第6話

 異世界にきてわかったことは、異世界でも変わらずにスマホを使えるということである。

 スマホがあればネットが見れる。

 そしてネットがあればネットで買い物をすることができたり、ソーシャルゲームをすることができる。

 ネットで買い物をすればなぜか異世界にも育毛剤が届いたりする。

 ほんと不思議な世界である。

 さて、異世界に来た時にスマホの充電器を持ってくることを忘れていたのだが、どういうことだろうか。

 異世界というのは都合のいい世界だからだろうか、都合がいいのならオレの能力ももうちょっと何とかしてほしかったわけだが、この異世界ではどういうわけかスマホの充電が減ることはなかった。

 理由はわからない。

 異世界というのは不思議な現象がおこっているのか、それともそれが仕様なのか。

 オレは異世界ではスマホの充電は減らないとそう思っていたのだが、それはどうやら違ったものであったらしい。

 どうやらオレは思い違いをしていたようだ。

 同じ年のおっさんでもいれば情報の交換でもできたかもしれないが、オレ以外の勇者は高校生だったり、年の離れた幼女だったりする。

 だからどうしても仲間の勇者たちとうまく打ち解けることができなかったのが原因ではあるのだが、リュウノスケが苛立たし気にこんなことを言ったのだ。

「ああ。異世界ってのは糞だぜ」

 まあ確かに異世界というのは糞な世界である。

 勇者として召喚されたのにも関わらず、能力が低い、スキルが普通なんてのは、ゲームであれば糞ゲーといってしまっても過言ではないだろう。

「異世界だとスマホも充電できやしねえ。充電ができなきゃスマホも使えねえし、ソーシャルゲームだってできやしねえじゃねえか」

 どうやら不良というものもソーシャルゲームをやるようで、どうやらオレと彼は、もしかしたらソーシャルゲーム内では一緒にプレイしたことがあるかもしれなかった。

 この異世界では、高校生グループと幼女、そしておっさんが一人ハブられている、という状況なのだが……。

 さて、異世界でもスマホは使えるはずなのだが……。

 そんなことを思いながら、でもおっさんが口を挟むのはなあと思いながら、彼の話に耳を傾ける。

 と、隣にいるミコトが言った。

 ミコトとは女子高生のほうのことである。

「ああ。異世界に一つ好きなものを持ってくることができたらなあ。スマホの充電器を持ってくるのに」

 異世界に一つだけ好きなものを持ってこれるのなら、わざわざスマホの充電器などではなく、別のものを持ってくるべきだろうと、思いながら、だがオレはおっさんだからわざわざ口を挟まずに、彼らの話を聞いている。

「まあ……そうだな」

 ショウヘイは眼鏡をくいっと押さえて、ぼそっとした声で言った。

「スマホが使えれば、この異世界から元の世界へと戻る方法があるのかどうか、それを調べることもできるんだろうがな……」

 ネットでそんなことが調べられるのだろうか、なんて思っていたら、ショウヘイは充電切れになったスマホ画面を仲間に向けて、あきれたような顔をしていた。

「これではな……」

「はあ……誰か都合いいことにスマホの充電器を持っていたらいいのに」

 と都合のいいことを言うアヤノ。

 今は訓練の休憩中である。

 訓練の休憩中に仲間で集まって、高校生同士が集まって、そんな話をしていたのである。

 オレはおっさんだからか、高校生の輪に入ることはできずに、高校生の輪から少し離れたところで、彼ら、彼女たちの話を耳で聞いているだけだ。

 ちなみにである、異世界ではスマホは使い放題なのに、どうして彼ら、彼女らのスマホの充電は減少するのだろうか。

 敵と戦闘をすれば、いつの間にかスマホの充電はされているはずなのに……。

 高校生勇者たちが困ったなあーだとか、誰か充電器を持っていないかなーとか言っているので、正直なところ彼ら若者に声をかけるのは、その輪の中に入るのはちょっとしずらかったのだが、なんだかスマホの充電の仕方について教えてやろう。

 そんなふうに思い、ちょっと緊張しながら彼らに声をかける。

「あ……あの……」

 自分の能力が低いからか、なぜか敬語になってしまうのはまあ仕方のないことだろう。

「何だよ、おっさん」

 といってくるのはリュウノスケ。

 だがリュウノスケはスマホの充電が完了中のまぶしい光を放つスマホを見て、オレのスマホを見て、驚きの声を上げた。

「あ!? 何だよこれ。充電がちっとも減ってねえじゃねえか」

 そのリュウノスケの声を聞いて、周りの高校生もオレのスマホの周りに集まってきた。

 彼ら、彼女たちもまた驚きの声を上げている。

「な、なんで!?」

「私のスマホはもう充電がないのに……」

 うらやましそうな顔をしているミコト。

 ミコトとは女子高生のほうである。

「な……なんだと……!?」

 そこまで驚くほどのことでもないような気がするのだが、ショウヘイはといえば、眼鏡を片手で押さえて、オレのスマホを驚きの表情で見つめていた。

「おっさん、あんたスマホの充電器を持っているのか? スマホの充電器、ちょっとでいいから貸してくれよ!」

 というリュウノスケ。

 い、いや、別にオレはスマホの充電器を持っているわけじゃないんだけど。

 どういうわけか、普通にしているだけで、モンスターとの戦闘をしたら、いつの間にかスマホの充電が完了しているだけなんだけど。

 だが目の前にいる高校生たちは、何だかようやくスマホの充電ができると思ったのか、珍しくオレの周りに集まってきていた。

 幼女はといえば、スマホを持っていないのか、

「スマートフォン、ミコトもほしいんのです……」

 と、そんなことを言っていた。

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