今日の天気はダイヤモンドでいいのか!
与十川 大 (←改淀川大新←淀川大)
第1話
「今日の天気はダイヤモンド」だと?
なんじゃそりゃ? これは難しいぞ、クロちゃん。――いや、違う、そっちのクロちゃんではなく、クロノヒョウさんのことだ。しかし、それにしてもまたヘンテコなお題を……。
そうは言っても、クロノヒョウさんのお題企画も暫くお休みらしいから、真剣に取り組んで参加するか。暫く企画に会えないと寂しいし。よし、ちゃんと考えよう。
とは言っても、どうする。昨日の深夜、ある有名アニメの総集編を観てしまったので、若干の寝不足感があり、正に私の頭脳は硬質化している。ん? 硬質? 硬い? ダイヤモンド! 今日の天気はダイヤモンド、今日の天気は硬い、今日の天気はカッチカチ……何の事やねん!
落ち着け。さっきSNSでクロちゃんに確認した。いや、クロノヒョウさんのことだ。あっちのクロちゃんではない。提出期限は今日まで。つまり、今夜の二十三時五十九分までは大丈夫という事だろう。今、午前十時ちょっと過ぎ。いける! キラッ。
私はピンチに強い! いつも自分で自分にそう言い聞かせている。だからピンチになるまで何もしないのだが、そんな事はどうでもいい。諸君はここまで読むのに一分だろうが、私はここまで書くのに十分も(ここまでで丁度五百文字)かかっている。ということは、四十分で二千文字。今回の企画の制限文字数だ。四十分後……今
とにかく、ダイヤモンドだ。カチカチだ。いや、硬度からは離れよう。空がカチンコチンってのは、おかしい。何かヒントは……おお! 「キラッ」だと! さっきから私はマジカルワードを連発しているではないか! そうだ、「キラッ」だ。ダイヤモンドと言えばキラキラ。今日の天気はキラキラ……いや、ここは
今日の
澄み渡る空に浮かぶは あの娘の笑顔
飛んでいってよ 私の想い
眩し過ぎるわ 太陽が
悲し過ぎるわ 冬風が
淀川大が心を込めて歌います。「今日の天気はダイヤモンド」――。
ちっがーう! 何か違うぞ。きっと何かが違う!
落ち着け。もう、十時四十分だ! 予定時間に至っているではないか。それなのに、どんどんお題から離れていく気がする。しかも、この文の句点まで入れて丁度千文字なのだ。規定文字数の半分も使ってしまっている!
キラキラからは一旦離れよう。私の思考なら、キラキラからお星様に移行し、挙句には宇宙に到達するに決まっている。お題は「今日の天気は~」。宇宙に天気はない。大気圏を出たら終わりだ。キラキラは忘れよう。
ピーピーピーピー……うるさい! 洗濯機! すぐに干したいが、今はそれどころではないのだ! 十時四十五分。くそー、遅筆だ。遅筆過ぎる!
何かないか。ダイヤモンド、ダイヤモンド……そもそも、ダイヤモンドが付いている物といったら、私の身の回りでは、この腕時計と老眼鏡と、スマホカバーと、カフスとベルトくらいのものか……全部、嘘だが……。うう、0.1カラットでもいいから本物のダイヤモンドが装飾してある物は何かないのか――いや、無い!
待てよ。カラット? そう。宝石の質量の単位「カラット」。一カラットは二百ミリグラム。なるほど、そういう事か……。
先程も書いたが、今日の天気は快晴だ。このような空を指して、諸君はこう言わないだろうか。
「からっと晴れた空」と。
何が隠されているか、もう、お分かりだろう。そのとおり、カラットだ。うおおお! 繋がった!
ダイヤモンドの単位はカラット、からっと晴れた天気、今日の天気はカラット、今日の天気はダイヤモンドだ!
ガッビーン。もう午前十一時だ! こんな、出来損ないの胡瓜のようにスカスカの内容の文章を書くのに一時間もかかっているではないか。
急げ! とにかく、キーワードは決まった。「カラット」だ。これで攻めてみよう。カラット……カラっと……鶏腿肉を狐色に、カラっと、ジュワっと。嗚呼、唐揚げ最高! 正に、揚げ物界のダイヤモンドだ! ジュワー。
駄目だ。正午前なので、どうしても私のイマジネーション探索光線が厨房を照らしてしまう。
こういう時はコーヒーだ。濃いめのコーヒーで脳にカフェインラリアットしかない。よし。
トレンチコートの男は、机に突っ伏したまま冷たくなっている中年男の遺体を見下ろしたまま言った。
「で、濃い過ぎるコーヒーを飲んで、死んでしまったわけか……」
男の隣に立つ若い男が頷いた。
「そのようですね。急性カフェイン中毒でしょう。遺体の身元が判明しました。淀川大、会社員、自称作家です」
「こんな訳のわからん文章を書いて、何か作家だ」
「いや、警部。これから本文を書こうとしていたみたいですよ。題名だけ入力してあります」
「何て題だ」
「『今日の天気はダイヤモンド』?」
了
今日の天気はダイヤモンドでいいのか! 与十川 大 (←改淀川大新←淀川大) @Hiroshi-Yodokawa
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