竜の家系

六塚

竜の家系

学校の先生たちが使っているような

折りたたみ式の長テーブルの上に大人の頭一つ分の盛り上がりがあって、

その上に木綿の布が被せられている。

一時間前に飲んだ清涼飲料水が口内の雑菌たちと仲良くなって喉の奥まで酷い味が広がってくる。

太陽が照りつけて体中に汗の筋を幾本も作り続ける。

木漏れ日が周囲をコントラストの強い斑模様に染め上げていて吐き気を催す。

まるで私達を見つめて嘲笑っているかのようで……

目を逸らした。

制服の裾を握りしめている自分の手を見つめる。携帯のバイブみたいにぶるぶるぶるぶると震えていてこれはなんだろうと考える。

ちゃんと怖がっているのだろうか。

田舎のお巡りさんたちはこんなことは今までになかったとでも言うように辺りを忙しなく動き回っている。

実際こんなことは今まで無かったのだ。

生え際から目の際に液体が垂れるのと同時に隣の人に肩を抱かれた。

この感触を知っている。

きっとおじさんの家族だ。

両肩に絡まった腕を乱暴に振り払うと足早にその場を去る。

啜り泣きが後ろ髪を引く。


流れるプールを彼はいつものように上から眺めている。

監視台の上は空に近いから翼のない彼にはそれが苦痛なのではないだろうか。

余計なお世話だろうか。

草をかき分ける音に気づくと台座から顔色を窺う長い首が伸びてきて目が合う。

墨汁を垂らしたような真っ黒な瞳がこちらを見つめてくる。

麦わら帽子を取った頭に天使の輪ができていてかわいらしい。

蝉の声が止んでも鳩が鳴かなくなっても木々のざわめきが聞こえなくなっても。

私は規則正しい水流の整列を乱すように水中に飛び込む。

慌てて伸びてきた長い両腕が波に揉まれ酷く屈折して映る。

蛇のような身体が覆い被さると大きく水しぶきを飛ばしながら勢いよく浮かび上がった。

塩素の香りが一面に漂っている。

白い布地が地肌に張り付いて透けて見え、そこだけが人間と同じ質感を保っているのが見える。

彼のトルソーの部分は永遠に人間のままだ。

どれだけ齢を重ねても羽化することのないその部分に触れることもできず、ただじっと見つめていた。腕に手をかけて身体を離すがまるで金属の手摺のような感触だ。

もうこうやって突然やってきて甘えるのはよそうと思った。

いつまでも部外者でいることはできない。


帰りの車の中でおじさんの親戚の子供が泳いでいる。

運転席から後部座席を繋ぐ小さな隙間を縫うように泳いでいる。器用なものだ。

彼の身体を追うように小さな蓮の葉が浮き上がっては枯れていく。

車内の空気があまりにも重いので現実逃避をするためにその様子ばかりを目で追っていた。

私はそろそろ現実に帰らなければならないと思ってどんよりとした水面に顔を出す。

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竜の家系 六塚 @murasaki_umagoyashi

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