第31話

 オレの右のこぶしは、アレクの腹に突き刺さっていた。

 手ごたえあり。

 勝った。

 そう思ったまではよかったのだが、B級の冒険者、紅蓮の炎のパーティーメンバーの一人、アレクは地面にぶっ倒れたまま、動かなくなった。

 まさか、死んだわけじゃないよな。

 そんなわけ……ないだろ。

 オレはなんだかついにやってしまったか、モンスターならともかく、人間をやってしまうなんて。

 これだから人間同士の戦いはやりたくなかったんだよ、というような思いで、地面に倒れこんで動かなくなってしまったアレクを見下ろす。

「すげえ、マジでアレクの上をいきやがった」

「まあ私はこうなると思っていたけどね」

「まじかよ」

 と、オレとアレクの戦闘を見て、なんだか嬉しそうに語っている三人。

 その三人とは紅蓮の炎のパーティーの一員であるエルマ、エレン、サック。

 いや、あんたら三人さ、なんだかやたら嬉しそうにそんなことを語っているけど、このアレクとかいうやつ、本当に大丈夫なんですかね?

 アレク、地面に倒れたまま、息すらしないで、そのまま動かないんですけど?

「どう? サトウ。A級の冒険者である紅蓮の炎もなかなかやるでしょう?」

 といっているエルマ。

 いや、エルマさん、あなた、オレのことを心配するよりも、オレのことを気にかけるよりも、仲間であるアレクのことを気にかけたほうがいいんじゃないですかね。

 だってこのアレク、オレの攻撃を直撃したからか、死んだように動かなくなっていますよ。

 ほかの仲間も倒れたアレクのことは放置して、オレの周りに集まってくる。

「まさかアレクに勝つまで行くとは思っていなかったぜ。まあせいぜいいい勝負くらいにはなるとは思ってはいなかったけどな」

 と言って、オレの肩をぽんぽんと叩くのはエレン。

 いや、だからあんたらさ、地面に横になって倒れこみ、動かなくなっているこいつのことを、アレクとかいうやつのことを、少しは心配しろよ。

 と、一人だけまともな人がいたのだろう。

 サックという青年が今頃になって、こんなことを言った。

「あれ? アレクのやつ、ちょっと様子おかしくね? まさか、死んだ?」

「え? 嘘でしょう?」

 というのはエルマ。

「まさかとは思うけど、さっきの一撃で、アレク、死んだわけじゃないわよね? そんなわけないわよね。薬草を。ハイポーションを。あ、回復魔法を、」

 というエルマ。

 おい。

 こいつら。

 今頃になって、仲間のことを心配し始めやがった。

 オレなんて、アレクに攻撃が突き刺さった瞬間、あれ? もしかしてやばいことになっちゃったんじゃないの?

 と思っていたのだが。

 と、エルマは今頃になって慌てて、

「誰か、回復魔法を」

 と言っているエルマ。

 サックはというと、

「回復術士はお前だろエルマ」

 と言っていた。

 ああ。

 このエルマっていう少女、僧侶とか回復術士とかそういった職業なんだ。

「ああ。死なないで、アレク」

 というエルマとほかの冒険者、その中にはオレも含まれている、の願いもあって、アレクは生き返った。

 というか、ヒットポイントが真っ赤な状態から、ヒットポイントが青い状態へと戻っただけだが。

 そしてヒットポイントは回復しきっているはずなのに、なぜか瀕死の状態のようになって、はあはあいっているアレク。

 アレクは言った。

「サトウ、さっきはまじで死ぬかと思ったぜ。お前、強いな」

「すまんアレク。Aランクの冒険者がこんなに弱いとは思わなくて。ごめんなさい。すいません。もっと強いかと思っていました」

 というオレ。

 別に戦闘において、こういったことはたまに起こることのようだが、オレはなんだかすまない気持ちになって、そういった。

 そう謝った。

 冒険者なんだからこういったこともあるのかもしれないが、人間を殺すのはできればしたくなかったのだ。

 しかも仲間の冒険者を模擬戦でやっちゃうとか、そんなことはしたくなかったからな。

 というわけで、オレは手を伸ばしてきて立ち上がろうとしているアレクの手をつかみ、言った。

「すまん。アレク。次はもうちょっと手加減するよ」

 と。

 と、アレクは苦笑して、こう言った。

「馬鹿。手加減なんてしたら許さねえぞ」

 と。

 それからオレたちは、オレとトールは、紅蓮の炎のメンバーと酒場で食事をした。

 なんだかこんな大人数で食事をするのは、異世界にきて初めてのことだった。

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