第7話

「ミコトちゃん、これミコトちゃんへのプレゼントなのだけれど……」

 幼女のミコトがスマートフォンがほしい、スマートフォンがほしい、スマートフォンがほしいなとさんざん言っていたので、オレは幼女にスマートフォンをプレゼントすることにした。

 方法は簡単。

 ネットショッピングでスマートフォンを検索し、スマートフォンを購入すればいい。

 ただそれだけである。

 異世界でもどうやらお金は普通に使えるようで、たまったまま使わないでいたポイントを使い、スマートフォンを購入することにした。

 そしてこの異世界にどうやってスマートフォンが届くのか、それはわからないが、翌日になると、どこかからお城のオレの部屋に購入したものが送り届けられるのである。

 オレは小さな箱にちゃんと購入したものが入っているのを確認してから、それをミコトにプレゼントする。

 幼女はこれをプレゼントされて、喜んでくれるだろうか。

 プレゼントなんてしたことがないから、それを喜んでもらえるのか、少し不安ではあるのだが……。

 とはいえ、このスマートフォンがあれば、幼女も異世界でやっていくための元気が出るかもしれない。

 まあ考えていても仕方ない。

 はげからのプレゼントなんていらない! なんて言われないといいけど、なんて嫌な想像をしながら、スマートフォンを幼女にプレゼントしてみた。

 嫌な想像をしながら……。

 と、ミコトちゃんはスマートフォンが入った箱を受け取ると、

「え……。これ……なに?」

 というミコトちゃん。

 ミコトちゃんの後ろにはオレと同じように異世界に召喚された男女がいて、オレの行動がまるで怪しいやつの行動であるかのような疑いの目を持って、彼ら彼女ら高校生はオレのことを蔑んだような目で見ていた。

 いや、明らかにこのメンバーの中で、この勇者メンバーのなかで、おっさんであるオレだけが浮いているから、仲間でも作っておこうとそう思っただけなんだけれど……。

 さすがに若々しい男子高校生や女子高生と仲良くやるよりは、幼女のほうが楽に接することができるんじゃないかと、そう思っただけなんだけれど……。

 だってリュウノスケあたりだと、オレのことを禿げはげと言いそうだし、アヤノなんかだと人の頭を指さして、ぎゃははははと笑い続けそうな感じなのである。

 これは何かか……。

 まあそんなに仲良くもなっていないのに、急にプレゼントを贈る、というのはおかしかっただろうか。

 とはいえ、おっさんになると、そこそこのお金を持っているものなのだ。

 おっさんになってくると特に物欲というものもなくなってくるし、あれを食べたい、これを食べたい、なんて欲もそんなにはなくなってくる。

 おいしいものや、高級なものをたまに食べたいということはあるけれど、それもたまにで十分になるのである。

 というわけで、特に深いことも考えずに、幼女がほしいほしいと言っているから、何も考えずにスマートフォンを購入してしまったわけだが……。

 ここはまあ適当な言い訳をしておこうか。

「勇者メンバーの中でミコトだけがスマートフォンを持っていなかっただろ? だからミコトもスマートフォンを持っていたほうがいいかなと思って……。もしもダンジョンで誰かが迷子になっても、スマートフォンがあれば、連絡を取り合えるしね。余計なことだったかな?」

 というと、後ろにいるアヤノが突っ込みを入れるように言った。

「いや、そもそも私のスマートフォンは充電が切れてるんだけど……」

「あ? アヤノ、お前、おっさんにスマートフォンの充電してもらってねえの? してもらえばいいのに」

 というのはリュウノスケ。

 リュウノスケは言った。

「お前、スマートフォンが使えなきゃ、人間何のために生きてるかわかんねえだろ。さっさとおっさんにスマートフォンの充電してもらえよっ」

 アヤノはオレに自分のスマートフォンを渡すのが嫌らしい。

 なんでもはげのおっさんにスマートフォンを渡せば、それを使って、何をされるかわからないから、というのが理由らしい。

 何をされるかわからないって、スマートフォンの充電をするいがいに、何をするというのか……。

 ちなみにクラスのアイドル的存在のミコトも、眼鏡をくいくいといちいち押さえているショウヘイも、自分の持つスマートフォンをオレに預けてきた。

 というわけで、スマートフォンの充電ができていないのは、このギャルのアヤノだけなのである。

 ミコトはプレゼントされた箱を見ると、

「うわー」

 と声を上げた。

「こんなにたかそうなものをもらって、いいのかなー」

 というミコト。

 男子高校生、女子高校生が幼女のミコトの周りに集まってきて、

「うわー。最新式じゃねえか」

「うらやましい。私も最新式のスマホがほしい」

 というようなことを言っていた。

 ミコトはさんざんどうするか迷っていたが、キラキラと輝いているスマートフォンを気に入ったのか、オレを見上げてこう言った。

「おじさん、ありがとうね。これミコト、だいじにするね」

 というミコト。

 ミコトが喜んでくれたので、わざわざネットショッピングでスマートフォンを買って、よかったとオレは思った。

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