錯綜

「年始の雰囲気好きだわ。何かリセットしてやるぞーって感じがするんだよね。」

「あんた去年も2月まで同じこと言ってたよ。結局去年の案件終わってないし。なんで友勝は社内だとデキるやつみたいになってんの?」

塚本友勝はほろ酔いで下を向き、ため息とともに勢いよくアイコズの煙を吐き出した。


 ここは海老江と塚本が週三で通うチェーンの居酒屋 鳥平民である。

焦げた焼き鳥に生ビール一杯199円というこの界隈では破格の価格設定で、オフィス街の底辺サラリーマン憩いの場所と化している。

 空のジョッキを集め散らかったテーブルで、今日も塚本と海老江は晩ごはん兼晩酌をしている。特に決まってないが、入社の時から続く腐れ縁の宴である。


「エビも革命つけてるの?」

「着けるわけ無いでしょ。パソコン使えないわ。ホント企画で良かったわ。」

「でも、天満で売れそうだったよ。社長の足は四本ある話ししたらさぁ、ビジネスの本質をついとる!とか言われた。見積もり送っといたわ。」

「いいじゃない、話が通じるアホがいて。もうサプライヤーに発注してるし、天満が買わなきゃ在庫の山ね。終わってるわ。」

「やばいな~」


 二人の会話に色恋など無い。

塚本は遊びに忙しく、海老江は塚本の変人っぷりが面白く、二人ともその空気感が好きだった。社会に出てからできた友達はこいつくらいだ、と口には出さないがふたりとも思っていた。


「そういや革命って社長の案件?」

「よくわかんない。でも梅田って人が関わってる気がする。」

少し考え込むように海老江は答えた。

「あの二人怪しいよな!社長もなんか梅田さん来ると変だし、目がギラギラしてるっていうか、なんか餌狙ってる犬みたいな感じするよ。実際四足歩行だし!」

塚本は思い付くままに喋ると勝手に笑い出した。


「友勝はバカなのにそういうとこ鋭いよね。この前二人でいるところに日報渡しに行った時ちょっと変だったの。」

「なになに?やっぱりデキてるの?おれ全然タイプじゃないけどな。もうちょっと筋肉が欲しいっていうか大きさが欲しいっていうか、」

「キモっ、その時何か立場が逆転してるっていうか、うちがクライアントじゃん?でも私が入るときに社長が何かお願いしてた。」

「何を??」

「エターナルフォースを、くれる?とか聞いてたんだよね」

「何それ?中二病かよ!」

あの時海老江は部屋に入る時、気になってドアの外で少し中の様子を伺っていたのだ。



『いや〜参ったっすよ〜、すいませーん、ナマ下さい!』

八時を少し回った時、谷町がやっと現れた。

午前中は中津の緊急入院に連れ添って病院で諸々の手続きに追われ、帰社したら会社への説明で今日一日仕事をしていないのに、クタクタに疲れていた。席につきせきを切ったように喋りまくる。

「結局社長が事件性はないだろうって、警察に届けなかったんすよ。先輩あんなボロボロになって、絶対なんかあったはずなのに。」

谷町がしゃべくる間に秒で生ビールが出てくる。

この店は注いだ状態でストックしているのだろうか?と疑うような早さだ。

「谷町、お疲れだったな!とりあえず今年もよろしく〜カンパーイ」

「友勝、もういいから!それより中津くんは何で倒れてたの

?」

「いや、それが先輩まだ意識が戻って無くて…」


「そんなにヤバいのか?!」

塚本が心配する。

「大きな怪我とかもなくて、今は疲労で眠ってるだけらしいです。なので何も分からずじまいです。それに何か今日忘れてる気がして…あ…!」


「コーヒーだ!あと先輩の母乳?」


海老江の小さく美しい顔の眉間にシワが寄った。塚本は新しいアイコズをセットしてる途中で仰け反って笑い出した。



〇   〇   〇




 一方病院では、真っ暗な部屋の中で中津がムクリと起き上がった。生気のない、偶蹄類のような無感情な瞳で手元で何かを探している。

傍らに置かれていた革命をやっとみつけ、おもむろに前足を通した。



続く

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