第24話

 オレはいつものように洗面所で顔を洗っていた。

 昨日の魔の森の攻略は、結局は攻略途中で空がオレンジ色へと変化したので、ダンジョン攻略は途中で断念することになった。

 なかなか魔の森の攻略が進まないな。

 そんなことを思いながら、冒険者ギルドに戻ってきて、手に入れたモンスターの素材をお金に交換しにいったときのことである。

 いつも通りオレは冒険者ギルドのミリカさんの列に並んだわけだが、今日のミリカさんはいつもとは対応が違っていた。

 いつもなら、デイリークエストクリアのハンコを押し、そしてモンスターから入手した素材の数によって報酬がもらえるのだが、今日のミリカさんはこんなことを言ったのだった。

「サトウ様、おめでとうございます! 今日からサトウ様はFランクの冒険者です!」

「は?」

 一体どういうことだろうか?

 なかなか魔の森を攻略できなくて、一体いつになったら冒険者としてのランクが上がるのやらと思っていたのだが、このままで大丈夫なのだろうかと思っていた矢先のことなのだが、ミリカさんがそんなことを言ったのだ。

 え?

 冒険者ランクがFに上がっただって?

 どうして?

 なんて思っていると、目をぱちくりと開いて、信じられない顔をしているミリカさんは言った。

「サトウ様は大量のゴブリンを討伐したので、Fランクの冒険者になるにふさわしい実績だと、うちのギルドマスターが判断したんです。でもギルドマスターにサトウ様をFランクにするように推薦したのは、この私なんですよ」

 というミリカさん。

 そしてミリカさんはいつも通り、デイリークエストをクリアした報酬を渡してくれた。

 その金額は銅貨八枚。

 いつもの稼ぎの二倍ほどの金額を今日は稼ぐことができた。

 ランクが上がると、報酬が上がるというのは本当のようだ。

 日本円にして一日に八千円ほどの稼ぎである。

 とはいえ、冒険者ランクがFランクに上がったとはいえ、何もほかのことはかわりがないようである。

 次の日は同じようにやってきたし。

 そして洗面所から流れてくる水も、相変わらずに冷たい。

 そして宿屋から聞こえてくるいつもの明るい声もまたいつもと同じだった。

「おはようございます、おっさん!」

「おはよう」

「あれ、おっさん。今日はなんだか嬉しそうですねっ。なにかいいことでもあったんですか?」

 というユイカ。

 どうやらオレがうっすらと浮かび上がらせていた笑みに、ユイカは気が付いたらしい。

 オレはユイカにFランクの冒険者になったことを告げた。

 と、ユイカは言った。

「おっさん、すごいですね! もうFランクの冒険者になったんですね! すごいですよ、本当におっさんはすごい冒険者です!」

 というユイカ。

 Fランクになったくらいでそんなに喜ぶこともあるんだろうかというくらいに、オレとユイカは手を取り合って、喜んでいる。

 なんだかオレまで子供にでも戻ったときのような、そんなはしゃぎっぷりだった。

 すごいです! すごいです! と連呼するユイカと一緒に宿屋での時間を過ごして、今日もまた冒険者ギルドに行くことを今になって思い出した。

 そうだった。

 Fランクの冒険者になっても、モンスターを討伐しに行かないと、クエストをクリアしないと、日銭を稼がないと、生活をしていくことはできないのだった。

「あ、すぐに朝ごはんの準備しますね」

 というユイカがテーブルに料理を並べていくのを待って、そして朝食を急いで食べる。

 ユイカと時間を考えずに冒険者ランクが上がったことを喜んでいたら、いつもより数十分ほど時間がたってしまっていた。

 Fランクのクエストとは、どんなクエストがあるのだろうか?

 そこそこに強いモンスターの討伐依頼があるのだろうか?

 そんなFランクのモンスターを、このオレが討伐することなんてできるのだろうか?

 そんなことを思いながら、オレはミリカさんの受付の列に並ぶ。

 ミリカさんは笑顔で言った。

「サトウ様が今日から受けられるクエストはこちらです。討伐モンスターは少しレベルが上がってしまいますが」

 というミリカさん。

 今日のクエストの討伐依頼されたモンスターは、ロック鳥だった。

 ゴブリン以外のモンスターの討伐か。

 Fランクになりたてのこのオレが、ロック鳥なんてモンスターの討伐をできるのだろうか。

 討伐に成功することができるのだろうか。

 でもロック鳥を倒すと、報酬はどれくらいもらえるのだろう。

 銀貨が十枚以上もらえたら、うまい飯やうまい酒がたらふく食えるのにと、たらふく飲めるのにと、そんなことをオレは思うのだった。

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