陽キャ君と付き合うもんか!!

時雨 奏来

第1話 何でこうなった!

「俺、冬城さんの事好きだわ」


「……は?」


「だから、冬城さんの事が好きなんだって!俺と付き合ってよ!お願いっ!」


私はこの状況を理解できない。

まぶしすぎるこの陽キャが私の事を好き?

もしかして罰ゲームの餌食にされてるの?


「…………」


私は返事に困っていた。


……今までこんな経験一度もなかったんだよ!?

どうすればいいのか、本当にわからなかったのだ。


まあ、後で振られるだろうし……断っておくか。


「ごめんなさい」


くるりと背を向け、その場を去ろうとする。


……が。


「何でぇぇぇぇぇ!!」


そう言って、陽キャ君……本名、天海 朝陽(あまがい あさひ)は私にしがみついてくる。

ついでに言うと、私は冬城 唯月(ふゆしろ ゆずき)と言う名前である。


「天海君はまぶしすぎるし、罰ゲームかなんかで告白させられたんでしょ?」


「ちげーから!!」


「なら、なんで私なわけ?」


「一目惚れしたからだよ!ずっと気になってたけど、今確信に変わった!俺はお前が好きなんだって!」


「…………」


えっと……。

つまり、あれですか?

罰ゲームでもなんでもなく、本気で告白してるってことですか?


「じゃあ、せめて連絡先交換しようぜ!」


「嫌だ」


「即答かよっ!?」


だって、絶対に面倒くさいことになるじゃん。

それくらいわかるよ。


「とにかく、無理なものは無理だから」


「……ふっふっふ……俺にはまだ秘策がある」


何だ!?

秘策って何だよ!?


そう突っ込んでいる内に、天海君は動き出す。


……ん?


両手を広げて、私を中心に回っている……?

コンパスかよっ!


って重要なのはそこじゃない。

天海君の動きが速すぎて出られないのだ!


「俺の必殺!『恋の円舞』を見せてやるぜっ!!」


はぁ~……。

もう意味わかんない。

情報量多すぎ。


……天海君ってこんなに変人なんだ。

初めて知ったよ。


「さぁ!観念するんだな!」


「……」


「ほら、スマホ出して!」


「……」


「早くしないと俺の想いを伝えきれないぞぉ~♪」


「……」


「おいっ!せめて返事くらいしてくれよ!」


「……私、この後用事あるから。早く帰りたいの」


「用事って何!?俺の告白より大事なのっ!?」


「100倍大事」


「マジかよっ!?」


そう、この後は……私の推しが行う握手イベントがあるのだっ!!

1か月前から楽しみにしてたんだよ?

告白は嬉しいけど、この機会を逃すわけにも行かない。


「これから推しの握手会イベントがあるの。これだけは外せないから」


「じゃあ、俺もその握手会イベントに行く!」


「……え?」


諦めてくれると思いきや、まさかの返答。


どうする!?


天海君がついてくるのはちょっと厄介だ。

私の本気メイクも見られるわけだし。


「お願いだってぇぇぇぇぇぇ!」


そう言ってまたしがみ付いてくる。


はぁ……仕方ないか。


「……分かった。今回だけね」


「マジっ!?!?よっしゃ!!」


「ただし、条件があります」


「何々?」


「絶対に私に話しかけないこと。わかった?」


「もちろん!」


よし。

これで邪魔されなくて済む。


……犬みたいだな。

これが犬系男子って奴かっ……!

何か可愛いかも。


「そうと決まれば急ごうぜ!」


「ちょ、待ってよ!」


こうして私は、陽キャ男と推しの握手会へ行くことになった。


「ねぇ、本当に待ってってば!」


「あ、ごめんごめん!ついテンション上がっちゃって!」


そう言って、満面の笑みで謝ってくる天海君。

天海君の足取りはとても軽かった。


まるでルンルン気分。


私にはわからない感覚だけど、きっと天海君は楽しいんだ。


「私は準備しないとだから、ちょっと待ってて」


「はーい!」


校舎に戻り、女子トイレで準備する。

誰も来ないことを願いながら。


……メイクもばっちり決めて、ウィッグを被る。

ウィッグは巻いてあるし、被るだけだから超簡単。

服も着替えて、推しに会うための私が完成!


「お待たせ~」


「冬城さんの事考えてたら一瞬だったよ~!……って……」


天海君は固まる。


「可愛すぎんだけど……////まさか、俺の為?」


「違う!推しの為」


「うぅ……分かってはいたけど、実際に言われるとダメージ来る……」


「ごめんって。でも、この姿を見せるのは天海君だけだよ?」


「……!?それは反則じゃん……///」


天海君は、その場にしゃがみ込んでしまった。

具合でも悪いのだろうか?


「じゃあ、とにかく急ごう!」


「……手、繋いじゃダメ?」


「ダメ」


「くぅ~~!!そこも冬城さんのいい所だよね☆」


何だよ『いい所だよね☆』って。


天海君のメンタルは鋼でできているのだろうか?



それからもコントのような会話を続けながら、会場へ向かう。

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