第2話 二人の平行線

「――兄貴の氷結魔法はここらじゃ一番つぇぇんだZE!!」

「――一番?」

 ちっちっち。

「そりゃ二番の間違いだろう?」

「ならば訊くが、一番は誰だ?」

 


「……ほぉ、そりゃぁ大した自信じゃねぇか」

「そうかい?」

「……なかなか面白れぇ冗談だなオイ」

「いやぁ、冗談に聞こえちゃったかな? こりゃ失敬失敬www」

「ふ……フフフ……フフフフフフ」

「あーっはっはっは!!」


「――嗤ってんじゃァ無ぇッ!!」

 突然激昂した兄貴分にとする鑑定魔法の男。

「俺ァこの手の人を喰った冗談が一番でぇ嫌ぇなんでぃッ!!」

「そもそものはお宅の子分でしょうが?」

「だからそれが巫山戯フザケてるっつってんだよッ!!」

「こっちは巫山戯てるつもりも冗談を言ってるつもりも無いんだけどなぁ――?」

「テメェ、表に出やがれッ!!」

「はいはい、仰せのままに」

 止めようとする受付嬢と鑑定員を笑顔で制して、鑑定魔法の男は兄貴分に付いてギルドの表へ出て行ってしまった。

 後ろの方で「兄貴ー!! 俺達はー!?」「先にこっちをなんとかしてくれー!!」と件の子分達が喚いているが、ギルマスの指示により手近の柱に括り付けられてしまった。

 慌てて二人の後を追う一同。


「このままぶっ殺しても構わんが、一応、名前を聞いといてやる」

「――ケィン。ケィン・シャープとでも呼んでくれ」

「――ならケィンとやら、俺はこれでも心が広いんだ。命乞いなら今のうちだぜ。"氷のガリクスン"と言えばここらじゃちったぁ恐れられた名前だ」

破落戸ごろつきとは言え流石は兄貴分だけあるねぇ。いや、大したもんだ」

「――テメェはよっぽど命が要らんと見えるな」

 鋭き氷の礫アイス・バレット!!と短い詠唱と同時に彼――ガリクスンの拡げた両の掌から無数の氷の鋭い礫が飛び出す。


「――むぅ、奴は"氷のガリクスン"か」

「マスター、ご存じなのですか?」

「あぁ。今でこそあんな連中の仲間に身をやつしては居るが、かつては宮廷魔導部隊の名の知れた魔導師だった筈だ」

「そんな男がなんであないなことに――?」

「風の噂では、遠征中に故郷が魔獣に襲われ、家族を亡くしたとか――だとすれば哀れな奴ではあるが……」


 ガリクスンの放った氷の礫がケィンに襲いかかる!!

 防御の構えを取るでもなく、突っ立ったままのケィン。すわ絶体絶命か――!!

 その場の誰もが目を伏せ、来る惨事に慄いた、その時。


「――召喚サモン、"エルシーメイル"!!」

 ケィンの身体が真っ赤に輝き、それが消えると彼は真紅の鎖帷子チェインメイルに包まれていた!!

 驚く一同。そして氷の礫は鎧に命中し――砕け散った。

「――な、何だ、と……」

「おやおや、鳩が豆鉄砲喰ったようなお顔しちゃってまぁw」

「な、なんだってそんな鎖帷子チェインメイル如きが俺の魔法を防げるんだ!?」

「ちっちっち、をそこらの鎖帷子チェインメイルと一緒にしないで欲しいなぁ」

「はァ!?」

「こいつは俺の親友の最高傑作でね、魔法くらいなら無効化しちまうのさ」

「そ、そんな物騒なもん、テメェみたいな流れの魔法士が持ってるとか――」

「まぁこいつは試作品なんでね。テストに付き合ったお駄賃代わりに貰ったのさ♪」

「……ならばこいつは防げまい、巨人の氷塊ギガンベルク!!」

 詠唱と同時にガリクスンの頭上に染み出すように巨大な氷塊が現れる。

「押し潰されやがれぇーッ!!」

 彼が前方に手を振ると巨大な氷塊はケィンに向かって突進していった!!

 今度こそ駄目だ――!! 誰もがそう思った時。

「メビウスビュート!!」

 ケィンが叫ぶと彼の手には8の時に束ねられた鞭が現れる。

「ビューっと……カムヒヤ!!」

 彼の手から伸びた鞭はまるで無限の長さがあるかの如く氷塊へ向かって伸びて行き、易々と絡め取ると中空へ向けて放り上げてしまう。

「な……!?」

 流石にガリクスンも唖然としている。

 やがて彼の頭上に落下してくる氷塊。

「――げっ!! し、しまっ……」

「メビウスビュート、ムラマサブレイドモード!!」

 叫ぶなり彼の正面に立ったケィンは、先程の鞭を天に向けて伸ばす。刹那、鞭は一直線に固定され、細身の刀へと変貌した。

「――ムラマサZダイナミック!!」

 光刃一閃、氷塊は真っ二つになり彼らの左右に落下した!!

 一瞬、何が起こったか認識できていなかった一同だったが、我に返るとあちこちから歓声が上がり、やがて大きな拍手が沸き起こった。

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