最終話 ラストレッスン
それから色々なことがあった。
ひとり国語教科書世界に残り、魔教科書王に敗れたケンは理科の力で改造手術を受け、謎の仮面サイボーグとしてと生まれ変わった。体内に埋め込まれたアルコールランプ機関を用いた水中置換法で分離した酸素を爆発的に燃焼させるビームが必殺技である。これはすごく熱い。
しかし、理科の力は決して、破壊をもたらすものばかりではない。動植物の飼育を介して、生命の不思議や素晴らしさを学ぶためのものでもあるのだ。改造手術の時に何かの手違いで混入したアサガオの種がここぞという場面で芽吹き、サイボーグとして無機質になったメカ・ケンの心へ、彩りを取り戻したのである。
戦いの舞台は様々なマルチ教科書バースへと移行していく。
音楽教科書世界では、伝説のリコーダーセーバーを追い求める冒険が繰り広げられた。全国の男子小学生による、縦笛を剣に見立てたチャンバラでの戦いを勝ち抜いた最強の武器である。タンギングの呼吸から繰り出される音色の刃は、音楽室に飾られれている肖像画から這い出てきた鬼バッハや鬼モーツァルトなどの音楽鬼を悉く斬り倒した。
そして、それぞれの教科書世界では、それぞれの教科のイメージを体現した男女のペアが登場するという法則も明らかになった。ケンとメアリー、たかし君とゆみこちゃん……。それぞれの教科書をモチーフにした美男女が次々と登場していくというコンセプトは最初に提示しておけばもうちょっと何とかなったかもしれないが、もう手遅れである。
因みに理科世界では、メスガキマッドサイエンティストが活躍した。
ケンを改造した張本人である。ジキルとハイドばりに二重人格だったので、善なるメスガキの方が、朝顔の種をメカ・ケンに仕込んでおいたのだ。
そんな感じの話が延々続いたあと、各教科書の力を結集した聖教科書神と魔教科書王の最終決戦が始まった。その激しい戦いは、マルチ教科書インカージョンを引き起こした。このままでは全ての教科書時空がごっちゃになってしまう。例えば算数の教科書に記載されている式が、りんご+走り幅跳びになってしまったりする。答えは走りんご幅跳びだ。
その着地点に敷き詰められている塩を60℃の湯で溶かしたもので描いたト音記号は、何を思うのだろう。地図で感想を述べなければならなくなる。そんな世界になってしまう。やばい。
だがまあ、そうならなくてよかった。
なんやかんやでケンたちは活躍して、収まりの良い形で解決したのだ。
どんな形でも、とりあえず終わりだと宣言してしまえば終わりなのである。
終わりを自分で決められる。
物語はそういうものでいいのだ。
おわり
英語の教科書のケンとメアリーが時速80kmで走ってきたトラックに轢かれて異教科書転生 ~この時に受けた衝撃を求め、トラックの気持ちを答えよ~【一話1000文字】 Shiromfly @Shiromfly2
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