第2話 波乱万丈な握手会

「……着いた……!」


「ここが握手会の会場か……!」


実力派として人気なグループの『SunRise(サンリーズ)』。

歌声は透き通っていて、ダンスはキレッキレ。


誰もがそのパフォーマンスに魅了されている。

私もその1人だ。


「とりあえず並んでおこう!」


「そうだね」


気が遠くなる程長い列に並ぶ。

順番が来るまで、SunRiseの曲を聴いてよっと。


「冬城さん、何の曲聴いてんの?」


「SunRiseの『bright』って曲。透明感があって、凄く綺麗なんだ」


透き通る歌声がマッチした、まさにSunRiseの為の曲。

何度聴いても飽きないし、一生聴いていられる。


「へぇー!ま、冬城さんの方が綺麗だけどね」


「はいはい。それはどうも」


「俺もその曲聴いてみていい?」


「良いけど、天海君の好みに合うかどうか……」


「大丈夫だって!俺、冬城さんが好きなものは全部好きだから!」


「……」


今まで、私の好きなものは否定されてきた。

なのに天海君は、それどころか……。


って……何なの!? 何でそんな恥ずかしい台詞を堂々と言えるわけ!?


「……はい、これ」


片方のイヤホンを渡す。


「ありがとっ!じゃ、聴かせてもらうよ♪」


そして曲が終わる頃には、天海君も虜になったようだ


「……はぁ……やっぱり最高……!」


「確かにこれはハマるわぁ……!俺、めっちゃ好きかも!」


「でしょ?」


いつの間にか、天海君との距離は縮まった気がする。


私の好きなものを、好きと言ってくれた。

初めての事で胸が熱くなる。


そうか。

私、嬉しいんだ……。


「次の方、どうぞー」


「は、はいっ!」


遂に私達の番が来た……!


やばい!

目の前に推しがいると思うと……!

あぁ……緊張してきた……!


「今日は来てくれてありがとね~!」


「こちらこそ、SunRiseの皆さんとお会いできるなんて……感動で涙が出そうです……!」


「あらら~!そこまで言ってくれると、こっちも嬉しすぎる~!!」


推しの笑顔尊い……!

もう死んでもいいかも……。


「名前は?」


「ふっ、冬城唯月ですっ!」


「彼氏さんは?」


「かっ、彼氏!?じゃないですけど……///俺は、天海朝陽です!」


「あれっ、まさかの彼氏さんじゃなかった!?ごめんごめん!」


「いえ、むしろ嬉しかったです!」


「おぉ……!朝陽君、なかなかやるねぇ!」


……え?


今、天海君は何て言った?

嬉しい?

どうして?


「いつか彼氏になるつもりなので!それと、さっきSunRiseの曲を聴いたばっかなんですけど、マジでよかったです!もうめっちゃハマりました!!」


「それは良かったぁ~……唯月ちゃんも、ありがとな」


「へっ!?は、はいっ!」


急に名前を呼ばれたものだから、心臓飛び出るかと思った……。

箱推ししている私にとって、皆に会えるのは嬉しすぎる……!


「あのっ!握手してもらっても……いいですか?」


「もちろん!はい、ど~ぞっ!」


手をギュッと握ってくれた。


これが握手会。

夢にまで見た瞬間。

……幸せすぎて死にそう。


「勿論、朝陽君もだよ!」


天海君も嬉しそうだ。

こうしてみると、天海君を連れてきてよかったのかもしれない。

SunRiseの良さを分かってもらえたし、それに……。


いや、何でもないっ!!!意識なんて、絶対しないんだから!!


「俺、朝陽君と会った事あるような……気のせいかな?」


「……あー!思い出した!」


「確か朝陽君、この前助けてくれた子だよね!」


……え!?

どゆこと!?


「多分そうです!まさかここで再会できるとは……無事でよかったです!」


「えっと……?」


「詳しい事はまた話そう!はい、俺等の連絡先」


SunRiseが、天海君に連絡先を教えているだと……!?

ファンの私が知らない間に、一体何があったのだろう。


「特別に、唯月ちゃんも交換する?」


嘘やん……。

マジで言ってんのぉぉぉぉぉぉぉぉ!?


「ぜ、ぜひっ!お願いします!」


やった……!

憧れのグループ、SunRiseと連絡先交換!

……待って、まだ信じれない!

え、これ夢じゃないよね!?


「これからも応援よろしくね!」


「「はいっ!」」


混乱しながら、会場を後にする。


「いやぁ~凄く楽しかったね!!」


「う、うん……」


「どうしたの?」


「本当に……信じられなくて。夢なんじゃないかって……」


「俺がいるんだから夢じゃないよ!ほっぺつねってあげよっか?」


「結構ですっ!」


ドキドキしながら、LINEを開く。

……やっぱり夢じゃない!


「……冬城さん」


「何?」


「俺、SunRiseに嫉妬した」


「え?」


「だって、あんなに仲良くなるなんてずるいじゃん!それに、握手もしてたし……」


「そりゃ握手会だからね……」


天海君は何を言っているのだろうか?

意味が分からない。


「彼氏面しちゃうけど……冬城さんに触れたのが嫌なの!!1番は俺だから!!」


「……はぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


「というわけで、手繋ごう♪」


「……はっ!?ちょっ……!!」


腕を掴まれ、天海君は歩き出す。

手を繋がないのは……もしかして私の事を考えて?

……何て思ったり。


「離してっ!」


「やーだ☆」


「やーだじゃなくて……!」


「……」


人気のない路地に着くと、腕を離してくれた。

……が。


「俺は諦めないからね。絶対に振り向かせてみせる!」


「っ……!」


顔が近い……!

これが有名な壁ドン……!?

真剣な眼差しに胸が高鳴る。


いーや!

私は、こんな事で気持ちは揺らがないね!!

ドキドキもしないね!!


「覚悟しろよ?」


いつもと目つきが違って。

雰囲気も違って……。


「……上等じゃん」


「……!?////」


壁ドン返ししてやった。

……されっぱなしで身が持たないとかじゃないし!

好きでも何でもない!!


「冬城さんのそういうところ好きだわぁ~……ますます惚れた!」


「はいはい……」


「じゃ、そろそろ帰ろうか!送っていくよ?」


「ありがと」


「電車じゃなくていい?」


「ん?電車じゃないと帰れないよ?」


「走って帰ればいいんだよ!」


「……はっ!?」


「ほら、掴まって!」


「ちょっと!?」


逃げようとした時にはもう遅く、お姫様抱っこされていた。

……え!?

お姫様抱っこ!?


「冬城さんと一緒に帰れるし、体力つくし、筋トレできるしで一石三鳥!」


「いやいやいや!普通に歩いて帰るから!降ろせぇぇぇっ!!!」


「遠慮しなくてもいいのに~!」


「全力で遠慮させてもらうわぁぁっ!!」


「あははっ!」


「笑い事じゃないから!!」


もう!

どうしてこうなったの!?


「あらあら、若いわねぇ~」


「何だあれは……」


「ママー!あれなにー?」


「さぁ……?」


ですよねー。

天海君のせいで、私まで変人扱いされてるじゃんかっ!


でも、不思議と悪い気はしなかった。

寧ろ……。


「天海君」


「何ー?」


「……色々と、ありがとね」


「……!俺の方こそ!よぉ~し、スピード上げちゃうぞぉ~!」


「やめろぉぉぉぉぉぉぉ!!」


こんな青春も良いのかもしれない。


こうして、波乱万丈な握手会が終わったのだった。

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陽キャ君と付き合うもんか!! 時雨 奏来 @suitti

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