第30話
なんでこんなことになったのだろうか。
地下訓練場の先生トールと酒場で酒を飲んでいたら、Bランクの冒険者パーティーからパーティーに入るよう誘いを受けたのはいいのだが……。
なぜかそのBランクのパーティーの一員である、アレクと戦闘をすることになってしまった。
その理由は以下の通りである。
「ええ? なんで新人の冒険者である、このオレなんですか? オレはまだ新人の冒険者なんですよ?」
Fランクになったばかりの新人の冒険者よりも、ほかの冒険者を誘ったほうがいいと思う。
例えば隣にいるCランクの冒険者のトールとかを、紅蓮の炎に誘ったほうがいいとオレは思うのだが……。
「なんでって、あなたの力がほしいからよ、サトウ」
というのはエルマ。
エルマというのはこの酒場で最初にオレに声をかけてくれた少女だった。
ほかの冒険者が声をかけてくれたことは嬉しいし、そしてAランクの冒険者がオレのことを必要だ言ってくれるのは嬉しいが、果たしてこのオレに、Aランクのパーティーでやっていくことができるのだろうか。
そんなことを少し考えていると、エルマは言った。
「わかったわ。だったら模擬戦をやりましょう。アレク、それでいいわね」
アレクはうなずいて、言った。
「ああ。楽しみだぜ。最近話題になっているルーキーと、一戦やってみたかったんだ」
というアレク。
ええ。
この目の前に立っているアレクという冒険者は、ものすごいやる気になっているようだけど、本当にこのアレクはわかっているのだろうか?
オレは新人のFランクの冒険者に過ぎない、そしてただの無能な冒険者であるということが。
そしてオレは異世界召喚されながら、才能がないと言われた冒険者だということを……。
とはいえ、異世界から召喚されたことは、ほかのものには伝えていないわけだから、そんなことをほかの冒険者が、少なくともこの村にいる人達はそのことを知らないんだろうけれど。
そしてアレクは準備運動をしているようだ。
アレクは装備を持っていない。
防具を装備しているだけだし、その手には武器が握られていない。
B級の、しかもオレと同じ素手で戦う冒険者のようである。
まあ職業とかそういったものをわかりやすく言うと、武道家というのがもっとも一番近い職業なのではないだろうか。
「こいよ」
というアレク。
オレとアレクの戦闘を見ているのは、エルマ、エレン、サックの三人だった。
こいとわざわざ自分から言うのだから、その言葉通り、こちらから仕掛けさせてもらうことにしよう。
さすがはB級の冒険者。
その威圧感はC級の冒険者とはまるで違う。
猫とトラくらいの威圧感の違いがある。
これはそう簡単に勝たせてはもらえないだろう。
とはいえ、ここでアレクに負けたら、それはオレがB級の冒険者以上の冒険者になることができない、ということでもある。
だからいくら相手が強い冒険者であろうと、オレよりもランクの高い冒険者が相手だろうと、負けるわけにはいかない。
オレは魔の森でゴブリンとひたすらに戦い、レベルを上げてきたのだ。
できるはずだ。
Cランクの冒険者トールにだって勝つことができたのだ。
相手がBランクの冒険者アレクであろうと、それはできないことではないっ。
「いくぞ、アレク」
来いと挑発されたので、オレも一直線に誘いにのるようにアレクへと向かっていく。
そして身体強化をした身体で、アレクの顔面をぶん殴る。
だがその攻撃はアレクの顔面を捕らえることはなかった。
すかっと空ぶってしまう。
あれ?
攻撃が当たらないなんてことがあるんだな。
ゲームだったらそういったこともあるけれど、オレは異世界にきてから攻撃をからぶったことはなかったので、そんなことを戦闘中だというのに、冷静に考えてしまう。
「悪くはない。だがどんな攻撃も当たらなければ意味はない……。さあ、こっちからも攻撃を仕掛けさせてもらうぞ」
というアレク。
アレクは構えた。
く、くるっ。
アレクの殺気を感じた。
模擬戦だというのに、殺気かよ。
トールとの模擬戦のときは、殺気というものを感じなかった。
それはただの戦闘訓練だったのだが、今この場の模擬戦は、まさに殺し合い。
一発でやられないためには、これしかない。
「スキル・まぶしい光」
身体強化を使ってふせぎきれるかわからなかったので、オレは一度も敵の攻撃をまともに食らったことがないこのスキル、まぶしい光を使った。
だがアレクはにやりと笑う。
「サトウ、知ってるか? 確かにその光はまぶしいが……気配感知のスキルを使えば……サトウ、お前の居場所はわかるんだぜ?」
し、しまった……。
敵に居場所がばれているのなら、スキル、まぶしい光を使っても、意味がないっ。
そう思って、まずいと思ったが……。
ものすごい勢いで迫ってきたアレクの攻撃は、右のストレートの攻撃を仕掛けてきたアレクの攻撃は、その言葉とは裏腹に、オレには当たらなかった。
すかっと気持ちのいいくらいの空振りだった。
これはただのまぶしい光じゃない。
敵の攻撃をほぼよけることができる回避スキルだった。
「え?」
オレ自身が驚いていた。
「!?」
「なん……だと!?」
「そんな……馬鹿な……」
エルマ、エレン、サックは驚きの声を上げていた。
オレは驚きとともに、ビビらせやがって、とそんなことを思ってしまう。
何がお前の居場所はわかるんだぜ?
だよ。
攻撃外してんじゃねえか。
そしてアレクよ、お前は攻撃を空振りしたせいで、今、隙だらけだぜ?
オレはアレクのボディーを狙って、その隙だらけの腹を狙って、この右のこぶしをその腹にぶち込んでやる。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ」
という悲鳴を上げるアレク。
そのアレクの腹には、オレの右のこぶしが突き刺さっていた。
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