沼らせるって、どういう事?

maris

第1話

 ある日、見知らぬ森の中で

 見知らぬ池に足を踏み入れてしまった私

 そこが恐ろしい沼とも知らず


 一歩一歩踏み出すごとに

 ずんずん脚が嵌まっていく

 身の危険に気付いたけれど

 時既に遅し


 前に進むことも、後ろに戻ることも

 出来なくなっていた

 まとわりつく泥を払い除けようとして

 踠けば、踠くほど

 深みに嵌まるばかり

 身動き出来ない私に

 重い泥がのし掛かる

 泣き叫びたいけれど

 もう苦しくて息することも出来なくなった


 そして、そのまま

 堕ちる、堕ちる

 どんどん堕ちて沈んでいった

 ──────底なし沼へ



 ************************



 ある日、僕はふと思った。

 人が人の沼に堕ちるってどういう事かと。

 どうしても知りたくなった。そして確かめる為、選んだのが僕の愛する彼女だった。

 僕の気持ちに気付いて振り向いてくれた人だ。

 でも僕の方が不利な立場にいた。だから沼らせたいと思った。

 僕は試行錯誤しながら、実際に試してみることにした。


 そう、時には甘~言葉を耳元で囁き、擦り寄ってきたら、今度は冷たく突き放す。

 つまりは、ツンデレというやつだね。

 それを何回も繰り返すんだ。

 最初はね、突き放なしてしまったら、逃げられてしまうのではないかってビクビクして不安に思ってたんだ。

 けれど、実際にはそんなことはなかったよ。冷たくしたことで甘い囁きがより一層の効力を発揮した所為か、彼女は全く僕から離れようとはしなかった。むしろ僕の事が前より好きになったように感じた。


 僕は確信したよ。


 僕の方が彼女に夢中だったと思っていたけれど、その立場が逆転してるってね。

 でも、それだけじゃ沼とは言えないんじゃないかと考えていたら、あることを思い出したんだ。


 人はライバルが出来ることで競争心が生まれ、燃え上がるということ


 もしかしたら、これを利用出来るのではないかと思って試してみることにした。

 何をしたかって?

 アハハ、そんなに難しいことじゃないさ。


 ただ、他の女の子に興味を持って関わる、それだけ。

 だからと言って、たくさんの女の子じゃ駄目で、たった1人。

 出来れば僕に気がありそうな娘がいい。彼女にライバルを作ってあげればいいんだ。

 そうすることで、彼女は僕への愛情を勝手に高めてくれるんだよね。

 そして、上手くいけばそのもう1人の娘だって、ライバルがいるからもっと僕に夢中になるのかもしれない。

 僕としたらまさに一石二鳥で嬉しい限りだね。



 堕ちろ、堕ちろ、どんどん堕ちろ。



 いくら踠いたところで、もう抜け出せないよ。

 僕は君の心をしっかり掴んでいるからね。

 それは、まるで蟻地獄のようなものだ。

 踠けば、踠く程、ずるずる引き摺り込まれる。

 もう無駄な抵抗は諦めて観念するがいい、君は、僕の餌食になるしかないんだよ。

 そして、息が出来ないくらい苦しくなる、もう僕なしでは生きてゆけないんだ。



 もしかすると、沼に堕ちるって、こういう事なのかな?

 彼女は僕に夢中なっているように思えた。彼女を沼に堕とせたのかもしれない。そう思ったら、なんだか凄く愉快になってきた。



 ふふっ、

 僕は君を骨の髄まで、むしゃぶりついてあげるからね。

 そうしたら、君と僕は一心同体だよ。

 君は僕の中で生き、また、君の中では僕のコピーが生まれ、僕の事を永遠に手に入れ

 ることが出来たんだ。


 あぁ、僕は君を幸せに出来て嬉しいよ?


 君も勿論、そう言ってくれるよねっ?

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