第8話
ミコトはスマートフォンを喜んで受け取ると、さっそくボタンを押し始めた。
両親がスマートフォンを使っているところを見ていたのか、実際にスマートフォンを触ったことがあるのか、それはわからないが、なぜかスマートフォンを普通に使うことができる幼女のミコト。
子供のくせにもうスマートフォンが使えるのか。
オレや周りにいる高校生たちは普通にミコトがスマートフォンを操作しているところを見て、少し驚いた顔をしていた。
「スマートフォンはネットショッピングと……ソーシャルゲームと……でんわやめーるができるんだよっ」
というミコト。
なんだかオレがスマートフォンの使い方を知らないと思っているかのように、オレにスマートフォンの使い方を教えるかのように、言ってくるミコト。
「ミコトちゃん、すごいね。ミコトちゃんスマートフォンの使い方がわかるんだっ」
「それくらいわかるよっ」
と元気にいうミコトちゃん。
「ミコトね、これからおかあさんにでんわするね……」
「電話するの?」
元の世界に電話がつながるのだろうか。
「あ……おかあさんのでんわばんごうは……たしか……」
お母さんの電話番号を思い出しながら、ミコトちゃんは番号を一つずつスマートフォンの画面に打ち込んでいく。
そして電話がつながった。
マジで?
「あ……おかあさん!」
まさか異世界から元の世界に電話がつながるとは思っていなかった。
まあ異世界でもネットショッピングができるのだから、電話がつながっても別におかしなことではないのかもしれないが。
「ミコト……今どこにいるの?」
という若い女の声が聞こえる。
まあ自分の娘が異世界に召喚された、なんて想像をする親はいないだろう。
「いまミコト……いせかいにいるの!」
というミコトちゃん。
ミコトちゃんが異世界にいるのは事実だが、それを親にそのまま伝えてもいいのだろうか。
普通の親なら、異世界にいると子供が言っても、信用しない親のほうが多いのではないだろうか。
と、ミコトちゃんの親の声が聞こえた。
「ミコト、とにかく早く帰ってきなさい。今自分のいる場所はわかる? 場所がわかるなら、今すぐお母さんがむかえに行くからっ」
というミコトちゃんの母親の声。
なんだか少し焦っているかのような声だった。
まあそれはそうか。
突然娘が姿を消したら、親ならだれだって娘のことを心配するだろう。
とはいえ、元の世界から異世界にむかえに来るなんてことが……できるのかはわからないけれど。
「おかあさん、あたち、がんばっておうちにかえるから!」
というミコトちゃん。
「まおうをたおして、おうちにかえるから。しんぱいしないで、まっててね」
というミコトちゃん。
「ま、魔王!? 何を言っているの? ミコト」
という困惑した声のミコトちゃんの母親。
いや、ミコトちゃん、確かに異世界で悪さをする魔王を討伐しないと元の世界に帰れないかもしれない、とそういう話はあったけれど、それを元の世界の母親に伝えると、ミコトちゃんの母親はものすごい困惑するんじゃないだろうか。
だって魔王だとか、異世界だとかそんなことを自分の子供がはなしたら、自分の子供は一体何を言っているんだと、大丈夫なのかと心配するのは普通のことだろう。
と、ミコトちゃんは母親と話すことができて安心したのだろう。
満足したのだろう。
これであとは魔王を倒して、家に帰ろうとそう決心でもしたのか、
「おかあさん、ばいばい。まおうをたおしたら、あおうね」
といって電話を切ってしまった。
え、それで電話を切っちゃうのかよ。
ミコトちゃんの母親はミコトちゃんからの電話を受けて、きっと今何が起こっているのかわからずに、困惑していることだろう。
だって娘から電話が来たと思ったら、異世界にいるだとか、魔王を倒したら、かえるからね、だとか、そんなことを電話で伝えられるのだから。
とはいえ、ミコトちゃんは満足していた顔をしていた。
そしてなんだか魔王を倒してやるんだ、というような、そんな顔つきになっていた。
オレもミコトちゃんのためならば、魔王すらも倒せるかもしれない。
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