魁傑ズババババーン!!
ひとえあきら
第1話 地獄の魔導師
「いやー!! やめて下さいっ!! それはまだ鑑定前の素材ですー!!」
「はぁ!? 俺が何かやったってぇ証拠でもあるのかよコラ!?」
「ちょっとそこのアンタ、乱暴は止めぇな!!」
「ンだとオラァ!! 言いがかり付けて来たのはそっちだろーがYO!!」
ここはとある異世界の冒険者ギルド、スゥ=シロウ。
この世界では現在、数百年に一度というモンスターの
各国による騎士団の度重なる遠征も効果は薄く、討ち取っては再発生するの繰り返しで国も民衆も疲弊し尽くしており、辛うじて各地域の冒険者ギルドの奮戦によって小規模なモンスターの侵攻だけは凌いでいるものの、明日が見えない状況に自暴自棄になる者も少なくない。
その彼ら――巷で"ダッサー"と呼ばれる半グレのような連中は元々の犯罪者に加え冒険者くずれや騎士くずれなども加わり、その内なる暴虐は外からの暴虐たるモンスターと比べても無視できないものとなっていた。
現に今の男達は鑑定待ちのモンスターの肉を勝手に削いで喰うわ、毛皮を切り裂いて遊ぶわ、付属の食堂の物に勝手に手を付けては嗤っているわと、正にやりたい放題。
更にタチの悪いことに、その蛮行を"
「へぇっへっへっ!! 証拠も無しに犯人呼ばわりたぁ、太てぇ
どこからどう見ても傷付きそうも無い御面相の細身の男が蛇のような眼で受付嬢を睨め付ける。
「そうだぜぇ~? なんせコイツのハートはガラスのように繊細なんだからなぁ~?」
こいつの辞書に繊細という
「慰謝料だぁ!! 慰謝料を寄越せぇ!! それともギルドは無実の者に濡れ衣を掛けて知らん振りってかぁ~!?」
取り巻きの
「す、好き勝手言うてー!! ウチがこの両の
恐怖で竦み上がる受付嬢の横に立って反論するのは彼女よりやや勝ち気なギルドの鑑定員である。が……
「はぁ? 見たも何も証拠が無きゃそれって只のアンタの意見ですよねぇ~?」
逆に言い返されてしまい、悔しげに黙り込んでしまう。それでも眼だけは相手を睨み返しているのは大したものだが。
暴虐の限りを尽くす"ダッサー"の強さを思い知らされている他の者達も刃向う物は居らず、今回もまた奴らの勝手放題になってしまうのか――誰もがそう諦めた、その時。
「――証拠があればいいのかい?」
ふわっと一陣の薫風のようにギルドに響いた声。
何の気配も無かったため、さしもの荒くれ者どもも一瞬、気を呑まれる。
そんな連中を尻目にふらっと受付へとやって来た声の主は、受付嬢の涙を拭うとふっと微笑んだ。
「お嬢さん、泣いてちゃ可愛い顔が台無したぜ?」
あまりのことに呆気にとられてぽかーんとしている受付嬢の横から、鑑定員が喰い気味に問いかけた。
「しょ、証拠って、何かありますんかいな!?」
「あぁ。それはな――」
「待て待て待てぇぇぇーーーっっっ!!」
漸く我に返った髭面が怒鳴る。
「テメェさっきから聴いてりゃ勝手なことをぺらぺらと!!」
「勝手なんはそっちやんかー!!」
鑑定員もなかなか頑張る。
「大体なぁ、後から入ってきたテメェが証拠も何も、見てる筈が無ぇだろぉがYO!!」
言外に自分たちがやっていると白状しているような物だが、言った当人は気付いているのか。
「そうだそうだ!! 後から入ってきていい加減なことほざくなぁ!!」
再び煽り始める取り巻きども。
「まぁまぁ、落ち着きなさいよアンタらもw」
人を喰ったような落ち着きっぷりで破落戸どもを軽くいなすと、
「――この毛皮と肉塊が
と受付嬢と鑑定員に優しく問いかける。
二人が大きく頷くと、
「――じゃ、証拠をお目に掛けて差し上げましょ?」
その"証拠品"に向かって両の掌を向け、何やら呪文を唱え始めた。
「――この世に遍く御座します真実の眼よ、聖なるホールズよ、我の眼となり真実を顕し給え!!」
その呪文が終わるや否や、彼の両手から白い光が球状に拡がり毛皮と肉塊を照らす。
その表面には幾つも赤や青といった色に染まって見える傷があり、そこから伸びた光の先には――。
「げっ!? な、何だ!? お、俺の手が、手が、赤くっ!!」
「お、俺の方は青いっ!! な、何だこりゃ、気持ち
「――それが証拠だよ、諸君?」
「「――はァ!?」」
意味が解らず目を白黒させる破落戸どもに、ギルドの奥から拍手が聞こえてきた。
「素晴らしい!! これは動かぬ証拠だな!!」
「はァ!? これの何がっ!?」
「――ま、マスター……」
「遅くなって済まないね、漸く領都での会議が終わって駆け付けてみれば――また、お前たちか」
威圧を込めて破落戸どもを睨め付けるギルドマスター。
一瞬、その圧に怯んだ破落戸たちだったが、
「さ、さっきから何を訳の解らんことを抜かしてやがるっ!!」
「そ、そうだそうだ!! それよりこの気持ち悪いのをさっさと消しやがれ!!」
「何だ、やっぱり知らんのか」
と、心底呆れたように嗤うギルマス。
「――あの、マスター? 一体あれは――?」
不思議そうに問う受付嬢。
「――あぁ、君たちも初めて見るのか。あれは"ホールズの瞳"――最上位鑑定魔法だよ」
「「えーっ!?」」
「――そもそも」
と説明を始めるギルマス。
「鑑定魔法、というものは術者の知りたい物の状態を可視化する魔法なのだが――」
「ウチの鑑定でもいいとこ痛み具合とか味の善し悪しくらいしか判れへんなぁ」
「普通はそんなものだ。素材や商品の鑑定ならそれで事足りるからね。だが――」
「こいつは鑑定対象の過去の状態や状況まで可視化しますからねぇ」
その最上位鑑定魔法を掛けた当人が何でも無いことのように言う。
「素材からアンタらの手に伸びた光の紐がその証拠って訳なんだなこれがw」
「左様。これは国でも認められた限られた術者にしか使えない魔法だ。最早、言い逃れは出来ん!!」
その一言に手を取り合って喜ぶ受付嬢と鑑定員。周囲からも歓声が上がる。
一転、追い込まれた破落戸どもだが、逃げようかと見た入り口から入ってくる人物を見てほくそ笑む。
「――おいテメェら、何時まで油売ってやがるんだ」
「兄貴ぃ!!」
「い、良いところに!! こ、こいつらが――」
何やかやと言い募る手下を無視してその手から伸びる光を見て一瞬眼を見開くが、
「――ほぉ、ちったぁ出来る奴が居るらしいな」
「こ、この妙な術が証拠だの何だのって訳の解らんことを――」
「テメェらじゃ解るもんかよ――おい、そこの、コイツはテメェの仕業か?」
「――そうだが?」
「今回はデメェとギルマスの顔を立ててやる。さっさとこの術を解け」
「はぁ!? 何言うてんのこのオッサン!?」
「小娘は黙ってな」
ギロッと鑑定員を威圧して黙らせたのは流石に貫禄が違う。
「そ、そうだそうだ!! 兄貴の氷結魔法はここらじゃ一番
「――一番?」
それを聞き咎めた鑑定魔法の男、己が顔の前で人差し指を振り子のように"ちっちっち"と振る。
「そりゃ二番の間違いだろう?」
「はぁ!?」
「ンだとテメェ!!」
激昂する破落戸どもを抑えて"兄貴"が問うた。
「ならば訊くが、一番は誰だ?」
それに満面の笑みで返した鑑定魔法の男は、親指をサムズアップしてくいくいと自分に向けて振ったものだ。
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