第4話 New Life, なう。

「おや、君には聞こえないのかい?」

「風が激しく囁いている――これは!!」

「――まさか、こ、これは……」

「――聞こえたかね? そうだ――」

集団発生クラスター、だろうねぇ」


†ZZZZZ†ZZZZZ†ZZZZZ†ZZZZZ†ZZZZZ†


集団発生クラスター――魔獣の局所的大量発生現象は、数年おきに起こる比較的小規模のものであればある程度の規模のギルドでも対処可能と言われている。しかし、それが数十年周期で起こる程の大規模なものとなると、事は国家規模の案件となる程に甚大な被害をもたらす。

 そして、今まさに起こりつつあるそれは――。


「――多頭狼ケルベロスが今までに見ない程に大きい。これは些かマズいかも知れんな」

「ま、マスター、それってまさか……」

「あぁ。少なくとも十年周期以上の規模の集団発生クラスターの可能性が高い」

 町の境界にある門の櫓から遠くを眺め、ギルマスは戦慄した。

「――じょ、冗談じゃねぇ!! 俺は逃げるぞ!! ここに居たって奴らの餌食になるだけだ!!」

「残念だけど、手遅れじゃないかなぁ」

「何がだよ?」

「ご覧よ、この町の周りの森、ほぼで埋め尽くされてるみたいだよ?」

 言うや否やケィンの両手から光がはしり、周囲の森を照らす。そしてそこに印を付けたように浮かび上がる魔獣の群れ、群れ、また群れ――。

「敵が七分に森が三分、ってとこかなぁ。何処から逃げても――というか逃げ道は無いに等しいね」

「これは、じっとしてやり過ごす、という規模のものではないな――」

「ど、どどどどうしますのんマスタ~!!」

「先ずは守りを固めるぞ。皆にギルドハウス裏手の砦に集まるよう触れを出し給え」

 その言葉を聞いたギルド職員の何人かが町中に散っていく。

 彼らを見遣ったケィンは、ふと思い出したように懐から何かを取り出す。

 それは掌にどうにか収まる大きさの薄い金属の塊のようだったが――。

「そういや危うく忘れるとこだったよ。ガリクソン、君に訊きたい事がある」

「何だ、今更」

「このの顔に見覚えはないかい?」

 そう言って先程の塊を差し出す。見るとその表面には一人の女性の肖像が描かれていた。

「な、何だこの絵――まるで本物みてぇだな――それに光り輝いて――こいつもテメエの魔法って訳かよ」

「ま、そんなとこだと思っといてくれ――で、どうだい?」

「……いや、見覚えの無ぇ女だな。これだけの女なら一遍見りゃ忘れるもんじゃねぇよ」

「――そうかい。なら俺の用はこれで終わりだな」

「はぁ!?」


 そう言うとケィンは櫓から飛び降りた!!


「――ちょ、待てテメエ!! 一人だけ逃げようって――じゃねぇ、ンな高ぇとこから飛び降りたら只じゃ――!!」

 ガリクスンが叫びつつ下を覗くと事もなげに地上に降り立ったケィンは魔獣の群れの最も密集した方角へ歩を進める。

「け、ケィンはん~、無茶やぁ~!!」

「ケィンさん!!」

 この後に起こるであろう惨劇を予想して顔面蒼白となる鑑定士と受付嬢。

 誰かが呼びに行ったらしく、人々の指揮を執っていたマスターが駆け付けてきた。

「――何、一人で魔獣の群れにだと!! 死にに行くようなものだぞ!!」

 皆が騒いでいる間にもケィンは悠然と歩いて行き、群れの先頭に遭遇エンカウントした。

「ケィン!!」

「ケィンはん!!」

「ケィンさん!!」

「この馬鹿野郎!!」

 その声が届いたのかどうか、まるで「慌てない慌てない」と言わんばかりに背を向けたまま大きく手を振った彼は、先程ガリクスンに見せたように、大地に両手を押しつけると今度は大きく叫んだ。

起動パワーオン、"地底の呻りサブウーファー"、最大音量フルヴォリューム!!」


 暫しの静寂。


 刹那、森のざわめきも魔獣の呻りも色を消した。


 そして。


 ヴヴ ォォォ ンンンンン !!!!


 大地が咆哮を上げる。


 それは地の底から響く冥神の裁きの槌の如く。

 或いは大地の奥深く眠るという古代龍エンシェントドラゴンの目覚めの一声の如く。


 そしてそれは音のみならず直下から突き上げる激烈な振動も伴い、一同は立っているのも危うく次々とへたり込む。

 漸く余震が収まった頃、ケィンが向かった方角を見た一同は――。


「――な!!」


 無い。

 ケィンの前方に居た筈の魔獣の群れが。

 無くなっていた。


 見ると、彼はまたも別な魔獣の群れへと向かい、次々と殲滅していく。

 重低音と振動の後に魔獣の群れが消滅していく様はまるで質の悪い冗談にしか見えなかった。


「――ば、馬鹿な……アレを一人でやってやがる、のか……」

「君も命拾いをしたな」

 そういうギルマスの声に力無く頷くしかないガリクスン。

「――とは言え、一人で全てやるつもりなのか、彼は……」

 ギルマスが思案していると、不意に耳をつんざく鳴き声が響く!!

「む、飛竜ワイバーンか!!」

 邀撃体勢をとるが、それと見た飛竜は不意に向きを変えた!!

「きゃぁぁぁーーー!!」

 その向かう先には受付嬢が!!

「くっ!! 間に合わん……!!」

 それでも"雷の矢ヴォルトアロー"を放たんと詠唱を続けるが――。

『ギュェッッッ!?』

 飛竜は突如現れた氷壁に激突した。

「今だ、撃て!!」

「ガリクスン、君か!! 助かった――"雷の矢ヴォルトアロー"!!」

 ギルマスのスタッフから放たれた雷の矢が飛竜に襲いかかり、飛竜は動かなくなった。

「――あ、あの……」

 ガリクスンの背に庇われた形になった受付嬢がと言う。

「あ、ありがとう、ございます……」

 一瞬、意味が解らず目が点になった彼だが、慌てて横を向き、

「……いや、まぁ、こんな時だしな……むしろこっちこそ、済まなかった……」

 やっとそれだけを言った。

「流石にケィン君でも討ち漏らしは出て来るだろう。せめて我々は彼が心置きなく戦えるよう守りに専念するとしよう。手伝ってくれるね?」

「――あぁ。これくらいで罪滅ぼしになるとも思わんが、こうなったら意地でも生き延びてやらぁ」

「あぁ、そうだな。むざむざ死んでなるものか」


「――それにしてもケィンはんって、何者なんや……?」

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魁傑ズババババーン!! ひとえあきら @HitoeAkira

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