#14「更なる異教科書世界へ」
グオオオオー!
ドガバコグシャン!ドゴドゴゴン!
野獣の咆哮じみた疾走音を轟かせるトラックに、様々な種類の車が冗談の様にぶっとばされていく。
脱炭素を謳う一部の環境保護原理主義者にとっては夢のような光景だ。大気汚染を広める悪魔など全て滅びてしまえ!あと車を所有する経済的余裕のない若者たちにとっても胸のすく光景である。富裕層の所有物が次々にぶっ壊れていくのはメシウマ!更にファミリー向けのRV車がぶっとんだところでは、幸せな家庭に独善的な妬みとルサンチマンをこじらせている独身男性が大喜びだ。家族でニッコニコ笑いながらドライブを謳歌するCMを観るたびに沈んだ気分になっちゃうひとたちだ。
つまり何が言いたいかというと、何らかの破壊、崩壊シーンにある種の恍惚感を感じるのは社会構造や人間関係へのコンプレックスの露出であったり、または衝動の解放を感じさせたり誘導させる機能を持つ錯覚であるし、もしくは単に「見せ場だから入れとかないとね」程度のサービスかもしれない。
そんなことはおいといて。
ケンの運転するトラックは、みるみる魔教科書王に迫ると。
ズガン!
ズガン!
ズガン!!
三つのカメラによるマルチショットで、直撃の激しさとカタルシスをキメた!
―—と思いきや。
「ふ、ふふふ……」
なんと魔教科書王は片手で十数トンもあるトラックの直撃を止めていた。すごい。
ケン:「そ……そんな!ありえない……」
ケンは唖然としたが、簡単には諦めない。びっくりして絶望したフリをして見せておいてから、もう一度アクセルを全開で踏み込む。
「ふ、ふふふ」ダメだった。
ケン:「そ、そんな」
ケンは悟った。自分達では魔教科書王に勝てない。タカシは悪堕ちしかけているし、メアリーやユミコやキサキは国語亡者に捕まってあんな感じになってるし。もう打てる手は――。
ケン:「いいや、まだです!」
アップになったケンの手がガコガコッとギアチェンジ。トラックのどっかから「バックします。バックします」の音声。重量級のトラックはゆっくりと後退し始めた。
「まだ判んないのかなー。何度やっても無駄だよ。頭の悪いやつは嫌いなんだよね僕は」
ケンの行動をへらへらとせせら笑う悪教科書王は、しかし次の瞬間、驚いた。
ギュキキキ!
急発進したトラックは、魔教科書王とは全く別の方向に走り出したのだ。
ケン:「こうなったらこの手しかありません!」
ハンドルをぐるぐる回して狙いを定めたケンは、まず手始めに、一番手ごろな距離で動けずにいた、たかしくんを撥ねました。魔教科書王が無理なら、味方を轢いて別の異教科書世界へ転生させればいい。それがケンの思い付きだった!
トラックの直撃を喰らったたかし君の身体が光の粒子となり、霧散した。
「!!」
ゆみこちゃんとキサキも驚いた。
回りの国語亡者たちも驚いた。
「何考えてんだこのバ」ブオオオオーー!
突然のことに混乱したキサキもゆみこちゃんも、周囲の国語亡者のせいで満足に動くこともできず、屯する国語亡者たちごと轢かれ、姿が消えた。
「!!」
そして、ちょっと遠くにいたメアリーと、彼女を捕まえていた国語亡者たちもびっくらこいていた。
「に、逃げろ!逃げろー!」
国語亡者たちは口々に叫び、三々五々、散り散りになって逃げていく。
メアリー:「わ……私はケンの決断を支持します。これはよくある展開です。この場では突飛な決断に見えても、後々『こうしておかなければならなかった』という理屈と結果が提示されるはずです。だから私は、それを信じて受け入れる……NO!やっぱりダメです!普通に怖い!」
全速で迫ってくるトラックの圧力は勿論のこと、それを運転するケンの引きつった笑顔と血走る眼に狂気を感じたメアリーは、恐れをなして逃げ出してしまった。
逃げるメアリー。追うトラック。
世界はスローモーションになった。
BGMはホイットニー・ヒューストンの「I will always love you」。
♪エンダアアアアアのやつと言ったほうが早いやつだ。
逃げるメアリー。追うトラック。
メアリー「ノ オ ー ! ケ ン 。 ノ オ オ オ オ!」
スローのせいで野太くなった絶叫をあげるメアリーの顔はとんでもない形相になっている。ただゆっくりになったおかげで、メアリーはある程度考えることも出来た。
――私たちを全員轢いて、その後ケン自身はどうするの?
ケンは覚悟したのだ。自分は一人この場に残されて、魔教科書王の手に掛かったとしても、仲間を逃せればそれで良い。私達がいつか魔教科書王を上回る力を手に入れて、倒せれば良い。そう託したのだと……。
メアリーも覚悟を決めて、ゆっくりとUターンした。
「ケ ェ ン! I will always love you!」
で、ちゃんと挿入歌通りの台詞を叫んで、筋を通し。
バチゴン!
全速力でトラックと正面衝突して。別の異世界へと飛んだ。
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