終章

 七海は自室のPCである中継を見ていた。

 画面の中では凛とした女性が大勢の観衆たちに向かって宣言していた。

『この国からケガレモノは消えた!』

 観衆たちが大きな声を上げた。

『国民たちよ、今まで私は自分の弱さで逃げてばかりいた。しかし、それももう終わりだ。これから……この国がより強くなるために私は命を懸けて励もう!それが……この国の国家元首、わかはのみやさえこの誓いだ!』

「すごいです……くれはさん」

「凜ちゃん」

 いつの間にか隣で凜がPCを覗き込んでいた。

「なんだか遠い存在になってしまったです」

「まあ、くれはさんは元々そういう血筋の人だったみたいだし?元に戻ったって感じじゃない?」

「確かに、ですね」

 やりとりをしながら七海は気づいた。

「あれ、凜ちゃんそれつけてるんだ」

 凜の肩に、美人な彼女にちょっとふさわしくない不格好な缶バッチががついていた。

 その中ほどには②というハンドメイドのプラスチックが設えてあった。

「はいです。だってお兄ちゃんがくれたものですから……七海ちゃんだってずっと持ってるですよね」

「そう、だね」

 七海がテーブルの上に視線を落とした。

 そこには、同じく不格好な缶バッチ、中央には③と書かれていた。

 徐に七海はそれを握りしめた。

 そんな七海を凜は黙って見つめていた。

 しばらくそうした後、七海が不意に立ち上がった。

「今日も行くですか?」

「うん」

 そういって七海は自分の家を出た。

 向かったのは嵩原剣術道場の敷地の一角。

 家主不在の一軒家。

 七海は息を整えてそのドアを開けた。

 懐かしい匂いに包まれた。

 もうそこには誰も住んでいないはずなのに、匂いが七海の記憶を呼び覚ます。

 連れるようにして耳の奥にも、懐かしい声が聞こえたような気がした。

 七海は胸が焼けるように熱くなった。

 その感覚をこらえながら、七海は部屋に向かった。  

 ゆっくりとドアを開ける。

 部屋の中央のテーブルに彼がいた。

「こうちゃん……?」

『七海』

 彼はどこかそっけなくて、でも優し気な笑みを七海に投げかけていた。

 七海は思わず彼に駆け寄った。

 そしてそのぬくもりが欲しくて、抱きしめようとして。

 それが幻であることに気付いた。

 部屋には自分以外誰もいない。

 当たり前だ。

 だって彼は。

 幸太郎はもういないのだから。

 先ほど幻を見たせいか、七海は涙があふれて止まらなくなった。

 時間が哀しみを癒してくれるといった人がいた。

 しかし、そんなのは嘘だ。

 時間がたつにつれて幸太郎に会いたいという気持ちは、七海の中でどんどん膨らんでいった。

 ふと、七海は考えた。

 自分は幸太郎に何をしてあげられたのだろうか。

 彼は最後、一人っきりで、世界を救うために命を投げ出したのだ。

 その時、どれだけ寂しかっただろう。

 そして、そんな彼に自分は何もしてあげられなかった。

「う……こうちゃん、こうちゃああん」

 机に突っ伏して、そこにおいてある、金属の塊に腕をぶつけた。

「いたっ……ああ」

 勢い待ってその塊を床に落としてしまった。

 なんという冒涜だろう。

 慌てて七海がその塊を机に置きなおそうとして、そこから何かが落っこちてきたのに気付いた。

「……?」

 それは、その塊、幸太郎が生前使っていた右腕で、そこに自分で気まぐれでつけた収納部から出てきたものだった。

 それは、小さな缶バッチだった。

 中央には①と書かれていた。

 それを見つけて。

 七海は涙が止まらなくなった。

 あの日以来、幸太郎がつけなくなってしまったその缶バッチ。

 それを、幸太郎は最後の最後に、自分の作った右腕の中に携えていたのだ。

 その事実に、七海はどうしようもなく切なくて、悲しくて。

 だが同時に。

 少しだけ、嬉しくて、誇らしかった。

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神器鳴動 @merbotan

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