EXエピソード・短編集

EXエピソード1・聖夜の珍事

※今回のは試験的な短編として、台本形式となっております。

 場合によっては本編内に組み込む形で、後から削除する可能性があります。






 12月24日の夜……。


 いつもの私服やメイド服ではなく、サンタ衣装(女性向け・露出少な目)に着替えた五丈姉妹と尚人はリビングでパーティーを楽しんでいた。

 夜9時を時を過ぎてそろそろパーティーそのものはお開きになり、全員が入浴を済ませた後の事。


麻子「そうだ、未千翔がアンタに渡したいものがあるって言ってたんだ。準備してきた?」


未千翔「あ゛っ、パーティーが楽しくて今の今まで忘れてた……。わ、私取りに行ってくるね!」


麻子「忘れてたんかい!!……ってもういないし。悪いけど尚人、ちょーっと待っててくれる?あの様子だと時間かかりそうだわ」


 素早く退室していった未千翔を追いかけるように、同じく退室する麻子。


尚人「時間かかりそうって……ブツ自体まだ用意してないとか……いやさすがにそれはないか。とりあえず言われた通りに待っておくか」


 慌ただしくリビングを去った姉妹を見送り、大人しく待つ事にする尚人。





麻子「ふーっ、危ない危ない。……それで、本っ当にやっていいのね?一度手順を始めたら、もう途中でキャンセルはできないわよ」


未千翔「大丈夫だよ、事前に準備はきっちりしてきたし覚悟も出来てるから。さ、時間もあまり残ってないから早くお願い」


麻子「……ああ、もうこれ以上は何を言っても聞いてくれそうにないわ。ならお望み通りにしてあげるわよ、『人間抱き枕』にね」


 説得を諦めた麻子は緑色の縄束を取り出し、既に両腕を後ろに組んで準備していた未千翔に縄を掛けていく。

 どうやら発言内容から察するに、未千翔は自分自身を抱き枕化して尚人にプレゼントするという狂気の企てをしていたようだ。


未千翔「んっ……最近お姉ちゃん、力強くなったね。毎日鍛えてる成果が出て着てるのかな?」


麻子「まあそれはあたし自身も感じてた。継続は力なりって言うけど本当にその通りね、前は持てなかったちょっと重いモノも持てるようになってきたわ。……どう、痛くない?」


未千翔「痛くはないけど、少しだけ絞めつけられている感触はあるかな。まあこの位だったら一晩耐えきれそう」


麻子「一晩耐えきる事を大前提にしているのが正直怖いわよ……。はい、次は足首やるから」


 手早く上半身の縛りを終えた麻子。なぜ此処まで手際が良いのかと言うと、正規メイドになるまでの間に履修した訓練の賜物と言うしかなかった。

 今まで使う機会はなかったのだが、実践使用の第一号が実の妹になるとはさすがに予想すらしていなかった。


 ちなみに、以前習得した拘束魔法を使うという手もあったが、これは生成した縄の色指定が利かないので没となった。


未千翔「おお、結構ギチギチでもう殆ど動けない!これで縛りは完成として、後はその上からシーツを被せてもらえれば……」


麻子「そこまでやると、完全に簀巻きじゃない!……まあ、もうここまで手伝ったからには最後までやるけど」


 未千翔の首から下、足首までを覆うシーツを被せ、脇付近と膝付近を別の縄で巻き付ける事によって未千翔の望んだ『人間抱き枕』計画は完成した。麻子は未千翔をベッドに寝かせ、布団を首筋まで被せる。


麻子「それじゃああたし、尚人呼びに行くわね」


未千翔「うん、わかった。今回は協力してくれてありがとう」


麻子「最初はどうしたものかと思ってたけど、やってみると結構楽しかったわよ。呼ぶのが終わったらあたしはそのまま部屋に戻って寝るから、せいぜい後は楽しみなさい」


 本来は尚人のものであるベッドに身体を埋めた未千翔に見送られ、尚人の部屋を後にする麻子。少しの間わくわくしていた未千翔だったが、すぐに後ろ手に回した両手首が仰向けの状態では負担が大きい事に気付き、やむを得ず横向きの体制に変更するのだった。





 20分以上経っても未千翔も麻子も戻って来ず、退屈になって来た尚人はテーブルの上に散乱していた食器を台所に移し、全て洗いきっていた。

 そのまま食器棚への片付けを検討し始めた頃、リビングの扉を開けて麻子が戻って来た。


麻子「待たせたわね、ようやく準備が整ったみたいよ。色々あってこっちも手伝う事になったから、時間かかっちゃったわ」


尚人「そうか、よくわかんねぇが大変だったみたいだな。待っている間は暇だったから、久しぶりに食器洗いをしといたぜ。未千翔が来る前日以来だから、2カ月半ぶりだな……」


麻子「あたし達姉妹が来てから、もうそれだけ経つんだ。早いものね……、って今はその事はいいの。尚人の部屋の中で未千翔がプレゼントと一緒に待ってるから、出来るだけ早く行ってあげて」


尚人「わかった、それじゃあそうさせてもらうか。麻子はこの後どうすんだ?」


麻子「あたしは……少々眠いから、もうこのまま寝る事にするわ。未千翔の方は目がギンギンに冴えてるみたいだから、後は二人で好きなようにしなさいな。それじゃあね」


 伝えるべき事を伝えきった麻子は、欠伸を押し殺しながら扉を開けてリビングを去っていった。尚人は食器を整えてその上に布を乗せ、これ以上埃が被らないようにしてからリビングを出て自室へと上がっていった。


 階段を上って自室に戻り、扉を開いた尚人だったが部屋の中には誰も見当たらない。


尚人(あれ、誰もいない……?ここで待ってるって麻子は言ってたが……)


 部屋の入口で未千翔を探すが、姿が見当たらない。どうしたものかと考えていると、


未千翔「ベッドは探してみた?」


 どこからともなく声がし、声の発生源はベッド内にいる事がわかったので尚人はベッドの前に移動した。すぐ近くに行くと、何だか妙にベッドが膨らんでいる……。


尚人(この中、だろうなぁ……)


 わざわざヒントまで寄越されたのだ、まずハズレと言う事はないだろう。意を決して布団を捲ってみると、そこには首から下・足首までシーツに包まれて脇元と膝元を縛られた未千翔の姿があった。


尚人「……何やってんだ、お前……。またいつもの自縛行為か?」


 今更な話ではあるが、未千翔は拘束願望をこじらせ過ぎて自縛にまで手を染めている。その根本は幼少期に読んだある絵本のワンシーン、そしてここまで昇華したのは正規メイドになるまでの間に受けた訓練の影響があった。


 今回もその一環ではないかと尚人は推測した、のだが。


未千翔「残念、今回は私自身でやった訳じゃないよ。全部お姉ちゃんにやってもらったの」


尚人「アイツもグルかよ!!……それにしても結構キッチリ縛ってあるな、だいぶ力ついたんじゃねぇか麻子は」


 縄の縛り具合が緩くないのを見つけ、以前は腕力・握力共に弱かった麻子がこの2ヶ月でしっかり鍛えている事を再確認するに至った。


未千翔「あと、シーツの内側も当然の如く……」


尚人「だろうな……。それにしても、そこまでして何が目的だったんだよ?プレゼントがどうとか言っていたのと関係あるのか?」


未千翔「勿論関係あるよ。だって、プレゼントは私自身なんだから」


尚人「は……?未千翔自身がプレゼント……?」


 話の内容がぶっ飛んでいて、ついていけない尚人。


未千翔「少し前にネットで見つけたんだ、手足を縛った人間を抱き枕にして寝てる画像を。こういうのもアリかなぁ、って関心しちゃって」


尚人「トンでもない画像見つけたなオイ!しかもそれを自分自身で実践するとか想像すらできねぇよ!!」


未千翔「それでね尚人くん、是非今晩は私を使って寝てもらいたいなって思ってるんだけど」


尚人「……未千翔を抱きかかえて、今晩は寝ろ……と?」


未千翔「うん、そうでなきゃここまでした意味がないよ。……ダメ?」


 上目使いで見つめてくる未千翔を正面から見てしまい、尚人は返答に詰まった。そして……。


尚人「……しょうがねぇ、身体を張ってまで準備をしたんだ。無下に出来る訳がないだろ!?望み通り、未千翔を抱いて寝かせてもらうぜ!!」


未千翔「ほんと!?ああよかった、断られたらどうしようって考え始めてたの。ささ、ベッドの中にいらっしゃいませ~……」


 自身の作戦が成功した事で満面の笑みを浮かべる未千翔。尚人は未千翔に誘われるままにベッドへと入って布団を被り、リモコンで部屋の電気を消した後に未千翔が望む通りに彼女を抱え込んだ。


尚人「見た目とは裏腹にシーツの内側は、結構ゴワゴワしてんな……」


未千翔「け、結構沢山縄が掛かっているからね。抱き枕は基本的に動かないからって事で手足共に縛ってもらったけど、想定以上に動けなくて見積もりが甘かったみたい……。布団の中で身体を横倒しにするのも一苦労だったわ」


尚人「ほぼ全身緊縛の状態だからそりゃ大変だろうよ……」





 尚人に抱きしめられる形となった未千翔は、顔を真っ赤にしながらもしばらくの間は尚人との会話を楽しんでいたがある時突然に尚人からの会話が途切れ、寝息が聞こえてきた。


 先に尚人が寝てしまったので未千翔も寝ようとしたが、すぐ目の前に尚人がいるという状況を嫌でも意識してしまい、長らく興奮状態が続き到底眠れるものではなかった。

 抱きしめられているのと縛られているのが相まって身体を動かして時間を確認する事も叶わず、未千翔がようやく眠れたのは朝日が昇る間際……翌日の午前6時前半になってからだった。


 それから約2時間後に目を覚ました尚人は、興奮しすぎで疲れて眠ってしまった未千翔の縄を、未千翔が目を覚まさないように気遣いながら解いた。


 未千翔を解放した尚人は部屋を出て階段を降り、リビングに行くと既に麻子が朝御飯を作り終えて待っていた。


麻子「あ、お早う尚人。朝食の支度が全く出来ていなかったから、あたしが作っておいたわよ。未千翔は……まだ寝てるの?」


尚人「お早う麻子、未千翔ならかなり深く寝てるぜ。目覚めた時の事も考えて、既に縄は解いておいたぞ。つーかあんな狂った発想によく付き合ったな」


麻子「『私一人じゃ無理だから手伝って』って懇願されてねぇ……。その様子だと、予想したほどお楽しみ……はしていないみたいね。せっかく色々お膳立てしたのに勿体ないなぁ」


 結構手が掛かったのに、とボヤきながらエプロンを脱ぐ麻子。あの後すぐに寝てしまったのは本当のようで、昨日着ていたサンタ衣装の上からエプロンを付けて朝食を作っていたようだ。


尚人「そうだ、昨日寝付くまでの間に未千翔と話し合ったんだけどな。昨日のお礼をぜひ麻子にはしたいと言う事で意見が一致したんだ。……つー訳で麻子、今晩はお前が抱き枕になる番だぜ」


麻子「え゛……?」


 麻子の顔から、血の気が引いたのは言うまでもなかった……。

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幼馴染のメイドと過ごす日々-おさメド!- yu-tomo @yu-tomosan

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