第12話 狭間のロンド 5

 トアンは未開封のラムネのビンを持つと、なんとか開けようとクルクルと回し、悪戦苦闘している。そんな様子にちょっと可愛く、ちょっとかわいそうと相反する気持ちになった。


「貸な。トアン」


 そこで俺はそのラムネを開けようとリュックからハンカチを出し、俺が座った席にラムネのビンとハンカチを置き、俺は床に腰を降ろした。そして、おっちゃんがやった通りにやると透明なビー玉が窪みに落ち、ビンの中でシュワシュワと弾けた。


「ぅお〜」


 トアンもいつの間にか俺と同じように床に腰を下ろしており、俺が開けたばかりのシュワシュワと弾くラムネのビンに、目を輝かして見ている。ラムネが落ち着くとハンカチで飲み口を拭き、トアンに渡した。


 ハンカチで手を拭きながらトアンの様子を見ると、ビー玉が引っかかってうまく飲めないようだ。俺が飲んで見せればいいんじゃないかと思い、席の端に置きっぱなしの飲みかけのラムネのビンを持ち、また席に座り直し、飲もうとする。


「トアン、見てみろ。この丸っこいのはわかるか?」

「うん、これだね」


 この丸っこいのは、俺が鼻を摘んでいると見えた場所だ。もちろん、トアンには言うつもりはない。


「この丸っこいのを自分の方へ向け、傾けて飲むんだ。あんまり傾け過ぎると塞がっちゃうからな」


 トアンは俺の言う通りにして飲んでいるようだ。さっきとは違い、うまく飲めているようだ。


 実は、おっちゃんがラムネの開け方の次に教えてくれた飲み方のレクチャーをそのまま言っているだけだ。というより、ほぼ強制的に教えられたといってもいい。


 トアンに誘われるように俺も一緒に飲んだ。最初の一口飲んだときと味は変わっていなかったが、一緒に共有した空間が溶け込んでくるのだ。透明で爽やかなラムネをさらに引き立てるように。


 案外、おっちゃんが言ったことは正しかったかもしれない、贅沢だと。そう思っていると、遠くから何かが聞こえ始めた。

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