開戦
「だからぁ、中津さんの母乳を社長と梅田が狙ってるって言ってたんですよ!」
早速合流して、一息に伝えた谷町の必死の説明は、事実の奇妙さが際立って、酔っぱらいの戯れ言のようにしか響かなかった。
「最近乳首がかゆいんだよね!おれも母乳出るんじゃないかな!」
「キッショっ。」
谷町は悲しくなった。
塚本の茶々にはムカついたが、海老江の一言には心に来るものがあった。
「だって…先輩…あんなボロボロになって、それでも俺に伝えてくれたもん…」
谷町は今日一日で色々ありすぎて、泣きそうになりながら吐き出した。
「友勝、キモい。谷町くん、中津くんはどんな状態だったの?」
「おっきな怪我はなかったんですけど、あちこちすり傷だらけで、昨日着てたスーツもスソとかボロボロになって満身創痍って感じで気絶したんです。」
海老江は考え込む。
革命…社長の態度…エターナルフォース………母乳…
「エビ、そおいや俺最近ほんとに胸が張ってきてるんだよね。ほら!」
「友勝だまれや。なんか繋がりそで繋がらへん。」
碇ゲンドウばりに居酒屋の机に両肘をついて小さな頭を支えている海老江理沙はドギツい関西弁で静かにつぶやく。
海老江の関西弁に谷町はまた心動かされた。
「梅田静香の会社なんてゆったっけ友勝、スーパーハイパークリエイターみたいな、んなんな…」
「ハイパーメディアソリューションな。本町にあるコンサルらしいよ。」
「友勝そこの情報どれだけ知ってる?」
「ん〜、中小向けのDXコンサルで、そんな規模デカくないくらいしか分かんないな。」
「谷町くん、経理の桃谷ちゃんと仲良かったよね?うちとハイパーメディアソリューションの注文書とか見れる?」
「あ、桃ちゃんもう別れたんすけど…まぁいけますね。」
「付き合っとったんかい!あと梅田静香のSNSとか調べといて。あと中津くん目が覚めたらすぐに会いに行こう。
友勝はハイパーメディアソリューションの実績とキャッシュフローとか調べれる?向こう三年くらい。」
「商社マン舐めんなよ!丸裸にしたるわ。」
島根出身の友勝も何故か関西弁で答える。
「あとは…」
海老江はテーブルの中ジョッキを手に取り半分くらい残った中身を一気に飲み干し、ドンと置いた。
いつもクールで小柄な海老江から、いつも以上に迫力が出ている。
室内なのに隙間風が吹きすさびコートが脱げないほど寒い鳥平民の店内で、一際うるさいテーブルに視線が集まった。
海老江は完全に目が座ってた。
谷町は目が離せなかった。
好きな女性のタイプの新しいドアが開いた気がした。
「最近おもんなかったしなぁ、退屈しとってん。ちょうどええタイミングでおもろいこと始まりそうやんけぇ!
友勝!谷町!中津こんなことにしたやつ徹底的に見つけ出して落とし前つけさせるで!
おっちゃんお勘定して!」
「よっ!エビちゃん!商社マン舐めんなよー!」
ものすごい巻き舌で店員を呼び出して、ワリカンを終え、店中の視線を引き連れたまま、鳥平民を出る。
まるでアベンジャーズのように三人は並んで無言で歩いた。
冬のビル風も海老江理沙の酔って赤くなった頬を冷やすことは出来なかった。
「推せる…推せるわ…」
一人になった谷町は興奮冷めやらぬままポツリとつぶやいた。
全然食べてもないし呑めてもなく、いきなり解散となったけど、そんなことは全然気にならない谷町であった。
続く
株式会社四足歩行 牧場 流体 @liftdeidou
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。株式会社四足歩行の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます