第5話
異世界に召喚された勇者というのはかなり強い存在だった。
モンスターなんてものは一撃で倒せるのは当たり前、仲間に対して回復魔法を使えるのも普通のことだし、火の魔法だって使えるし、水の魔法だって使える。
異世界では現実では考えられないような、そんな魔法が使える世界だった。
だがなぜかこの異世界勇者の一員であるはずのこのオレだけが、普通の魔法は使えず、そして敵も一撃で倒すことさえできなかった。
オレが使える魔法なんて、敵の目をくらまし、敵からの攻撃をよけるという、まぶしい光というスキルだけだ。
敵の攻撃も食らえばそこそこのダメージを食らってしまうから、必ずまぶしい光を使ってから、敵に攻撃しなくてはならない。
周りにいる女子高生、男子高校生は本当に勇者のように強いのに、どうしてただ一人だけ、オレだけがこんなにも異世界の勇者にふさわしくないのだろうか。
まあ幼女もまた、モンスターを見れば悲鳴を上げ、モンスターを叩き切れば悲鳴を上げているのだから、その幼女の姿もまた、勇者といっていいのかわからないけれど……。
さて、そんなことを悩んでいても、次の日はやってくるらしい。
次のクエストはやってくるらしい。
なんだか目の前にはかっこいいおっさんがいて、そのおっさんは異世界の勇者たちをまるでほこるべき存在を見るかのような顔をして、こちらのことを見ている。
このかっこいいおっさんは、異世界において、いやこの国において、かなり強い兵士の一人らしい。
役職は軍団長。
なんだかその軍団長は、オレ以外には誇らしげな顔をして、これが異世界の勇者なのか、という顔をして、男子高校生、女子高生たちのことを見ていた。
幼女のことはなんだかほほえましいような目を向けている。
オレにだけは、なんでここに普通のおっさんがいるのだろうか、という顔をして、こちらのことを見ているようだった。
なんだ?
異世界の勇者というのはすごい才能を持っているという話だったけれど、必ずしもそういうことではないのだろうか?
もしかしてオレだけが、ただのおっさんのオレだけが、なんのとりえもない、そんな勇者なのだろうか。
でもオオトカゲは倒せたし、そんなことはないよね。
ほかの勇者のように一撃でオオトカゲを倒すことは確かにできなかったけれど、そんなことは問題にはならないはずだ。
そう。
きっとオレだけが大器晩成で、ほかの勇者たちは最初から育成済みの状態なのである。
ああ。
異世界召喚者。
なんでオレだけが最初から最強ではないのだろうか、なんて軍団長のことを見ながら思っていたら、この軍団長。
異世界召喚者たちに声をかけはじめた。
「君がショウヘイか。期待しているぞ」
「君がリュウノスケか。いい目をしている」
「君がアヤノ。回復能力が素晴らしい」
「君がミコトだね。期待しているよ」
というように……。
そして軍団長はといえば、オレだけこんなことを言ってきた。
「サトウくんだったかな……。サトウくんのステータスを、私にちょっと見せてくれるかな?」
「はい」
なぜオレだけステータスを軍団長に見せなければならないのだろうか。
ほかのメンバーは、ほかの勇者メンバーにはそんなことを確認すらしなかったというのに。
とはいえ、ステータスを見せるのを断るわけにもいかず、言われたままにステータスを軍団長に見せた。
そう。
わかる人にはオレの能力がわかるかもしれない、そんなふうに期待を持って。
今はまだ弱いけれど、いずれは最強のおっさんになれると信じて。
だが……軍団長は信じられないものを見るかのような顔をして、言った。
「信じられん。これが異世界召喚者の能力だとでも言うのか?」
という軍団長。
いや、ちょっとあんた、もうちょっと言い方というものがあるでしょうに。
だが軍団長はあまりのショックなものを見たせいか、言った。
「持っているスキルは普通のスキル……しかもステータスも異世界召喚された勇者とは思えないほどの数字が並んでいる……なんでこのおっさんを私たちは召喚したのだろうか」
いや、あんたたちが勝手に人のことを呼んだのに、その言いぐさはあんまりではないのだろうか。
人のことを召喚したはいいが、やっぱりこいつ能力低いから、いらね、というふうなことを言うのは、ひどすぎるのではないだろうか。
「え? おっさんやっぱり能力低いの?」
というリュウノスケ。
「あー。まあそうだと思ってたけど」
というアヤノ。
「うけるー」
というクラスのアイドル的存在のミコト。
幼女はといえば、なんだか同情するような顔をして、こちらのことを見上げていた。
「…………」
ショウヘイはといえば、その眼鏡をくいっとおさえ、何も言わずにこちらのことをただ見つめてきている。
オレってやっぱり能力低かったの?
まあモンスターを一撃で倒せなかった時点で、オオトカゲを一撃で倒せなかった時点で、ステータス画面を見た時点で、そうだとは思っていたけれど、その事実を指摘されるとなんだかとても悲しかった。
ほかにもオレみたいに能力が低いものがいればまだ救われたのだが……。
そして見た目がおっさんがオレ以外にもいればまだ救われたのだが……。
とはいえ、異世界に召喚された勇者なのだから、まだまだここから挽回することも可能だろう。
この世界にはスキルというものがあるのだ。
そのスキルを使って、オレにはまぶしい光というスキルしかないけれど、そのスキルを使って、何とかこの異世界でやっていくしかないんだ。
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