逆デスゲーム

砂漠の使徒

第1話 開始

「レディースアンドジェントルマンー!」


 右隣でリンチがマイクに向かって大声で叫んでいる。

 毎度のことながら、よくもまあこんなに熱中できるな。


「死にたいやつは生き残れ!!!」


「……今日も元気に逆デスゲームっと」


 聞き飽きた文句だ。

 とっくに覚えている。


「なぁ、お前は今回誰に賭けるんだ?」


 モニターから目を離さずに、肘で左隣のランチをつっつく。

 これもいつも通り。

 勝者と賭け金を訊くんだ。


わたくしは、三番の病山やみやま様ですわ」


 ランチが指さしたのは、不安そうにしている若い大学生だ。

 だっさい部屋着を着て、キョロキョロしている。


「病山ぁ〜? お前、今回はずいぶん大穴に賭けたな」


「あら、そうでもございませんわよ」


 扇子を広げて、余裕そうに扇いでやがる。

 この仕草、腹立つんだよな。

 一発殴ろうかな。


「だって、あいつは毎日SNSで死にたいって言ってるだけの大学生だぞ?」


 パラパラと事前に集めた情報をまとめた紙をめくる。


「えぇ」


「そういうやつは、絶対死なねー。言葉と裏腹に、夢も希望も持ってやがる」


 あたしなら絶対選ばないんだがな。


「だからこその、大穴ですわ。追い詰められればヤケクソで死にたくなると私思いますの」


 扇子で隠された口がどうなってるかは知らんが、目だけ見ても気色悪い笑みを浮かべているのがわかる。


「うへぇ〜……」


 こいつ、趣味悪。

 一回死なねーかな。

 あいや、死んでるのか。


「そういうミンチ様は?」


「あたしか?」


 うーん……。

 モニターを眺め、ザッと参加者を確認する。


「あたしは五番、かけるだ」


「無難ですわね」


「まあな」


 いわゆるブラック企業勤め。

 残業と連勤でフラフラして今にも電車に飛び込みそうなところを連れてきた。


「あいつはかたいだろ」


「ですが、もうデスゲームをやる気力が残っているでしょうかね?」


「あ……」


 そうだな……。

 くたびれてやがるからなー……。


「がんばれー! 死ねば天国行きだぞー!!」


 聞こえてはいないだろうが、喝をかける。

 そう、このデスゲームの勝者は特例で問答無用で天国に送られる。

 正確には天国じゃねーが、まあ楽園的なところに行ける。

 ……これは参加者には秘密だがな。

 だって、そんなこと知ってしまったら喜んで死にやがるからな。


「さて、今回はどうなるかな」


 会場全体を映し出す一際どデカいモニターを睨む。


「それでは、第一ゲームスタート!!!」


 リンチが高らかに開始を宣言した。

 ちなみに、こいつは毎回参加者名簿の一番上の奴に賭ける。


「今回は……へぇ……」


 面白い奴じゃねぇか。

 今回はリンチが賭けに勝つかもなぁ。

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