に浮く、光の玉だった。
つんつんと触ってみても、壊れない光の玉。
ぴかぴかとまぶしく光ったあと、数秒が経過したあと、それは空中から消えた。
まだこんなもんか。
あれだけ力をこめて魔力を集めても、これだけのことしかできないのか。
右手から炎が出たり、空から雨が降ったり、空から雷を落としたり、風を巻き起こしたり、そんなことはまだできないのか。
でもまあいいかとも思う。
これははじめの一歩である。
魔法を使ったはじめの一歩だ。
と、もうユイカが来る時間である。
やばい。
やばい。
髪の毛をセットしていない。
洗面所で顔を洗って、髪をセットして、ユイカのことを待つか。
と、ユイカがやってきた。
「おっさん、おはようございます! 朝ごはんの準備をしますね」
「おう。楽しみだな。はあはあ」
息を乱しているオレ。
別にユイカに興奮したわけではない。
ただ髪の毛をセットするのに時間が足りなかっただけだ。
焦っていただけだ。
今日はなんの食事が出るのだろうか。
わくわくしながらテーブルに座ると、そこにはうまそうなサンドイッチの料理が置かれていた。
野菜と肉が挟まれた、うまそうなサンドイッチである。
ユイカは言った。
「今日の朝ごはんはオーク肉を使ったサンドイッチですっ」
「うまそうだね」
と、オレは言うと、手を合わせてサンドイッチを手でつかんだ。
そしてそれを食べる。
「う、うまい! さすがはユイカだな! ほんとユイカの料理はうまい!」
とオレは言って、オーク肉のサンドイッチを食べた。
サトウ 40 男
LV:12
STR:140
VIT:140
INT:140
DEX:140
AGI:140
LUK:1300
武術LV4 身体強化LV4
気配感知LV3
光魔法LV1
<スキル>
なし
<固有スキル>
まぶしい光
<加護>
太陽神の加護
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