第3話 目の付け所が、鋭いでしょ?

「――ムラマサZダイナミック!!」

 光刃一閃、氷塊は真っ二つになり彼らの左右に落下した!!

 一瞬、何が起こったか認識できていなかった一同だったが、我に返るとあちこちから歓声が上がり、やがて大きな拍手が沸き起こった。


†ZZZZZ†ZZZZZ†ZZZZZ†ZZZZZ†ZZZZZ†


 その喧噪を余所に、ギルドハウスの中では先程の子分たちが何やらやっている。

「へっ、バカどもが、見張りも残さんとぞろぞろ出て行きやがってw」

「縄が抜けなくても指先さえ動けば、こう、ちょいちょいと――」

 彼らの手の中には、青い小鳥が握られている。今は目を閉じ眠ったように動かないが――。

起動オープン、"囁き鳥トゥイーター"」

 呪文と同時に目を開き羽ばたき始める小鳥――ではなくこれは小鳥を模した簡易通信用の魔導具なのだ。

 それに向かって何やら良からぬことを語りかけるや、手を放す。

拡散ディフューズ、よし行け!」

 その言葉と同時に飛び立つ小鳥。それを下卑た顔で見送りつつ、

「――ヘッ、どの道これでココも終わりだZE!」


†ZZZZZ†ZZZZZ†ZZZZZ†ZZZZZ†ZZZZZ†


「――それがそう簡単には終わったりしないんだなこれがw」

「?――なに言うてはりますのん、ケィンさん?」

「いやいや、只の独り言さ☆」


 ケィンと鑑定士の暢気な会話も耳に入らぬかのように、己の頭上で真っ二つになった氷塊を呆然と見ていたガリクスンだったが、ふとある一点に目を留めると途端に笑みが零れた。

 それに目敏く気付いたケィン。

「おや、もう立ち直ったのかい?」

「……ふ、フフフ、確かに貴様は強ぇ。だが、勝負は俺達の勝ちだ」

「してそのココロは?」

「――フン、もう今日の内には此処の悪い噂が拡まるだろうからな。それでこっちの目的は果たせるって寸法だ」

「あー、のことかw」

 全く慌てた様子も無いケィンに一瞬警戒したガリクスンだが、

「あぁ、そうともさ。さしもの貴様でも空は飛べまい!!」

「そうだねぇ。流石に人の身たる俺には無理だなぁ」

「ヘッ、ようやっと解りやがったか。これで俺らの――」

「――なんで、眼には眼を、ってね」

「――なっ!?」

「行け、"囁き紐リボントゥイーター"!!」


 彼の呪文と共に出現したそれ――まるで羽の生えた蛇のような代物である。それはと空中を這い上がるように飛び立っていった。

「――な、何だありゃぁ……!?」

「――召喚魔法……か」

「えっ!? マスター、それって――」

「あぁ。私も今まで数える程しか見たことは無い。在野の魔導師で使える者が居るとは……」

 その間にも小鳥に追い付いた蛇は、獲物に巻き付いて動きを封じる。

「――と、いう訳だ☆ いい加減諦めたまえ?」

「――ちっ、斯くなる上は! "限界突破オーバーゲイン"!!」

 ガリクスンの呪文と共に小鳥の眼が真っ赤に光り、爆発した!! 衝撃をモロに喰らった蛇も消失してしまう。

「ふん、これでこの近辺にだけは囁き声トゥイートがばら撒かれた。ざまァ見やがれ!!」

 今度こそ勝利を確信して高笑いするガリクスン。

 その言葉に青くなる受付嬢と鑑定士。だが――。


「だから簡単には終わったりしないって☆」

 相変わらず憎たらしい程の余裕のケィン。彼は両の脚を大地に踏ん張り、そのまま両手を大地に押し当てると、

起動パワーオン、"地底の呻りサブウーファー"!!」

 叫ぶや否や、彼の全身が赤銅色に輝き、両手の先から大地に魔力が伝わって行く。

「な、なんだその魔力の量は……テメェ、一体……」

「今度は大地属性魔法か……何とも底の見えない男だな……」

 やがて、一帯の大地が赤銅色に輝くと、突然、と身体に響く音がして、元に戻った。

「て、テメェ、一体何をしやがった……?」

「いやね、単純な科学の話でね。君のちっちゃい小鳥ちゃんの囁き声トゥイートなら俺のこのぶっとい呻り声ウーファーで消し飛ばせるんじゃ無いかなってさ♪」

「はぁ!? それだけの為にあんな馬鹿デカい魔法を使いやがったのか!?」

「ははは、お説ごもっとも。元来は対集団発生クラスター用の広範囲殲滅魔法だから、加減するのが難しいのなんのって♪」

「こ、広範囲殲滅……魔法……だと……」

 余りのことに言葉を失うガリクスン。それはそうだろう。もし彼がこれを喰らっていたら塵ひとつ残さずこの世から消し飛んでしまうような代物である。

 流石にギルドマスターも呆然としている。が、それでも彼の鋭い聴覚が何かを捉えた。

「――む!?」

「――おや?」

 ケィンも気付いたと見え、片眉をとさせる。

「こ、今度は何でぇっ!?」

「おや、君には聞こえないのかい?」

「風が激しく囁いている――これは!!」


 マスターの叫びに合わせるかのように遠くから微かに呻るような地響きと共に地の底から響くような呻り声が届く。

 流石に今度は気付いたガリクスンが青ざめる。


「――まさか、こ、これは……」

「――聞こえたかね? そうだ――」

集団発生クラスター、だろうねぇ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る